美容室の雰囲気をつくる音楽。有線放送、ラジオ、CD、なかにはレコードをかけているこだわりのサロンもあります。
独立してお店を構えることを“自分の城を持つ”と言いますが、自身でつくった居心地のいい空間で、好きな音楽を聴きながら仕事をできるというのは、美容師という職業の魅力のひとつではないでしょうか?
連載『Jobシンガー・missatoが行く』では、音楽が好きな美容師さんに、音楽や人生、仕事観についてお話しをうかがいます。
インタビュアーを務めるのは、働く人にインタビューして曲をつくり歌として届ける「Jobシンガー」のmissato(みさと)さん。
第2回は、東京・表参道の美容室「Velvet on the Beach(ベルベット オン ザ ビーチ)」の代表・桜井章生さんにお話を聞きました。
目次
- 「働く人に寄りそって曲をつくり歌います」
- ①美容師になったきっかけ
- 中途半端は嫌だった
- Velvet on the Beachの由来
- HAIR DIMENSION初の中途採用
- ②忘れられないお客さま
- 背中を押された一言
- 実体験だから言える美容師としての基本
- ③桜井さんの仕事観
- 技術力と人間力
- 戦友5人の美容師ユニット「中二会」
- 「武道館」にハサミを持って立つ
- 教育サロンという自負
- 意外と楽しかったなぁ
- ④仕事と音楽
- 「桜井印」の色っぽさ
- 音楽との出会い方
- 桜井さんにとっての音楽とは
- ⑤桜井さんの描く未来
- 自分の課題と外からの評価
- 表参道で「生涯顧客」を
- ⑥チョキチョキ切っても切れないもの
- ⑦おすすめの一曲
- 仕事が楽しくなる曲
- 若手美容師に聴いて欲しい曲、仕事がつらい時におすすめの曲
- 色気を感じる一枚
- 最高の一枚
- 取材を終えて
「働く人に寄りそって曲をつくり歌います」
こんにちは。Jobシンガーのmissato(みさと)です。
Jobシンガーとして、実際に現場を見学し、時にはいっしょに作業を体験し、自分でインタビューを行い、職業の曲をつくり歌う活動をしています。少しずつ曲数も増え、今は「美容師の歌」「保育者の歌」「タクシー運転手の歌」など11曲の職業ソングがあります。この活動を通して、「働くこと」を軸に、さまざまな価値観を学んでいきたいと思っています。
連載第2回は、美容室が密集している表参道エリアに2015年2月からお店を構える「Velvet on the Beach」。カミカリスマ2022にも選ばれた代表の桜井章生さんにお話を聞きました。
①美容師になったきっかけ
中途半端は嫌だった
美容師を目指した動機は、高校の同級生と組んでいたロックバンドを続けていくための予防線みたいなものでした。自分はバンドでボーカルをやってたんですよ。ライブのために遠征したり、オリジナル曲のデモテープとか作ってかなり一生懸命活動していました。
母親が美容師で、京都の実家では美容室をやっていたので、美容師になるって言ったらバンドを本気でやっていても親から文句を言われないだろうって思って美容学校に行き始めたんです。そしたら、ちゃんと美容師をやりたくなっちゃって。
母親の姿を見ていたのもあるし、美容師を本気で目指している仲間に感化されたのもあって、バンドはスパッとやめましたね。どちらも熱量高くやっていたから両立するのは難しいなって思ったし、当時は仲間内の趣味として音楽を楽しむのは嫌だったんです。結構尖ってましたね。
Velvet on the Beachの由来
共同経営で4店舗サロンを出しているんですけど、店名は大体俺が感覚的に決めています。
前にいた「HAIR DIMENSION」は大型店で、スタッフもお客さまもひっきりなしに人が行き来していたんです。なので、最初に出した「Hair Lounge BEACH」は、とにかくお客さまがくつろげる空間にすることだけを考えて、店の内装とか雰囲気を作りました。
イメージは目の前にビーチが広がっているリゾートホテルのラウンジ。名前もそのまま「BEACH」。ただ、友人とか常連の方には「桜井くんって海好きだっけ?」って言われていて。たしかに、嫌いじゃないけど、とりわけ大好きって感じでもない。
なので、次に店を出すときは、ちょっと自分の色をいれたいなと思って、「Velvet on the Beach」と名付けました。Velvetというフレーズは、僕が好きなかっこいい音楽の歌詞や曲名にも多く使われているし、素材感も色っぽくて好きなので、こちらも感覚的に決めました。
HAIR DIMENSION初の中途採用
ちなみに、HAIR DIMENSIONに入ることになったのは、僕の幼なじみのおかげなんです。
20代前半、京都で美容師をしていた僕は、東京の美容室に修行しに行こうと思って見学先を探していました。すでに東京に出ていた幼なじみに連絡すると、休みの日にビーチでサーフィンしている時にお世話になっている人が美容師だって言うんです。
その方が偶然、HAIR DIMENSIONの当時の店長でした。紹介してもらってからあれよあれよという間に、DIMENSION初の中途採用になりました。
当時の僕は、聖子ちゃんカットの生みの親だとか、有名サロンだとか、何も知らなかったです。人のご縁を大切にしようと思い、入社したので、自分でもすごい偶然だな、と思っています。
②忘れられないお客さま
背中を押された一言
東京に出てくる前に、京都で3年くらい美容師をやっていたんですけど、その時に出会ったお客さまが忘れられないですね。
京都ではけっこう早くスタイリストデビューさせてもらって、1年半くらいはお客さんも担当していました。
ただ、当時の僕は自分の技術に納得がいっていなくて、その不安を払拭して技術の幅を広げるために、東京で一から学び直そうと思っていたんです。
お客さんたちは「東京に行く」って言ったら、寂しがりつつも背中を押してくれました。その中に、いつも「お任せで」って言ってくれる40歳前後の女性のお客さんがいらっしゃったんです。
全てを任せてもらえるのがうれしくて、いつも一生懸命いろんなスタイルをやらせてもらっていたんですが、そのお客さんに最後、「桜井くんって全然上手くなかったね」って言われたんですよ 笑
僕も持ち前の明るさで「頑張りますー! でももっと早く教えてほしかったです!」みたいに返した気がしますが、けっこう衝撃でした。
思い返せば、たしかに当時は、雑誌で見てやってみたいと思った髪型を試させてもらったり、店にジェルがなかったからコンビニでメンズのジェルを買ってスタイリングしてみたり、色々試行錯誤しまくっていたんですよ。
だけど、そのお客様から続けて、「毎回すごい髪型になったなぁって思ってたよ。けどね、人生の中でこんなに美容室が楽しかったことがなかったの。ずっと美容室に来るのが楽しみだった!」って言ってくれたのがずっと残っていますね。
実体験だから言える美容師としての基本
そのお客さんにそう言ってもらえたのは本当によかったです。目の前のお客さんのことを一生懸命考えるっていうことが、僕の美容師としてのベースだと改めて自覚できましたし、あとは技術を磨けばいいんだってお墨付きをもらえたんですから。
若い子にも、熱量を持ってお客さんと向き合っていたら、技術はこれからでも売り上げにも反映できるから!って、実体験を持って伝えられます。
その上で、技術を磨くには、自分でたくさん考えて疑問に思うことが大切。東京に出てきてからの自分は圧倒的に吸収力が違いましたね。先輩たちの技術をそばで見ることで、今までの疑問に対する答え合わせができた気分でした。京都でくすぶっていた時期も必要だったなって思います。
→ 次のページ/③桜井さんの仕事観
「美容師はやっぱり美容師で稼がないと」