ニーズの変化を感じ取ったとき、変えるべきか、変えざるべきか、変えるならいつがいいのか? 経営者なら誰しもそんな悩みとは無縁ではない。優柔不断になって機を逃しては大きな損失になる。就任以来、短期間に何度も改革をくり返し、会社を確実に成長させてきた龍村和久プレジデントは、大きな決断をする際、どんなことを考えてきたのだろうか。
売上の8割を占めていたヘアカラーからヘアケアに切り変えた
龍村さんは2006年、デミの研究リソースをカラーからヘアケアに大きく転換する決断をした。しかし、当時ヘアカラーはデミの主力商品で売上の8割を占めていた。事業の主要だったヘアカラーへの注力をあえて控えた理由は「いずれ価格競争となりレッドオーシャン化する、と分かっていたから」だという。
以前は、技術革新で刺激が少なくなったり、色持ちが良くなったり、といった競争がありました。しかし私が入ったときには、すでにコモディティ化(高付加価値のものが一般化して価値が下がること)して、どのメーカーのものもよくなっていて、技術的優位性で戦うことは難しい。業務用なのでサロンからしてみればコストです。ということは、価格競争が始まる。このまま続けても儲からない。
当時、研究員の多くをヘアカラーからヘアケアの分野に移行したという。龍村さんは「これからはヘアケア、特に店販に力を入れるべきだと考えました」という。
マクロを見ながら、自社の領域をしっかり見る
しかし、当時はヘアケア分野も決してブルーオーシャンではなかった。どんな勝算があったのか。
「化粧品業界は厳しい」というのが、大勢の見方です。そりゃあ少子化もあって、人の数が減るんだから全体がシュリンクしますよ。でも、それはパブリックも含めての話。プロフェッショナル業界は今、どんどん市場を拡大しています。特にヘアケアの価格はパブリックが値上げしてプロフェッショナルに寄せてきている。
一般消費者が手に取るドラッグストアや量販店の店頭価格と、プロフェッショナルの店販との価格差は現状ではあまりない。その差が縮まったのは2000年代のことだった。
20年前に僕がこの会社に入って、2、3年後ぐらいにステージが変わりました。ドラッグストアでのシャンプーの価格が一気にポンと数百円から千数百円に上がったんですよ。大手メーカーがばんばんコマーシャルを出した。それを見て「いける!」と思って、店販に舵を切った。
当時、高価格帯、高級路線のヘアケア製品が大手化粧品メーカーから相次いで販売され、大規模なプロモーションが行われていた。しかし、そこで店販が負ける、と龍村さんは考えなかった。「その1%でもこっちに持ってくることができれば、巨大市場ですから大きい」と考えヘアケアの店販を拡大したという。
龍村さんの読みは当たり、デミは店販を大いに伸ばした。
マクロの数字だけを見て「化粧品業界は未来がない」なんて言う人の言葉はまともに受けとることはありません。プロフェッショナル領域の市場は、拡大しているんだから。
業界全体の動向を知ることはもちろん必要だ。しかしそこに「自社の領域はどうか」「自社にとってはどういう意味を持つのか」という視点がなければ、自社を成長させることは難しいだろう。
取材/大徳明子 文/曽田照子 撮影/横山翔平
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