「G・U・M(ガム)」や「Ora2(オーラツー)」などのオーラルケアで知られるサンスター。
実は、ヘアケアやスキンケア製品、金属部品、工業用接着剤など、その事業分野は幅広い。そのサンスターが、美容サロンへの進出に意欲を見せている。
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日本生まれ・スイス本社のグローバル企業
サンスターは、故・金田邦夫氏が1932年(昭和7年)に大阪で創業した日本企業だが、2009年にスイスへ本社機能を移した。
2021年1~12月の業績レポートによると、日本が占める割合は49%。サンスターグループ全売上高の半分ほどにとどまっている。
世界23カ国に拠点を持ち、約90カ国で製品を販売。売上高の割合もアメリカ(22%)、日本をのぞくアジア(18%)、ヨーロッパ(11%)とバランスよく分布するグローバル企業だ。
売上の3分の1は工業用製品
創業当時は自転車部品を販売していたが、やがて自転車用ゴムのりの製造に着手。その容器に歯磨き剤を充填したことを契機に“オーラルケアのサンスター”へと成長していった。
2021年の事業別売上高は、オーラルケアや化粧品、健康食品などの消費財事業が64%。
残りの36%、全売上高の3分の1を金属部品や工業用接着剤などの生産財事業が占めることは、サンスターという企業の大きな特徴と言える。
高濃度エタノールを乳液化、うるおう除菌乳液「ピュアリア」
サンスターの化粧品事業は、意外と歴史が長い。
たとえば、アメリカ生まれのヘアスタイリングブランド「VO5(ブイオーファイブ)」は、サンスターが1966年(昭和41年)に日本での販売を開始して以来、半世紀以上にわたるロングセラーとなっている。
ただ、理美容室向けについては、プロフェッショナルユースの「アーティストライン」を展開しているものの、競合が多く、シェアを取れているとは言いがたい。
プロフェショナル向けの「VO5」製品
VO5の主力はヘアスプレー。主な販路はドラッグストアだが、理美容室向けには「VO5 for アーティストライン」を展開している。
また、青色の補色効果で白髪を目立たなくする「ブルーコンディショナー」(白髪用スタイリング剤)も根強いファンを抱える商品だ。
>> アルバートVO5 ブルーコンディショナー ※プロフェショナル専用
その状況下で新たに美容サロンへの展開を目指すのが、うるおう除菌乳液とミニマルデザインの除菌脱臭機。
昨年11月に開かれた「東京ネイルエキスポ」では、特別協賛ブースを出展して認知拡大を図った。
目玉のひとつである手肌用アルコール除菌乳液「Pure-ria(ピュアリア)」は、従来は困難だった「高濃度エタノールの乳液化」に成功したものだ。
「ピュアリア」は独自のエマルジョン製法により、70vol%の高濃度エタノール水溶液へ保湿成分のオリーブ果実油を安定して配合することに成功。乳液状の除菌剤として製品化した。感触はさっぱりと軽く、サロンワークをさまたげない。
エステサロンへの導入を徐々に進めており、今後はヘアサロンへの展開にも力を入れていくという。
ミニマルデザインの脱臭機「クワイス」
また、工業製品に強いサンスターらしく、光触媒を搭載した除菌脱臭機シリーズ「クワイス」にも自信を見せる。
円筒形の「クワイス エアー 01」は薬剤を使わず、光触媒と深紫外線(UV-C)システムを搭載したクリーンな除菌脱臭機で、病院や歯科に導入されている。
ドーナツ型の「クワイス エアー03」は、家庭での使用を念頭にインテリア性を高めたアイテムで、白、黒、赤、青、緑と豊富なカラーバリエーションをそろえる。
高い機能性とスタイリッシュなデザインを強みに、クワイスシリーズを美容サロンへ積極展開していく考えだ。
美容業界の思わぬ伏兵、サンスター
このほかにも、サンスターの商品は独自の切り口が光る。
一例をあげると、男性向けヘアケアの「MAGMAS(マグマス)」は加齢とともに減少する亜鉛に着目したもので、髪のキューティクルに亜鉛を導入するという。多様な商品でにぎわうシャンプーカテゴリーにおいても、めずらしいコンセプトのブランドだ。
開発力も営業力もある大手企業だけに、除菌剤や脱臭機を機に美容サロンへのルートが確立されれば、他の美容サロン向け商品やヘアケア商品が急成長する未来も十分あり得る。美容業界の先行企業にとって思わぬ伏兵になるかもしれない。
取材・撮影・文/大徳明子