こんにちは! 弁護士の松本隆です。
連載も第3回となりました!
最近は美容師の専門学校の生徒たちに「弁護士なのに学校で教えているなんて、先生はヒマなんですか?」と言われておりますが、めげずに頑張りたいと思います。
さてさて、今回もヘアサロン経営者の方たちからのご相談に回答していきます!
毎回くどいですが、この記事は「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく」をモットーに弁護士が書いています。
そのため、あえて内容をシンプルにしており、その結果、説明を省略している部分があります。(何度も言っておりますが、難しいことを書かないで済ますための言い訳じゃありません)
というわけで、この記事は「法律の話をざっくり理解すること」を目標にお読みください。
第3回は「パワハラ防止法~後編~」です。
後編まで読んでいただいているということは、前編が勉強になったと思ってくださったのでしょうか?
とても嬉しいです!
※まだ前編を読んでいない方は、第2回「パワハラ防止法~前編~」からお読みいただけますと幸いです
まずは、パワハラについての裁判例をご紹介します。
美容室における裁判例ではありませんが、見てみましょう。
福岡地判 令和4年3月1日(ウエストロージャパン2022WLJPCA03019002)
■ 登場人物
X社(パン・菓子の製造販売会社)
加害者 Aさん(パワハラ当時は会長で経営の責任者)
被害者 Bさん(パワハラ当時は代表取締役)
■事案の概要
1 平成29年6月から、BさんはX社の代表取締役であった。
2 平成30年5月から、X社の業績が悪化していた。
3 平成30年11月以降、AさんからBさんに以下のような言動があった。 (※以下の言動は判決文から抜粋)
①平成30年11月5日~平成31年1月15日の会議
「無能だ」「サラリーマンだから辞めればいいと思っている」「馬鹿だ」など
②平成31年1月18日の会議
「馬鹿ってお前は、会社の経営のことは何も考えないで」
「会社の金なんかどうなっても良いとかさ、根底にある」
「お前、もう一生恨むぞ、俺は、おぉ、引きずり倒すぞお前を」
③平成31年1月21日の会議
「会社の金を横領するよりも始末が悪い」
「何回も言うけど金を横領して、お前、辞めさせられるよりお前たちゃ始末が悪いんだぞ」
「無能なサラリーマンや、本当に無能やな」
「最悪の状態になったら…(略)…呪い殺してやるからな」
④平成31年1月28日の会議
「本当、もう会社の金を横領するより始末が悪いな、お前は」
4 平成31年2月26日、Bさんはうつ病と診断された。
5 平成31年3月31日、Bさんは会社の代表取締役を退任した。
6 Bさんは、X社とAさんに対して損害賠償請求等の裁判を起こした。
結論として、裁判所は①~④ともにパワハラであると認定し、慰謝料を「100万円」としました。
パワハラの慰謝料は10万円~300万円くらいが相場だと言われています(本当は慰謝料に相場があるとは言えないのですが)。
以下、「どうして今回は100万円なのか」を簡単にですが、分析しました!
Q&Aの形にしてみたので参考にしていただければ幸いです。
Q)
こんなにひどい発言があるなら、慰謝料は300万円くらいにならないの?
A)
たしかに、Bさんの「うつ病の原因」がAさんの言動(パワハラ)だと言えれば、慰謝料は300万円になった可能性があるでしょう。
今回の判決では、Aさんの言動はパワハラであると認定されたものの、BさんはX社の業績が悪化して悩んでいたという事実もあるので、「うつ病の原因がパワハラとは限らない」と判断されました。
Q)
そうとはいえ、100万円は少ないと思うんですが・・・?
A)
今回、裁判官は、
・Aさんの言動は他の取締役の前でされたもので、Bさんの会社内の評価を大きく低下させた
・Aさんの言動は、代表取締役(経営者)になったBさんを、感情のおもむくまま、馬鹿、無能と罵って経営者であることを否定するなどして、Bさんの業績や会社内での地位、人格を否定した
という2点からBさんが精神的苦痛を受けたといえるとしました。
一方で、裁判官は、
・平成30年5月以降、X社の業績が悪化していたため、Aさんが一定程度強い発言で指導や叱咤激励するのもしょうがない状況であった
と考え、「Aさん言動の悪質性は少し減る」としました。
したがって、X社の業績が悪化していたという事情がなければ、慰謝料は150万円~200万円になっていた可能性があるといえます。
「どうして100万円になったのか」の分析は以上です。
なお、この事例は厚労省のパワハラ6類型のうち、(2)精神的な攻撃、(4)過大な要求のケースに分類できます。
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