ヴィダルサスーンクリエイティブディレクターのセッションアシスタントを務めるなど、英国で修行を積み、今も毎年、ロンドンを訪れているNobu Etoさん(Safari)。
今回は、アンダーグラウンドなヘアショー『NOISE』をレポート。
昨年は、NOISEの生みの親であるリチャード・アッシュフォース(SACO)のバックステージを手伝ったというNobuさんならではの視点で、NOISEの人気の理由を考察します。
完全に縛り無し、一風変わったヘアショー
サロンインターナショナルに行った、その日の夜、今度は『NOISE』を観に行きました。
NOISEはロンドンから始まった、一風変わったアンダーグラウンドなヘアショーです。
会場はギリギリまで秘密。インスタグラムでヒントをほのめかされるものの、当日の午後にSNSで発表されるまで分かりません。
出演者は、持ち時間10分の間、何をしてもOK。完全に縛り無しの状況で、最大限のクリエイティビティを発揮します。いま一番盛り上がっているヘアショーではないでしょうか。
ロンドンから、パリ、モスクワ、ロサンゼルス、上海、台湾へと広がり、日本でも2回ほど『NOISE TOKYO』が開催されています。
豪華出演者に大盛り上がりの一夜
今回の『NOISE LONDON』では、SACOのリチャード・アッシュフォース、元ヴィダルサスーンインターナショナルクリエイティブディレクターのティム・ハートレイ、今年BHA(ブリティシュヘアドレッシングアワーズ)グランプリに輝いたブルックス&ブルックス、トレバーソルビーの現役アートディレクターであるトム・コーネルと豪華な出演者が目白押しで、会場は大盛り上がりでした。
僕は去年のNOISEではバックステージを手伝っていたのでショーはあまり見られなかったのですが、今年はバッチリ最前列で観ることができ、テンションが上がりました。
トップバッターにいきなり、去年のトリを務めたティム・ハートレイが登場し、会場は一気に最高潮に。
一瞬で素晴らしいバランスのボブをカットし、その天才的な才能を見せてくれました。また、ティムがエンターテイナーとして観客を挑発すると、会場は大いに沸きました。
続いて、現役世代で最高の美容師の1人であるリチャード・アッシュフォースが、安定感抜群のカットとクリエイティブなステージを披露。
その後も中だるみすることなく、ラストステージまで盛り上がりました。近年では一番のパフォーマンスを誇ったNOISEだったのではないでしょうか。
入場料、来場者とも右肩上がりのバブル状態
NOISEは2012年に始まったのですが、初年度は入場料が5ポンド(約750円)くらいだったのに年々値上がりし、今年は40ポンド(約6000円)でした。
美容イベントに人が集まらない時代にNOISEだけは正にヘアショーバブル状態!入場者も年々増え、今年は800人ほどいたと思います。
東京・恵比寿で行われたNOISE TOKYOも、2015年が8000円、2016年が6000円となかなかの値段です。
イギリスからゲストアーティストを招くので、モデルも含めた飛行機代、宿泊費、経費を合わせると、そのくらいのチケット代を取らないと難しいでしょう。
この値段でも、初開催の2015年に約900人が来場して話題になりました。
NOISEが成功している3つの理由
NOISEが成功している理由として、まず、アンダーグラウンドであること(会場は当日まで秘密)が挙げられます。
次に、情報がSNS上のみで公開されるため、特定のアーティストをフォローしていないと何も情報がつかめないこと。
情報を一気に公開せず、徐々に公開して盛り上げていきます。
この手法は、昨今のスニーカーブーム(レアスニーカーの情報が少しずつ公開され、当日、表参道のショップ前にレアスニーカーを求める若者が1000人以上も行列を作っている現象)に類似していると思います。
そして3つ目は、有名美容師のコラボイベントであること。
これも昨今のファッション業界で「コムデギャルソン×シュプリーム×ナイキ」や「ナイキ×オフホワイト」などのコラボが行われているのと同じです。
イベントへの参加がステータスになる仕かけ
アンダーグラウンドであること、情報が意図的にクローズされていること、コラボの豪華さがあること、この3つの要素が重なり合い、イベント自体に価値が生まれています。
イベントに行けることが一つのステータスのようになっているのです。正に、レアスニーカーやレアなコラボの服を身につけるのと同じように。
現代の若い世代は、物質的に恵まれた世代です。生まれた時から物があふれ、戦後のような物がない時代とは違います。
また、SNS世代でもある彼らにとって、情報自体に価値はありません。情報なんてSNS上にあふれている。
彼ら彼女らが求めているのは、他人が持っていない物、他人が知らない情報です。
だからこそ、他人が得られない体験・経験に非常に鋭く、時には過剰に反応しているように思います。
美容業界でも、こうした事実を捉え、うまく取り入れるところが成功していくのはないでしょうか。
※次回は、ロンドンでの『作品撮り』の現場をレポートします。
Nobu Eto
Safariクリエイティブディレクター。日本でのサロン勤務を経て2004年に渡英。ヴィダルサスーンアカデミーを卒業後、ヴィダルサスーンクリエイティブディレクター、ビリー・カーリーのセッションアシスタントを務める。2010年、ディレクターが独立して開いたサロンにスタイリストとして参加、カットの教育を担当する。
2013年、2014年資生堂ビューティーイノベーションアワード優秀賞。2014年、2015年NAKANOテクニカルコンペティション優秀賞。2014年、2017年JHA(ジャパンヘアドレッシングアワード)ライジングスター、エリアスタイリスト部門ファイナリスト。2016年JHAニューカマーオブザイヤーファイナリスト、エリアスタイリストオブザイヤー受賞。
Instagram : safariacademy