サロンにとって1年で一番の繁忙期である12月まであと少し。いま従業員に退職したいと言われたら困りますよね。拒否できるものなのでしょうか?
弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。第38回は、退職拒否について取り上げます。
美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」
こんにちは!弁護士の松本隆です。
第38回は「従業員に退職したいと言われたら拒否できる?」です。
事例から見てみましょう。
私はXサロンの経営者です。
3人の従業員の美容師がおり、形態は雇用契約です。
ある日、従業員の美容師のYさんが「やめたい」と言ったのです。
しかし、うちのサロンとしてはこれからが繁忙期なのでやめられてしまうと困るのです。
どうしたらいいでしょうか?
退職の相談が増えている?
厚生労働省が発表している令和5年度の「個別労働紛争解決制度の施行状況」によりますと、「自己都合退職」の相談の数は年々増えており、1位の「いじめ・嫌がらせ」の相談に次いで2位です。
しかも平成29年は約39000件だったのに、令和4~5年は4万2000件を超える相談数で、自己都合退職の際のトラブルは増えていると言えます。
>> 厚生労働省 令和5年度「個別労働紛争解決制度の施行状況」
ちなみに、1位の「いじめ・嫌がらせ」はパワハラ防止法ができた影響か、令和4年以降急激に減っています。3位の解雇は3万件台をキープしています。
※パワハラ防止法や解雇の過去記事もどうぞ!
退職したいと言われても…
経営者としては、従業員の退職が起きると当然困ってしまいますよね。
「多くの予約のお客さんを抱えているのにさばけなくなってしまう…」
「従業員にお客さんを持っていかれてしまうのではないか…」
「そもそも長く働くって言っていたのにどうして…」
そういう思いから経営者の方としては「退職はすぐにはできない」と従業員に伝えて、退職ができないようにすることもあるでしょう。
退職の拒否はできません
しかし、法のトップである「日本国憲法」において「職業選択の自由」が保障されており、「人は自由に仕事を選べる」ことになっています。
ですので、従業員の美容師さんは、法に触れない限りは自由に退職できることになります。
したがって、「サロンは従業員の美容師の退職を拒否できない」が結論です。
退職願と退職届の違いは?
退職願は「退職をしたい」というお願いです。
ですので、サロン側としては退職を思いとどまらせるチャンスがまだあります。
これに対して、退職届は「退職することを届ける」ということなので、これを出されてしまうと退職を防ぐことはできません。
従業員の美容師さんから「退職届」を提出されたら、2週間でその美容師さんは退職になります(民法627条)。
そうとはいえ、実際に2週間で退職となると、サロン側も大変でしょうから、退職時期が調整できないか話し合うのがよいでしょう。
競業避止義務契約の整備を!
一番良いのは退職にならない雰囲気づくりです。
ただ、独立を志向する人は退職を選ぶでしょうし、経営者としては独立する人が出るかもしれないことを視野に入れて日々の経営をすることが大事です。
ただ、独立によってお客さんを取られてしまうのは別の話ですので、そうならないように「競業避止義務契約」の整備が必要です。
ヘアサロン六法ももう38回になりました。
この中のどれかがみなさまに役立つ日が来るかもしれないと思って書いております。
次回もよろしくお願いいたします!
松本 隆
弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー
早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。
横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115
監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子