⑤サロンと二人三脚 生産性の高い「プライムサロン」へ
── プロフェッショナル部門のもうひとつの課題としてあげられた「営業力」については、どのような施策をうっているのでしょうか?
サロン様の役に立つカンパニーになろう。当たり前のことですが、これをずっと言い続けています。「役に立つ」とは「生産性向上に貢献すること」です。
優れた商品であっても、ただ作るだけでは貢献できません。ヘアカラー比率、店販比率、トリートメント比率が上がり、客単価アップの理由となることでお役に立てます。
「商品をただ提案するのではなく、サロン様の生産性向上に貢献できる方法を見つけていこう」と社員みんなに伝えています。
── 生産性向上には、デジタルの活用が切っても切れない話かと思います。
そうですね。美容業界も働き方改革が進み、美容師さんの学びの場をデジタルで用意することが求められるようになりました。2018年秋にスタートした「ホーユープロフェッショナルアプリ」では、ヘアカラーやスタイリングの技術動画や商品情報などを見ることができます。
当初想定していたよりも多くの方に使っていただいており、ダウンロード数は約1万3000(取材時)となりました。デジタル化はコロナ禍の前から進めてきましたが、業界全体で動きが加速したと感じています。
── サロンと二人三脚で生産性を向上するプログラムを始めたそうですね。
2022年から始めた新たな取り組みが、生産性の高い「プライムサロン」を共につくるというものです。一定の年間売上を前提とした上で、当社と共創して繫栄を目指すサロン様であることが条件です。
営業担当者がサロン様と深く関わりながら、生産性を向上させるための解決策を見つけて実行していきます。中長期の目標として、1000店舗の規模にしたいですね。
⑥「黒髪」ニーズはワールドワイド
── 続いて、世界70カ国で展開する海外事業についてお聞きします。どのような商品を強みにしていますか?
やはり強みは、黒髪用の白髪染め商品です。コンシューマー事業は中国やアメリカ市場が非常に好調で、売上も成長率も高いですね。
たとえ、その国における割合としては低くても、黒髪の方は世界各国にいます。たとえばアメリカでも、アフリカンアメリカンやヒスパニックの方は黒髪ですよね。一見するとニッチな黒髪用ですが、この土俵で戦うことこそ我々にとっての王道だと考えています。
プロフェッショナルの海外事業は大きくないのですが、ウエイトでいうと韓国です。中国は取り組んでいる最中で、成果が出るのはまだ先になりそうです。
── コンシューマー、プロフェッショナルともに、今後は海外比率を高めていく方針なのでしょうか?
少子高齢化で国内市場が縮小していく以上、海外展開への注力は必要です。
海外事業の売上高は、コンシューマーとプロフェッショナルを合わせて全体の30%程度。積極的にというよりも、自然に無理のない範囲で伸ばしていければと思います。
⑦次の100年へ しなやかで強い会社に
── 2023年3月に、いよいよ設立100周年を迎えます。これを記念した体験型施設の公開や、2024年のヘアカラー工場増設を予定されているそうですね。
ホーユーの本社は、尾張徳川の武家屋敷跡である徳川園や徳川美術館にちかいのですが、このすぐそばに「ヘアカラーミュージアム」をつくりました。建設はすでに終わっていて、2023年春に一般公開する予定です。
ヘアカラーに特化した博物館というのは、これまでになかった試みです。ヘアカラーの歴史を知ったり、様々な体験をしていただいたりすることで、ヘアカラーに興味をもっていただけたらと思っています。
また、愛知・瀬戸市の自社工場に隣接する形で、新たな製造棟と倉庫棟を建設します。これにより、生産力の向上や、効率化による生産性の向上を見こんでいます。
── 設立100周年を迎え、さらなる飛躍が期待されます。ひとつ前の大きな節目、2005年の創業100周年には、コーポレートブランディングを刷新されましたね。
2005年にコーポレートロゴを一新し、「COLOR YOUR HEART 心に彩りを」というコーポレートスローガンを掲げました。実は、この時のプロジェクトリーダーは私が務めたので、ロゴもスローガンも愛着があります。
コーポレートブランディングの根底にある「ヘアカラーは、髪の毛を美しくするだけでなく、心の中までも美しくする」という考えは、100年を超える歴史の中で脈々と受け継がれてきたものです。
それを海外でも通用するメッセージにしたのが「COLOR YOUR HEART」であり、海外にいる社員からもいいスローガンだと言われました。
── 想いのこもった素敵なスローガンですね。今度は社長という立場で、設立100周年という大きな節目を迎えることになります。意気込みをお聞かせください。
社長になって改めて感じたのは、「ホーユーは社員あってこその会社である」ということです。
メーカーは商品を世の中に送り出しますが、つくるのも売るのも実際にやるのは社員です。だからこそ、「社員がイキイキと働く会社が一番強い」と思っています。
今もホーユーは社員が元気な会社ですが、より一層、社員がのびのびと働いて、持っている能力を発揮できるような会社にしていきたいですね。
── 社員がイキイキと働いていて声をあげやすい、そんな社風を象徴するエピソードがあったらうかがえますか?
たとえば、カラーシャンプーとしては後発にもかかわらずヒット商品となった「SOMARCA(ソマルカ)」がそうですね。
遅れを取り戻そうと一刻も早く世に出したいと私が思っていたのに対し、担当者は、時間をかけてでも競合と差別化できる商品を開発することにこだわりました。
あせる私の声に流されることなく、自信作として誕生したのが「髪はしっかり染まるけれど、肌や爪は染まらないカラーシャンプー」です。その結果、サロン様から名指しで選ばれる商品になりました。
トップの鶴の一声でものごとが決まる会社だったとしたら、この成功はなかったのではないでしょうか。正しいと考えていることなら、社長に対してでも社員が堂々と意見を言える環境、風土を醸成することで、しなやかで強い会社にしていきたいと思います。
佐々木 義広
ささきよしひろ
ホーユー株式会社 代表取締役 社長執行役員
岐阜大学工学部応用化学科を卒業後、1990年4月にホーユーに入社。研究部門からキャリアをスタート。営業部門やアメリカ現地法人を渡り歩き、2021年1月に常務取締役、2022年1月に代表取締役に就任。創業家以外からの社長就任は初。2017年3月より、ホーユープロフェッショナルカンパニーのプレジデントを務めており、ホーユー社長と兼任している。
取材・文/大徳明子