パワハラの定義についてはイメージできたものの、具体例がないとわからないですよね。
それを見越して、厚生労働省が「パワハラ6類型」を挙げてくれています。厚生労働省、なかなかやりますね。
パワハラ6類型とは
1)身体的な攻撃
2)精神的な攻撃
3)人間関係からの切り離し
4)過大な要求
5)過小な要求
6)個の侵害
です。
皆さんが「パワハラ」だとイメージしていないものも含まれています。ひとつひとつ見ていきましょう!
身体的な攻撃は、主に「暴行・傷害」です。まさに字のごとしで「パワー」ですね。
とはいえ、最近はさすがに殴るとか蹴るとかいうパワハラは減ってきています。ただ、「一番あってはならないパターン」なので最初に例示されています。
ちなみに、厚生労働省によれば、「間違ってぶつかる場合は該当しない」とされています。
でも、漫画でよくあるみたいに「あ~らごめんなさい♪」とか言いながらわざとぶつかってくるやつってパラハラじゃないの?と個人的には思います。
精神的な攻撃は、「脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言」があたります。
最近はこの類型が多いので、パワハラといえばこれを思い浮かべるのではないでしょうか。
美容室ですとお客さんがいる時間帯にはなかなか起きないかもしれませんが、業務終了後の時間帯にはあっておかしくないですね。
特に、「給料泥棒」「寄生虫」「金食い虫」などの具体的な暴言では少額ではあるものの慰謝料が認定されることが多いです。
ただし、厳しく業務について注意するだけならこれにあたりません。
厚生労働省も「再三注意しても直らない場合に一定程度強く注意をすることは該当しない」と説明しています。
「一定程度」がどのくらいの程度かはわからないですが、1時間2時間もの長時間説教するケースだとパワハラに該当するかもしれません。
人間関係からの切り離し、これは「隔離・仲間外し・無視」です。いじめに近い類型です。
ただ、「パワー」という言葉からは遠いので、パワハラにあたるというイメージはつきにくいですよね。
美容室ですと、人数が増えてくると起きやすいケースです。
お客さんもスタッフを無視には気づかないと思いますので、お客さんがいる時間帯にもありそうです。
厚生労働省は「育成のために短期集中的に 別室で研修を受けさせること」はこれに該当しないとしていますが、美容室では「別室」の研修というものはあまりないかもしれません。
過大な要求は「業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害」を指します。
例えば、「お客さんを毎月20人呼べ」というノルマを課すことはこれに該当します。
厚生労働省によれば、「育成のために現状より少し高いレベルの業務を任せること」は該当しないとしています。
美容室ですと、少し高いレベルの業務をやらせてしまうとダイレクトにお客さんに影響してしまうので、できないのにカットやパーマをやらせるということは少ないかもしれません。
ちなみに、「現状より少し高いレベル」の「少し」がどのくらいかはわかりませんね。
過小な要求は「業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと」です。
美容室では、嫌がらせ的に雑用だけをやらせる場合を指します。
一般的な会社ですと、例えば、シュレッダーをかける業務だけをやらせたり、特に何も仕事を与えなかったりすることが該当するでしょう。
これも「パワハラ」という言葉からはイメージがしにくい類型ですね。
厚生労働省は「能力に応じて一定程度業務量を軽減することは該当しない」としていますが、これは「仕事ができない事情がある人のことを考えて仕事を減らしてあげる」という場合を考えているように思います。
個の侵害は「私的なこと(プライベート)に過度に立ち入ること」をいいます。
具体例としては、業務後に無用な飲み会やキャバクラに付き合わせたり、家族などのプライベートな話を必要以上に聞いたりするような場合が考えられます。
「え?これもパワハラになっちゃうの?」と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、現に裁判例では、キャバクラに連れ回したケースで損害賠償請求を認めたものがあります。
厚生労働省は「配慮を目的として家族の状況をヒアリングすることは該当しない」としています。
例えば、ご家族に介護が必要な人や子育て等で長時間働けない事情があるかを確認するような場合にはご家族のことを聞いても問題ないよ、という意味でしょう。
さあ、ここまででパワーハラスメントのイメージはつきましたでしょうか?
第3回の「パワハラ防止法~後編~」ではパワハラの裁判例と美容室でやるべき研修などの対応についてお伝えします!
松本 隆
弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー
MATSUMOTO TAKASHI/早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。美容専門学校では「美容師法」の講義を担当。2021年よりデジタルハリウッド大学でも教鞭をとっており、青山学院大学法学部の講義(現代弁護士論)にも毎年ゲストにて登壇している。大学から社交ダンスを続けており、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年はメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもエイジングケアは必ずできる」というのがモットー。
横浜二幸法律事務所
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監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子 撮影/幡司誠
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