弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。第17回は「定期建物賃貸借に要注意!」です。
美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!
目次
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」
こんにちは!弁護士の松本隆です。
第17回は「定期建物賃貸借に要注意!」です。
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく」をモットーに、あえて内容をシンプルにしてお送りします。
(事例)
Xさんは、ビルの1階をYさんから、期間「2年間」の「普通建物賃貸借契約」として借りて、サロンを経営しています。
更新時期が近づいてきましたが、ビルのオーナーのYさんに「定期建物賃貸借に変更したい」と言われました。
Xさんとしては、このままサロンとして使い続けられるなら、別に変更してもいいかなと思っていました。
ただ、Yさんから「契約書は公証役場で公正証書にする必要がある」と言われて、Xさんは「そんなことまでするなんて、自分に不利な内容になるかも…」と心配になりました。
Xさんは定期建物賃貸借への変更に応じていいのでしょうか?
前回は賃料増額の話でしたが、今回は「定期建物賃貸借」の話です。
経営者の方がうっかりしていると、オーナーさんに追い出される事態にもなりかねませんので、ぜひとも知ってほしい内容です。
普通建物賃貸借と定期建物賃貸借の違い
「定期建物賃貸借」という言葉、聞いたことはありますか?
住む部屋を借りるときは「定期借家」という言葉で使われます。
通称は「定借(ていしゃく)」と呼ばれます。
誤解を恐れずわかりやすく言うと、
普通建物賃貸借は借りている側が有利で、
定期建物賃貸借は貸している側(オーナー)が有利です。
うっかり「定期」建物賃貸借で契約してしまうと本来有利なはずの立場が逆転してしまいます。要注意です!
具体的にどう違うかというと、
「普通」建物賃貸借は借りている側が希望すれば基本的には更新ができるんです。
2年間借りてみて、「あ、ここでしばらくサロンをやりたいな」となったとき、更新しようと思えばほぼ100%更新できることになります。
これに対して、「定期」建物賃貸借は、「決められた期間だけ借りるよ」という契約なので、更新ができないんです。
例えば、契約期間が2年間の場合、2年間が終わったら、借り手がどんなに希望しても、貸している側(オーナー)がOKしない限り、契約は終了です。
ちなみに、もし継続がOKとなっても、「更新」ではなく「再契約」になるので、賃料が増額されることが多いです。
公正証書にしないとダメ!
定期建物賃貸借で契約するためには公正証書でしなければなりません。
公正証書とは、公証役場で公証人という人に作ってもらう公文書です(ちなみに、公証人は公務員ですが、裁判官や検察官を引退した人が多いです)。
契約の際に「公証役場に行きましょう」と言われたら、「あれ?これってもしかして定期建物賃貸借?」と気づけるといいですね。
ちなみに、公正証書にせずに定期建物賃貸借の契約をした場合は、普通建物賃貸借の扱いになるのが一般的な考え方です。
契約の更新の際に切り替えを要求されることも…
最初から定期建物賃貸借だと言われることもありますが、今回の事例のように、契約更新のタイミングで「今後は定期建物賃貸借にしましょう」と言われるケースも多いです。
経験談になってしまいますが、不動産のオーナーが定期建物賃貸借に切り替えたいと考える理由の多くは、「建物が古くなってきて取り壊したいけれど、テナントがいるといつまで経っても取り壊せないから」のように思います。
土地は「建物がない方が高く売れる」ので、取り壊してから売りたいんです。
不動産オーナーは立退料を払いたくない
定期建物賃貸借にしておけば、期間が来れば、立退料を払わずに追い出すことができるので、取り壊しや売却の計画を立てられます。
これに対して、普通建物賃貸借の場合は、それ相応の立退料を払う必要があるし、いつ出てくれるかわからないので、不動産のオーナーは、建物や賃借人が残っているために安い金額で不動産を売ることも考えなくてはなりません。
立退料がいくらになるかはケースバイケースですが、例えば、毎月の賃料が20万円くらいでも、立退料が2000万円にまでなるケースはあります。
(立退料の交渉は弁護士さんに相談するといいです!)
とはいえ、都心の物件は「定期」建物賃貸借が多い
「こんな借り手に不利な定期建物賃貸借なんてルール、どうしてできたの?」と思いますよね。
これは、簡単に言えば、「経済界の要請」です。
お金持ちのオーナーたちから、借り手に有利なルールを変えてほしいという要請があったからです。
ですので、自分の身は自分で守るしかありません。契約は適当にせずに、よく確認しましょう。
ただ、東京の都心の物件は定期建物賃貸借であることが多いです。
「オーナーみんなが『定期』で契約することにすれば、借り手は『定期』で契約するしかない」という考えのもと、スクラムを組んでいるのかもしれませんね。
多くの物件は「更新」の代わりに「再契約」してくれると思いますが、賃料を上げると言われる可能性はあります。
やむを得ず、「定期建物賃貸借」で契約する方は、更新ができないこと、再契約の際には賃料を増額されるというリスクを十分に確認しましょう。
さいごに
みなさんの城(サロン)を「どこにするか」も大事ですが、「契約の内容(定期建物賃貸借かどうか)」も重要なポイントです。
これから物件選びをする方、更新時期を迎える方は、契約の内容にアンテナを張ってみてくださいね!
松本 隆
弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー
早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。
横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115
監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子 撮影/幡司誠