【サロン六法】19.それっていいの!? レジ不足金の自腹ルール

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【サロン六法】19.それっていいの!? レジ不足金の自腹ルール

弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。第19回は「それっていいの!? レジ不足金の自腹ルール」です。

美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!

「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」

松本隆弁護士( 横浜二幸法律事務所の弁護士で美容の法律)

こんにちは!弁護士の松本隆です。

第19回は「それっていいの!? レジ不足金の自腹ルール」です。

“ヘアサロン経営者向けにわかりやすく”をモットーに、あえて内容をシンプルにしてお送りします。

美容師さんからの質問

私が勤務しているサロンではレジのお金が合わなくて不足するときは、全員で割り勘で穴埋めするという「自腹ルール」があります。

この前も、レジのお金が1万円足らなかったので、5人のスタッフで割り勘して2000円ずつ払って自腹で穴埋めしました。 これっていいのでしょうか?

レジのお金が合わないときの「自腹ルール」

あるはずのお金がレジにない。

レジを使った仕事をしたことがある人のほとんどが経験していることかもしれません。

特に、お札を間違えて渡してしまうとレジのお金は一気にマイナス。冒頭の質問のように1万円も合わないなんていうこともない話ではありません。

レジのお金が足りないときにスタッフが自腹で補填するという「自腹ルール」があるサロンの話を聞きますが、今日はこの問題を取り扱います。

美容室の法律(レジで不足金が出た時に自腹は法律違反。弁護士が解説する連載「サロン六法」)

報償責任の法理

さて、今回も質問の回答は結論から申し上げます。

自腹をさせたらダメです!

民法には「会社は、従業員のおかげで利益を得ているのだから、損失も負担すべきだよ!」という考え方があります。これを報償責任の法理といいます。

この考え方からいくと、従業員が頑張ってくれるおかげで会社は利益を得ているんだから、レジのお金が合わない損失も会社が負担してね、ということになります。

美容室の法律(レジで不足金が出た時に自腹は法律違反。弁護士が解説する連載「サロン六法」)

損害賠償額の「予定」は禁止!

労働基準法では、違約金についてこんなルールがあります。

労働基準法 第16条(賠償予定の禁止)

使用者は労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしはならない

つまり、「レジの金額を合わせる」というお仕事(労働契約)の不履行(ミス)で違約金を定めたらダメだよ、ということです。

もちろんですが、レジの金額を合わせる以外のことでも違約金は定めてはいけません。 例えば、「ワゴン等の備品を破損したら罰金1万円」というルールもダメということになります。

この労働基準法16条に違反した契約は無効になる(労働基準法13条)だけでなく、使用者(この記事の場合、美容室経営者)に「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される可能性があります(労働基準法119条)。

お給料からの天引きも当然ダメ!

「うちのサロンでは給料からレジ不足分を天引きしているよ」という方、それもダメです!

労働基準法 第24条(賃金の支払)

1 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。…以下略…

給与については、「全額払いの原則」というものがあります。例外的に天引きができるのは、社会保険料などの「法令に定めがある場合」や「労使協定で認められている場合」だけです。

ですので、レジ不足分を給与から天引きすることは許されません

サロン側からミスをした従業員に対して何かしら請求できないの?

サロン側からは、「ミスをしていない従業員」に対してはレジ不足のお金を請求することはできません

ただ、「ひどいミスをした従業員」に対しては「求償」という方法で請求することが考えられます。

これは民法715条3項の問題なのですが、最高裁の判例(最判・昭和51年7月8日・民集30巻7号689頁)があります。

この判決文を読むのは厳しいので、サロンの場合で簡単に説明すると、

従業員がしたミスによって会社が損害を受けた場合、

サロンの規模や状況従業員の業務内容労働条件勤務態度ミスの内容サロンがミス防止のためにどういう配慮をしていたか等の事情を見て、

②損害のうちの何割かはサロンが従業員に請求ができることがある

というものです。

例えば、税理士事務所の従業員がわざと不適切な会計処理をしていたケースで、裁判所は、損害が約576万円であるとして、会社は、従業員に対して損害の「4割」である約230万円を求償できるとしました。(東京地判・令和5年1月19日・Westlaw Japan 文献番号2023WLJPCA01198020)

しかし、このケースは、「わざと」不適切な会計処理をしているケースですので、レジの金額が不足するケースのような「わざとではない」場合とは違います

さらに、「サロンがレジの金額不足の防止のためにどういう対策をしていたか」まで考慮されるので、サロンが従業員にレジの金額の不足分を求償するのは(よほど従業員の管理がずさんでない限りは)難しいと考えます。

従業員に穴埋めさせるのではなく再発防止策の検討を!

経営者としては、レジの不足金が発生する原因を突き止めることが重要です。

場合によっては、従業員が横領している可能性もあり得ますので、監視カメラをつけてもいいかもしれません。

また、自動でつり銭を管理する機械を導入したり、レジ金管理の教育をしたりするなど、「そもそもミスが発生しにくいシステム作り」に注力することもよいと思います。

さいごに

今回は経営者の方たちからよくお聞きする悩みの「レジの金額不足問題」のお話でした。

「まぁ大丈夫だろう」と思っていることでも違法なことはよくありますので、サロンのルールを見直す機会になればと思います。

それではまた次回!

松本隆弁護士( 横浜二幸法律事務所)

松本 隆

弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー

早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。

横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115

監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子 撮影/幡司誠

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