
うなじの脱毛を“理美容室ならではのネープケア”として提唱するリサスティーの伊藤翔太社長
エステティックサロンではなく美容室や理容室で行う脱毛サービスが徐々に広がりを見せている。
脱毛するのはボディーではなく、うなじや襟足などのネープ部分。ここをスッキリさせると小顔に見えたり首が長く見えたりするため、ヘアデザインの一環、“ネープケア”と呼び、理美容師ならではの施術として提案しようという取り組みだ。
仕かけたのは、業務用脱毛機「REMILA(レミラ)」をサロン向けにレンタルするリサスティー。理美容室の負担を抑えるため、初期費用無料のサブスクリプション形式で提供している。
ネープケアは理美容室の新たな売上の柱になるのだろうか。伊藤翔太社長に事業を始めた背景とあわせてうかがった。
脱毛メニューで無理なく客単価アップ
── 改めて、ネープケアとはどのようなサービスですか?
ネープ自体は理美容室で昔から使われてきた言葉ですが、ネープケアは弊社の造語です。髪の生え際を美しく仕上げるために、うなじを脱毛してデザインを整えていく。これをネープケアとして提唱し、全国600店舗以上の理美容室に導入いただいています。
── なぜ脱毛をするのに理美容室なのでしょうか?
ヘアデザインの一環として考えているからです。先行して導入いただいた川畑タケルさん(BEAUTRIUM)には「襟足を短くすると横から見たシルエットが大きく変わる。頭頂部のボリュームの印象が変わったり首が長く見えたりする。上半身だけでなく全身の印象が変わる」と評価いただいています。
髪型や顔の輪郭に合わせて襟足やうなじをデザインできるのは理美容師さんだからこそ。ほとんどの脱毛サロンには襟足のメニューがないので差別化になると思います。
── なるほど。理美容師さんの強みを活かしたメニューになるのですね。
既存サービスの値上げは簡単ではありませんが、新たに脱毛メニューを取り入れることで客単価に無理なくプラスオンできます。価格設定は自由ですが、4000円程度で提供されている理美容室が多いですね。ネープケアの施術時間はわずか3分なので収益性は高いかと。
実は、レミラはボディー全体に使えるので、ヒゲや腕のパーツ脱毛も可能です。また、IPL(光脱毛)とラジオ波のダブルで肌にアプローチする「美肌フォトメニュー」を搭載しているのですが、こちらは1万円ほどでも人気があります。

── うなじの脱毛って痛くないのですか? どのくらい通えばいいのでしょう?
SHR(蓄熱式)なので、痛みはほとんどありません。個人差はありますが、大体5〜10回です。定期的に施術を受けることになるのでお客さまの定着につながると好評いただいています。
自身のコンプレックスから脱毛サロンを開く
── ネープに特化した脱毛という新しい試みですが、起業のきっかけは?
脱毛に興味をもったのはコンプレックスからです。中学生の頃は体毛が濃いのが気になって気になって。半ズボンにならないといけない体育が嫌いでした。プールはものすごく嫌でしたね。
大人になってからはそれほど気にしていなかったのですが、2017年にたまたまメンズ脱毛の広告を見かけて行ってみたんです。全身を脱毛しても3万円で済み、効果もすごく感じられて。これはめちゃくちゃいい、セルフで出来たらもっといいと思い、2019年にセルフの脱毛サロンを新宿にオープンしました。
── セルフの脱毛サロンの経営は順調にいったのでしょうか?
それが全然ダメで。大手のサロン予約ポータルサイトにも掲載したのですが、集客に苦戦して月の売り上げは数万円程度しかありませんでした。オープンの10月から100万円以上の赤字が続き、翌2020年にはコロナ禍に。4月に緊急事態宣言が出され、閉店に追いこまれました。マシン代と店舗改装費を合わせて約1800万円の負債を背負うことになったんです。
新たな手を打たないといけない。それで脱毛機のメーカーになろうと思いました。脱毛サロンはうまくいかなかったけれど、脱毛自体はいいものだと確信していたので。その夏から準備を始め、2021年6月に、社員を3人雇用して脱毛機器のレンタルを始めました。

── 2019年の秋に脱毛サロンを始めて2020年春に追いこまれ、夏にメーカーになることを決めて翌年の春に事業をスタート。決断と実行がとてもスピーディーですね。すでに何度目かの起業だったのですか?
会社としてはリサスティーだけですが、事業としては、初めて創業したリユース事業、次にセルフ脱毛サロン事業をしていたので、今回の業務用脱毛機は3つ目の事業です。これからは一層、ネープケアの脱毛事業に人手と資金を集中させます。
── 最初はリユース事業なのですね。美容業界とは畑違いですが、なぜリユースを?
新卒で入ったITの会社を3カ月で辞めて飛び込んだのがリユース会社だったんです。ところが、メインで扱っていた家具や雑貨は場所を取るわりに単価が高くない。それで、新入社員なのに会社に提案して、研究機材のリユース事業を始めました。
企業や大学で使われている研究機材、例えば電気測定器や分析機器などはそのまま捨てられていることがほとんどなので、これは需要があるなと思ったんです。予想は当たり、私一人でやっている事業でしたが、3年ほどで約7000万円の売り上げになりました。
── それはすごい! 社内ベンチャーのようなものですね。
ただ、よく考えたらなかなかブラックな働き方をしていると気づいたんです。楽しく働いていたとはいえ、毎日15、6時間も仕事するような状態で。「働き方改革」ということも言われ始めていたので会社に相談したところ、「そんなに言うなら、自分でやりなさい」と言われて。じゃあ、自分でやろうと。その日に起業を決めました。
それが3月のことで、すぐに会社の登記の方法を調べました。4月に登記申請をして、会社を設立したのが2013年6月4日。28歳の時でした。
── リユース事業はすぐ軌道に乗ったのですか?
そうですね。会社員時代のノウハウや人脈の蓄積もあり、順調に成長しました。創業時の目標だった年商2億円を3年目に達成し、5年目には年商3億円に到達しました。
リスクを抑えて脱毛機を使ってほしい
── 新しいことに挑戦するベンチャースピリットのある方なのですね。理美容室での脱毛事業に挑んでいるのも納得です。改めて、この事業を始めたのはなぜですか?
セルフ脱毛サロンを運営してわかったのが、自分でやろうとすると体の後ろ側、背中の脱毛はやはり難しいこと。そして、うなじの脱毛は誰もやっていないのではと気づきました。それまで意識したことはなかったのですが、自分で脱毛をしていると、うなじの毛って意外と気になるんですよ。
うなじなら理美容室がやるべきではないかと思って調べたところ、脱毛機を導入している理美容室はほとんどない。そこで自分が通っている美容室にお試しで脱毛機を置いてもらいました。そうしたら、うなじ部分の脱毛とデザインのメニューが受けて、月に20〜30人ものお客さまがついたんです。
同時に女性50人にアンケートを取りました。すると9割近くもの方が「うなじの脱毛を理美容室でやってほしい」という結果に。理美容室にもお客さまにも双方に需要があると判断し、脱毛機のレンタル事業を決断しました。
── なぜサブスクにしたのですか?
需要はあるのに、なぜ理美容室に脱毛機が導入されていないのか。その答えは、値段にあると思います。脱毛機は1台あたり安くても100万円以上、高いものだと300〜400万円ほどかかります。しかも、結構よく壊れるんです。
高価な上に故障頻度も高いとなれば、理美容室にとっては大きなリスクですよね。リスクを抑えて始めていただけるよう、サブスクモデルにしました。初期費用は完全無料。初月の利用料も無料。契約期間の縛りも一切ありません。
── 始めやすい仕組みを整えたのですね。それでも新しい試みが受け入れられるのはハードルが高そうです。
ここは、板倉充さん(Luxe)に感謝です。「KAMI CHARISMA(カミカリスマ)2023」で三つ星美容師を受賞した有名美容師さんですが、サービス開始直後の2021年7月に導入して気に入っていただき、周りの方にも広めてくださったんです。おかげで私たちも自信を持ってサービスを展開でき、初年度の導入店舗数が約150店舗という好スタートを切れました。
順調かと思いきや、実は毎月赤字が続いていました。社員の給与やマシンの購入費、改修費、配達代、デザイン会社への支払いなど経費がかさみ、初年度の赤字は3000万円。その後も赤字が続き、2022年9月にはキャッシュが残り2000万円に。このままではやばい、と一時は自己破産を覚悟しました。
── 150店舗導入でも赤字になってしまうのですね。それで、どのような対策を講じたのでしょう?
価格と契約の見直しを行いました。当初から美容師さん向けに脱毛機を提供することを想定していましたが、気がつけば契約先の6割以上は脱毛サロンやエステサロンになっていたんです。脱毛サロンやエステサロンは解約率が高く、未払いや脱毛機の持ち逃げといったトラブルが多発していました。突然連絡がつかなくなって、サロンまで行ってみたら、店舗が跡形もなくなっていたなんてこともありました。
一方、美容室は国家資格を持っている美容師の方がしっかりと届け出を行った上で経営しているため、そのようなトラブルがほとんどないんです。そこで、もう一度原点に立ち返り、美容室向けのサービスに特化したところ、徐々に経営状態が回復していきました。
そして、とても大きかったのが当時アデランス社長だった津村佳宏さん(現RAIBY代表)との出会いです。2023年10月に広島で行われた起業家のプレゼン交流会で、基調講演のゲストとしていらっしゃった津村さんにリサスティーの事業についてお話しさせていただいたところ、ポテンシャルを感じてくださり、さまざまな助言をしてくれるようになったんです。2024年6月にはリサスティーのスペシャルアドバイザーに就任いただきました。津村さんのおかげもあって、最近は新たに契約してくださる美容室が増えてきています。

ネープケアによる差別化が集客につながる
── 現在どれくらいの店舗がレミラを導入しているのでしょうか?
山野愛子美容室やTAYAなど約300店舗に導入いただいています。都心と地方のサロンが半分ずつくらいの割合です。毎週のように新たなお問い合わせもいただいています。
── レミラで施術を行っている美容師さんからはどのような声がありますか?
ネープケアを行っている美容室はまだそれほど多くないため、他のサロンとの差別化になり、集客につながっているといった声をいただいています。2021年に導入されたあるサロンでは、コロナ禍で経営が苦しい中、レミラ導入により新規顧客が40%増、月間売り上げが20〜30万円ほど増えて持ち直したと喜んでいただきました。

── 最後に、今後の展望を教えてください。
2021年6月のサービス開始以来、同じ脱毛機を提供してきたのですが、現在、レミラの新型を開発中です。新型は一回り小さくコンパクトなので、より使いやすいと思います。美容室は26万店舗、理容室は11万店舗ありますが、そのうち約1%の3000店舗のサロン様に導入していただき、ネープケアを理美容室の新たなスタンダードメニューとしたいです。
取材・文/大徳明子、岡村幸治 撮影/山田星太郎