【サロン六法】22.フリーランス新法(中編) サロン側に従業員がいる場合

特集・インタビュー
【サロン六法】22.フリーランス新法(中編) サロン側に従業員がいる場合

弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。第22回は「フリーランス新法ってなあに?」(中編)です。

美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!

「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」

松本隆弁護士( 横浜二幸法律事務所)

こんにちは!弁護士の松本隆です。

第22回は「フリーランス新法ってなあに?」(中編)です。

「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく」をモットーに、あえて内容をシンプルにしてお送りします。

今回は「従業員がいるサロン」の経営者向けのお話

美容室の法律。フリーランス新法。弁護士が解説する連載「サロン六法」
美容室の法律。フリーランス新法。弁護士が解説する連載「サロン六法」

前編では、①の「サロン側に従業員がいないパターン」と、②の「サロン側に従業員がいるパターン」を比較し、②では、サロン側を「特定業務委託事業者」と呼ぶというお話をしました。

サロン側がフリーランス美容師に業務委託をした場合、書⾯かメール等で、直ちに「取引条件を⽰す」という前回の話はもうOKですね。

今回(中編)と次回(後編)で残りのポイントを見ていきます!

報酬支払期日は60日以内!

サロン側(特定業務委託事業者)がフリーランス美容師(特定受託事業者)に対して業務委託をした場合、報酬支払は施術した日から60日以内とされました。

ただ、美容業界の経営者にとっては「もともと60日以内に払っているよ!」という方がほとんどだと思いますので、影響はあまりないかもしれませんね。

このルールは、契約書を作らずに報酬の支払期日をはっきり決めない業界には効果的かもしれません。

サロン側に「禁止行為」が定められました!

こちらはフリーランス新法ではメインの規定とされています。

「下請法4条」に同じようなルールがあるのですが、フリーランス新法は下請法4条にならって、以下の通りルール化されました。 

美容業界における禁止行為

① フリーランス美容師に落ち度がないのに受領を拒絶すること(施術以外)

② フリーランス美容師に落ち度がないのに報酬を減額すること

③ フリーランス美容師に落ち度がないのに返品を行うこと(施術以外)

通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること

⑤ 正当な理由なくサロン側が指定する物を購入させることorサービスの利用を強制すること

⑥ サロン側のために金銭、サービスその他の経済上の利益を提供させ、利益を不当に害すること

⑦ フリーランス美容師に落ち度がないのに内容を変更させ、又はやり直させ、利益を不当に害すること

美容業界で特に重要なのは、②④⑤⑥あたりでしょうか。

なお、④⑤⑥については、実際に下請法4条に違反した例として「ビッグモーター」の事件を交えて説明します。

① フリーランス美容師に落ち度がないのに受領を拒絶すること(施術以外)

これは、主に物を売る業種のフリーランスを対象にした規制なので、サロンやフリーランス美容師さんには影響は少ないかもしれません。

ただ、サロン側がフリーランス美容師さんに頼んで定期的に物品の仕入れをしてもらって買っている場合には適用がありますので、無関係とは言い切れません。

サロン側の理由がない受領拒否は法律違反になります。

② フリーランス美容師に落ち度がないのに報酬を減額すること

これは非常に大きいかと思います。

「報酬はこれまでは施術料金の○○%だったのに、突然△△%に変更されてしまった」という場合はまさにこれに該当します。

サロンの経営者の方は報酬の見直しにあたっては、これに該当しないように気をつけていただく必要があります。

④と重なる場合が多いので、④を参考にしていただけければと思います。

③ フリーランス美容師に落ち度がないのに返品を行うこと(施術以外)

これも①と同様、影響が少ないかもしれませんが、サロン側がフリーランス美容師さんに頼んで定期的に物品の仕入れをしてもらって買っている場合、サロン側の理由がない返品は法律違反になります。

④ 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること

いわゆる「買い叩き」の禁止です。

業務委託のフリーランス美容師さんへの報酬を安くしすぎてしまうと、この規定に違反することになります。

経営者の方としては「じゃあ、一体いくらからが『著しく低い報酬』なの?」という疑問が湧くと思いますので、ビッグモーターの件(下請法4条違反の類似のケース)を挙げますが、例えば、ビッグモーター側が、下請事業者に対し、コーティング加工の発注単価を従来の単価から「27.7%」引き下げたことは下請法4条違反として勧告の対象となりました。

(令和6年3月15日)株式会社ビッグモーター及び株式会社ビーエムハナテンに対する勧告等について | 公正取引委員会 (jftc.go.jp)

約3分の1も下げられてしまうとダメージは大きいですね。

美容室の法律。フリーランス新法。弁護士が解説する連載「サロン六法」

⑤ 正当な理由なくサロン側が指定する物を購入させることorサービスの利用を強制すること

これは美容業界ではあり得ることかもしれません。

例えば、サロン側が置いている美容の商品を買わせることです。

「本当に良い商品で、フリーランス美容師が是非とも買いたいと思って買っている」ということならいいのですが、サロン側で「みんな買っているよ」と言って、実質的に買うように強制することはこの規定に違反する可能性が高いです。

なお、ビッグモーターの件(下請法4条違反の類似のケース)は、

・①下請業者が「洗車中に車内に水をかけた」として車を約100万円で買い取らせる

・②下請け業者の会社所有車両、社員のマイカー、家族の車をビッグモーターで車検を受けないと店舗に出入りする際に駐車料金を取る、車検を受けないと出入禁止にするといって車検を強制した

・③同じような方法で、下請け業者にビッグモーターが代理店を務める保険会社の損害保険を契約させる

などの点が問題となりました。

美容室の法律。フリーランス新法。弁護士が解説する連載「サロン六法」

⑥ サロン側のために金銭、サービスその他の経済上の利益を提供させること

美容業界では、業務委託のフリーランス美容師さんは、お客さまに施術をすることがメインですから想定できることは少ないのですが、ビッグモーターの件(下請法4条違反の類似のケース)を例に挙げますと、

・「月1回ほど、店舗の小屋の掃除、雑草の除去、展示車両のタイヤへのワックスがけなどを無償で行わせる

・書面がなく委託内容がはっきりしていないのに、有償の追加作業(車内のペットの毛の除去)を無償で行わせる

等があります。

⑦ フリーランス美容師に落ち度がないのに内容を変更させ、又はやり直させること

サロン側としては、お客さまからやり直しの要請がない限りは、施術のやり直しをさせることはほとんどないと思われますので、こちらは美容業界への影響は少ないと思います。

続きは後編へ!

後編では、②サロン側に従業員がいるパターンの残りの義務についてお伝えしたいと思います。

それではまた次回に!

松本隆弁護士( 横浜二幸法律事務所)

松本 隆

弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー

早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。

横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115

監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子 撮影/幡司誠

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