【サロン六法】29.労災を知ろう!(前編)

特集・インタビュー
【サロン六法】29.労災を知ろう!(前編)

従業員が業務中にけがをしてしまった場合、どうしたらいいでしょう?

弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。第29回は、美容業界の労災事故について取り上げます。

美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!

「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」

松本隆弁護士( 横浜二幸法律事務所)

こんにちは!弁護士の松本隆です。

第29回は「労災を知ろう!(前編)」です。

美容業界の労災にはどのようなケースがあるかご存知ですか?

今回は、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」に掲載されている美容業界の労災事例のうち、令和3年のもの(令和6年時点で公開されている最新のもの)をピックアップいたします!

>> 職場のあんぜんサイト(厚生労働省)

美容業務中の労災事故

イメージが湧きやすいように、事例だけでなく年齢も引用してみました。

(なお、事例はわかりやすくするため文章を改変していることがあります)

①当然多い!カット中の労災事故

・客の髪を切っているときに、ハサミで指に切り傷(25歳、26歳、29歳、43歳、46歳)

やはりカット中に指を切ってしまうことって多いのですね。

20代のみならず40代の美容師さんにも起きているので、キャリアの長さというよりはその日の体調にもよるのかもしれませんね。

・カット中に椅子から立ち上がろうとしたら転びそうになり、踏ん張った際に膝の半月板を損傷(57歳)

椅子に座りながら施術することも多いと思いますが、立ち上がった瞬間に転ぶということも多いですよね。

交通事故事件の患者さんでもよく見かけますが、半月板損傷は治るのに長期間かかる怪我です。

無理な踏ん張りは膝を痛めるので気をつけましょう。

美容室の労災。弁護士が解説する連載「サロン六法」、美容室の法律。
どうも、びよねこです(初回からのレギュラーなのに第29回にして名が明かされました)

②圧倒的に1位!転倒事故

多いので3つずつ見ていきます。

・カット中に床にあった髪の毛に足を滑らせて転倒し、腰と足を床に打って大腿骨を骨折(75歳)

・サロン内を移動中、コンクリートの壁に右肩を強打した後、床にあった髪の毛で足が滑って転倒しそうになり床に手をついたときに肩を脱臼(21歳)

・クロスを畳んでいた際、床にあった髪の毛で滑って転倒し、臀部を骨折(61歳)

まず目立つのは「髪の毛」で滑るケースです。

髪の毛は施術ごとに掃除しないとすぐにたまるので徹底したいところです。

それにしても75歳の方が現場にいるとはすばらしいですね!(この事故が原因で引退されていないことを祈ります…!)

・シャンプー台の床が濡れていることに気づかず滑って転倒し、右足を骨折し、靭帯を損傷(47歳)

・両手にシャンプーボトルを持ち移動中に滑り転倒し、膝を強打し、靭帯を損傷(44歳)

・シャンプー台をまたいでいこうとしたところ、かかとがシャンプー台に引っかかり転倒し、腰椎を圧迫骨折(52歳)

「水」で滑ったり「台」に引っかかったりして転んだ場合です。

床が濡れていることが多いサロンは要注意です。

シャンプー台の形状のせいで床が濡れやすいということもあるかもしれません。

滑り止めのマットを設置するか滑り止めのついた靴をはく等して対策しましょう。

膝の靱帯は「骨と骨をつなぐヒモ」なので、損傷すると大変なことになります(人工関節の手術が必要になることも…)。

シャンプー台は…またいではいけませんね。

・サロン内を歩行中に段差(約30cm)を下りるときに足首を捻挫(46歳)

・2階のスタッフルームに行くとき、階段を上がって曲がったところで転倒し、足の親指を骨折(24歳)

階段を下りていたら2、3段踏み外し、足首をひねって小指を骨折(47歳)

「段差」も転びやすいですね。

段差の怪我は床の転倒よりも軽傷のことが多いようです。

階段があるサロンは階段に滑り止めがついているかがチェックポイントです。

美容室の労災。弁護士が解説する連載「サロン六法」、美容室の法律。

③ばい菌、薬剤の事故

・施術中、不衛生な頭皮・頭髪を触りばい菌が入ってしまい、手に膿痂疹性湿疹(29歳)

・シャンプーなどの水に触れる作業を行っていたところ、手の指に痛みと腫れが出現し、蜂窩織炎(ほうかしきえん)と診断(48歳)

・施術中に薬剤かダストが目に入って両目を負傷(24歳)

美容業務で怖いのは伝染性の病気ですね。

不衛生なお客さんの頭皮を触って湿疹ができてしまうのはお気の毒ですね…

シャンプーで感染症になってしまったのは原因がよくわかりませんが、美容師さんの手には配慮してあげたいものですね。

ちなみに、「手荒れ」はなかなか労災認定されにくいという実情があります。

薬剤は強い刺激を持つものが多いので施術の際は目に入らないように気をつけたいところです。

④その他の事故

・店内でシャンプーの施術中、左手で客の頭を支え、右手で後頭部を洗っていたとき、客が急に動いたため、頭部が落下しそうになった腕を伸ばして受け止めようとしたところ、腰部を捻挫した(40歳)

・施術中、前屈みの姿勢で客の足を持ち上げたとき、腰椎椎間板ヘルニアを発症(32歳)

お客さんを支えようとして腰を痛めてしまった…というのは私も社交ダンスをしていたときに経験があります(全然話が違う?)

重いものを持ち上げるときは「膝を曲げてから」持つようにすると腰痛防止になります。ヘルニアは一度なると大変厄介ですので要注意です…

>> 【腰痛対策/ストレッチ前編】 生涯理美容師の身体づくり!バズーカ岡田の最強ストレッチ&エクササイズ

ご自身のサロンでも起きそうな事故は?

これらの事例を見ていただき、「あ、これはうちのサロンでも起きる可能性あるかも」と思ったものがあれば、ぜひとも対策をして下さい。

滑り止めをつける、マットを敷くなど、比較的簡単な対策で防ぐことができます。

労災事故で貴重な戦力が戦線離脱をしてしまうのはサロンにとっても大ダメージですので、どうかこれを機にチェックしてみてくださいませ。

続きは後編へ!

次回は美容業務中以外の労災事故とサロンの責任について見ていきます!

お楽しみに!

松本隆弁護士( 横浜二幸法律事務所)

松本 隆

弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー

早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。

横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115

監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子

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