一言で言うのは難しいんですけど、美容師はやっぱり美容師で稼がないとって思うんですよ。自分の「技術」と「人間力」。これは、他のやり方をダメと言っているわけでは全くないです。ただ、違うところに力を使い始めると、なんだか違うことになっちゃう気がしています。
せっかく、好きな髪型にして、好きな格好をして、好きな仕事ができているのに、お金がもうかるとか商業的なことだけに支配されたら「ただの大人」になってしまう。そことは別のところでずっと戦っておかないと、どうもつまらないんですよ。
結局は、目の前にいる人にしっかりと、自分の技術と人間力を持って向き合うってことに尽きると思うんですよね。
いつまでも、美容師としての自分の成長に貪欲にいたい。トレンドの変化にも追いついておきたいし、新しい人材にも負けたくない。性格的なことかもしれないけど、負けず嫌いな気持ちは持っておきたいんです。それが結果的にサロンの繁栄につながったらいいと思います。
僕の仲間の美容師にはそういう考え方の人間が多い。小さなことにもムキになれる子どもみたいなやつが多いんです 笑
表参道や青山エリアで店を構える同い年の戦友5人で「中二会」という美容師ユニットを組んでいるんですが、中二会でヘアショーをやるときは「ガチ切り」っていうのをステージのテーマにしています。
どのイベントに出ても、タイムは5分とか6分以内で、ロングからショートまでみんな一斉に無言でひたすら切りまくります。みんなでライダースを着て、音楽はスピード感のあるガレージロックをガンガンかける!
人様へ説教するために始めたのではなくて、リアルなことって面白いよね!っていうメッセージです。「技術」が浮き彫りになる緊張感とかドキドキワクワク感を、俺らが率先して発信していきたいと思っています。
実は、中二会は日本武道館のステージに立ちました。美容メーカーの全国コンテストで審査員とヘアショーを行ったんですけど、Zepp Nagoya、Zepp Namba、Zepp Fukuokaと回って、最後は武道館と、まるでバンドの全国ツアー。
高校の卒業アルバムに「ロックスターになる」って書いたのは、夢物語で終わりました。でも、持つものはマイクからハサミに変わったけれど、こっちの世界で武道館に立てたんだなって思うと、すごく感慨深いですよ。
武道館では2度もショーをやらせてもらえて、めちゃくちゃうれしかったですね。
年齢を重ねるとみんなそうだと思うんですけど、ちゃんと教えてあげないと、この子たちが恥ずかしい思いをしてしまうって思うようになりました。昔はそんなこと思わなかったんですけどね。
それこそお店を出した時は、人が辞めないサロンを作りたいなって思っていたので、辞めるって言われたら正直、良い気持ちはしなかったですよ。
だけど、実際自分も独立しているし、人の心は変化する。一度気持ちに火がついたら、もうやりたくなるじゃないですか。一緒に働いてくれた人たちがいたから何年も続けてこれたわけで、ここにいる間に身につけたり経験したことは、辞めたからって全部消えるわけではないなって、ようやく思えるようになったんです。
辞める人に対しては、巣立つ子を見守る親みたいな気分というより、美容師を辞めるなよ、って同志を送り出す感じかな。美容師をやっていてくれさえすれば、近況を聞けてうれしいけど、辞め方が不義理だったりすると、もう話すことはないだろうから。
もちろん、自分が魅力的な店作りをしてずっといてもらえるようにするのが仕事ですし、一緒に働きたいと思ってもらえる魅力的な人間であり続けなきゃいけないと思っています。
この心境の変化は、ここを辞めたやつと話したときに、意外と楽しかったからなんですよね 笑
この店にいるときの緊張感のある関係から少し解き放たれて、人と人としてフラットな感じに話せた。「あ、なんだ。こんなに楽しい感じで話せるんだ」って思ったら、これも良いなって思ったんですよ。
せっかく数年間、家族よりも長くて濃い時間を過ごしたのに、辞めたからってその関係性を壊しちゃうのは、今までの自分は大人気なかったな、っていう反省もあります。
今では、ここを辞めたやつも、後輩のスタイリストデビューを祝いに来たりして、結構遊びにきますよ。
音楽や映画など、自分の好きなものと仕事の作品作りは影響し合っていますね。
自分がかっこいいと思うものに共通しているのは「色っぽさ」です。ロック的な要素のある世界観は、年齢性別こだわらず、見た目だけでなくて内面から感じるものも含めて色気があると思うんですよね。
ライダースに少し濃いめのマニキュア、たばこ、ショートカット、だけどエレガントで女性らしい、みたいな世界観が好きなんです。
もちろん、お客さんに合わせる仕事なので第一にお客さんの要望に沿うスタイルを作ります。
ただ、「色っぽさ」は僕にとってブレない着地点。仕事ではフェミニンなスタイルをやることが多いんですけど、ショートカットにしたいって方もいれば、たまにはツーブロックにしたい、奇抜な髪にしたいって方もいます。
そういう普段あまりやらないスタイルのときでも、自分のこだわりのゴールを決めていれば、だいたいなんでも大丈夫ですね。
それがお客さまに伝わらなくたっていいですし、むしろ「なんかいきなり色っぽくされたな」なんて思わせたらダメだと思っています。
長く付き合っているお客さまが多いので、僕というのはこういう人間だというのを知ってくれて、そういうぶれないところが伝わっているのかなとは思っています。 ヘアショーで洋服を決める時も、流行を取り入れようが、奇抜なものを作ろうが、桜井印として「色っぽさ」を入れておきたいんです。
今はそれこそ配信があるから、レコメンドされるし、アプリに音源を聴かせたら曲名も検索できる時代ですけど、僕はレコード、CD世代です。CDを買いすぎちゃうから月20枚までって決めて買っていました。
楽曲のプロデューサーは誰で、レーベルがどこだから、音の雰囲気がなんとなく想像がつく、ってなるくらいまでめちゃくちゃディグって(調べまくって)ました。
小学校5年生の時にレコードを貸し借りするのが流行っていて、みんなチェッカーズとか中森明菜ちゃんとかを聴いていたんです。自分もなんでもいいからレコードが欲しかったんですけど、どれを聴いても、すごくいい!とは思えなくて。
そんな時、朝7時くらいの番組に普段あまりテレビに出ないメタルバンドがたまたま出ていて、めちゃくちゃかっこいい!って思ったんですよ。もう、テレビに釘付け。それがLOUNDNESSっていうヘヴィメタルバンドで、「THUNDER IN THE EAST」っていう全編英語のアルバムを初めて買ってもらいました。めちゃくちゃ聴いてましたね。
でも、友達は誰も反応しなくて、そこから我が道をつき進み始めたんです。「お前らとは合わない!一生ダサい音楽聞いてろ!」って内心思っていました。どっちがダサいんだかわからないんですけど 笑
うちの母親がエルヴィス・プレスリーとかをかけていたから馴染みもあるし、小さいころから英語の歌詞の方がかっこいいと思っていたので、中学、高校くらいまではハードロックとメタルしか聴かなかったです。
ただ、MTVとかも見てたので、他の洋楽のポップミュージックにも詳しかったですし、「ミュージックライフ」「BURRN!」という雑誌を毎月買って、ずっと読んでいました。音楽への投資は惜しまなかったです。
今はほとんど配信で聴きますが、アルバムを通して聴きたいものについてはCDやレコードを厳選して買っています。アルバムって曲順にも作り手の想いが込められていると思うので。
嫁さんも音楽が好きで、特にヒップホップが好きなので、レーベルでディグるという聴き方は彼女から教わりました。
そんな音楽好きな2人ですが、6月7日に子どもが産まれまして、名前を「音斗(オト)」と名付けました。 子どもの誕生記念になるものが買いたいと思い、産まれた当日に中古レコード屋に行ったら、「The Birthday」の最新アルバムが一枚だけあったんです。音斗が僕らのところにきてくれた奇跡を祝うように、このレコードにも会えた気がして、即決しました。すごく大切にしている大好きなアルバムです。
なんて言ったらいいんだろうな。空気を変えるもの。
目的が音楽を聴くことじゃなくても、何か景色を見る、食事をする、そんな時に、いい音楽があると雰囲気が倍増しされるじゃないですか。
もちろん好きなハードコアバンドをただそれだけがっつり聴くというのも好きなんですけど、雨の日の憂鬱がやわらいだり、普段飲むウイスキーがすごくいいお酒に感じたりする。
そうやって、空間をクリエイトするもの。だから、センスが良いお店は音楽をこだわるもんだって思っています。
空間をクリエイトするという意味で言うと、中二会のヘアショーの音楽は全部僕が決めていて、あえて洋楽は一切使わず、日本語ロックでメッセージがガツンと伝わるように選ぶんです。
BLANKEY JET CITY、チバユウスケ大先生のTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの2バンドはよくかけていました。
個人としてはちゃんと教育ができる人になりたいなって思います。教育サロンって言っておきながら、個人的にはまだまだ課題を感じています。
自分で全部やっちゃうので人に任せるのが苦手なんですよ。けど、自分がいつまでもトップランナーでいるよりかは、次のトップランナーを作らなきゃな、と思っています。
本当はもっと早いうちから教えることができていたらよかったんですけど、負けず嫌いだから、自分の成長に費やしちゃいましたよ。
自分の技術を100~120%伝えるって本当に難しいですが、次世代のためにできることをしていきたいです。
外から評価されることは、もちろんありがたいしうれしいです。雑誌とかで取り上げてもらったり、ショーをやったり、サロンワーク以外の幅のある仕事ができるのも楽しいですしね。
カミカリスマに選ばれなかった年は、悔しい気持ちも正直ありましたし。
けど、外からのわかりやすい評価をもらって一番喜んでくれるのって、僕のお客さんなんですよ。
なので、お客さんやスタッフにとって誇れる美容師になれていたらうれしいし、この評価によって周りへいい影響を及ぼすことが自分の役割な気がしてます。
カミカリスマ2022は個人で表彰されましたが、次はサロンで受賞したいです。
うちはブレずに教育サロンであり続ける。それが、店としての展望です。今は、うちみたいな教育サロン、フリーランスの集まるシェアサロンなど、いろいろな形態のお店があります。どれも悪いことではないと思うんです。ただ、「ブレない」ってことが大切。
だんだん無くなりつつあるのかもしれないけど、美容業界は師弟関係がある業界。若い子が頑張ろうと思えるのは、圧倒的にうまい先輩がいるからだと思います。うちはそういう基本的なことをちゃんと伝える空間であり続けたいんですよね。
あとは、「生涯顧客」という考え方です。お客さんがお子さんの代まで代々常連になってくれたらうれしいですね。美容室って本来そういう存在だと思うんですよ。
地方ではそういう存在になれることが多いかもしれないけど、それをこの表参道というエリアでやりたい。
今担当しているお客さんたちの中にも、若い子がめちゃくちゃ増えて来たんですけど、それは常連さんの娘さんや息子さんなんです。親と一緒に来ていた子たちが、20歳とかになって自分で来てくれるんです。
この間も高校卒業したからブリーチしたいって子が来たので、「お母さんにやるって言ってから来たの?」って聞いたら、「言ってない」っていうんですよ。お母さんも常連さんだから、「俺が怒られるんだけど」って言ったら「桜井さんがおすすめしたってことにしてよ」とか言われて。「流石にバレるよ」って諭したりしています 笑
いやぁ、いろいろ考えますよ、情報がたくさんあるから。自分のやり方は良くないのかなとか、経営者的にはこういう方がいいのかなとか思うけど、今さら変えられないんですよ。だから、結果的にいつも選ぶ行動は「ブレない」。
→ 次のページ/チョキチョキ切っても切れないもの
「人から言われて一番うれしい言葉が、『全然変わらないよね』」