明治38年創業、大正12年設立の老舗であるホーユー。設立100周年を翌年に控えた2022年1月、ホーユープロフェッショナルカンパニー プレジデントの佐々木義広氏がホーユー社長に就任しました。
100年を超える同社の歴史で初めて、創業一族ではない生え抜きの社長となった佐々木氏に、プロフェッショナル事業の強みと課題、メーカーとサロンの二人三脚で生産性向上を目指す「プライムサロン」の取り組み、次の100年に向けたビジョンをうかがいました。
目次
①創業1世紀超、年商500億円超のヘアカラー大手
── 2005年に創業100周年、2023年には設立100周年を迎える老舗企業、年商500億円の大手企業で初の生え抜き社長です。発表当時は全国紙各紙で大きく報じられましたが、反響はいかがでしたか?
ホーユープロフェッショナルカンパニーのプレジデントを2017年3月から務めていたので、特に社内の雰囲気が変わったということはないですね。
実は、本社最上階の社長室で仕事をするのは週に2日だけ。プロフェッショナルカンパニーのフロアで仕事をしていることの方が多いです。
ホーユーの社長、ホーユープロフェッショナルカンパニーのプレジデントに加え、プロフェッショナルカンパニーのマーケティング室長も兼任しています。やはり商品開発が肝なので、ここは私が直接見るようにしています。
②振り出しはパーマ剤の開発 研究職からプロフェッショナル統括へ
── 工学部からの新卒入社で、研究職としてキャリアをスタートされたとうかがいました。
小さなころからモノづくりに携わりたいと思っていたので、地元企業であるホーユーの研究所に入りました。1990年の入社から8年間ずっと、美容室向けのパーマ剤を開発していたんです。ホーユーは本社も研究所も名古屋ですが、試作品を持って東京の美容室までおじゃましていましたね。
アイロンパーマ剤も担当していたので、「お兄ちゃん、ここ座って」と言われ、私自身がモデルになって訪問先の床屋さんでアイパーを当てられたこともありました。
── まさに、現場で育ったモノづくりのエキスパートという印象を受けます。
いえいえ、ある専門分野を極めたスペシャリストというよりは、広く浅く経験してきたというキャリアです。
スタートこそ研究職ですが、その後はコンシューマー商品の開発や経営企画を担当し、アメリカ現地法人の社長を務めるなど、いろいろな部署を渡り歩いてきました。
おかげで、それぞれの部署が何をしているのか具体的にイメージできるので、これは経営者として有利だと思っています。
③強みを伸ばす! 全方位アプローチのヘアカラー体系
── 「ヘアカラーのホーユー」との呼び名の通り、老舗にして国内有数のヘアカラー製造企業です。市場でのポジションは?
コンシューマー向けヘアカラーの売上金額は、26年連続で国内ナンバーワンを維持しています(インテージ調べ)。
プロフェッショナル向けヘアカラーは競合も増えたので、いまは国内で4位あたりです。
── 近年は、ヘアカラーのリニューアルや新発売が盛んですが、その狙いは何でしょう?
ヘアカラーには、習熟が必要な剤もあれば、誰でも塗りやすいものもあります。
どちらのニーズにも応えられるよう、前者は「PROMASTER(プロマスター)」、後者は「PROSTEP(プロステップ)」で、全方位にアプローチできるようブランドポートフォリオを再構築しました。
── 発売から20年以上経つ「プロマスター」は、御社を代表するプロフェッショナル向けヘアカラーですね。
最高の仕上がりを求める「プロマスター」は、その分、技術も知識も必要となります。
近年の美容業界では、誰が塗ってもそこそこいい仕上がりを得られるヘアカラーが主流になっているため、プロマスターは異質な存在です。しかし、プロのカラーとして絶対に必要だと思っているので、2019年に大きくリニューアルしました。
「プロマスター」は我々の旗艦ブランド、ポートフォリオの最上位にあるシンボリックなブランドです。それをより高品質なものへバージョンアップできたことを誇りに思います。
また2017年には、1剤と2剤に加え、3剤としてパウダーを取り入れた画期的な3剤式ヘアカラーの「プロマスターアプリエ」を投入し、新しいカテゴリーを開拓しました。
── 一方で、慢性的な人手不足やスタイリストデビューの早期化を背景に、誰でも塗りやすく安価なヘアカラー剤の需要がますます高まっているのも事実です。
そこで、万人受けするヘアカラーとして開発したのが、2014年発売の「プロステップ」です。2021年にはグレイカラーをリニューアルして、新ライン「プロステップ ルミシャス」を追加。ヘアカラーへのニーズに対して全方位的に応えられるようになりました。
④弱みから強みへ! ヘアケア&スタイリングを拡充
── 2017年にプロフェッショナル部門のマーケティング室長に就任されて以来、ヘアカラー以外も意欲的に発売されているのはなぜでしょう?
プロフェッショナル部門は「新商品開発」と「営業力アップ」が課題でした。そこで、まず新商品の開発については、ヘアケアやスタイリング剤が長年の苦手分野となっていたのでメスを入れたというわけです。
その結果、前期末でヘアケア・システムトリートメントの「BYKARTE(バイカルテ)」が計画比約160%と好調で、スタイリング剤の「NiNE(ナイン)」も前々期実績に対して2桁増の計画をほぼ達成しています。
また、カラーシャンプーとしては後発の「SOMARCA(ソマルカ)」もヒット商品となり、計画比で約115%と好調でした。
── 新商品が着実に結果を出しているのですね。コロナ禍の影響はどうでしたか?
コロナ禍で店販の売上が伸びたサロン様が多いと聞きますが、実際に、当社もヘアケアやスタイリング剤などの店販品がよく動きました。
新型コロナの脅威が広がった2020年こそプロフェッショナル事業が苦戦したものの、翌年には回復し、コロナ禍以前の2019年と比較しても売り上げが増大しました。 新商品を投入した効果もあり、順調に成長しています。
── 今後、打ち出していきたい商品には、どのようなものがありますか?
ひとつは、ブリーチ剤ですね。ここ何年かは手を入れてこなかったので、テコ入れをしたいカテゴリーです。
そこで、ブリーチした髪専用のジェルベースのヘアカラー剤として、2022年6月に「IROJIKAKE(イロジカケ)」を発売しました。施術に時間のかかるブリーチオンカラーが短時間で仕上がるのが特徴です。
また、日本の男性の染毛率は女性に比べてかなり低く、当社も20年以上前から提案と施策を繰り返しています。
その中で生まれたのが、白髪を黒ではなく濃いグレーに染め、なじませることで目立たなくするという「H.E(ヒー)」です。男性の白髪染めに対する重い扉を開けるカギとなる商品だと思っています。
── こうしたヒット商品を続々と生み出す開発力を語るうえで欠かせないのが、研究への注力体制かと思います。コストと時間がかかる基礎研究は敬遠されがちですが、自社の研究所を構え、地元・名古屋の藤田医科大学と共同研究をされていらっしゃいますね。
まさに、そこが当社の強みです。例をあげると、毛髪の主要成分であるシスチンに着目した「BYKARTE(バイカルテ)」には基礎研究の成果が反映されています。また「SOMARCA(ソマルカ)」は、カラーシャンプーとしての機能に加え、地肌や爪に色が染まらない点が支持を集めました。
さらに、藤田医科大学とアレルギー関連の研究も進めています。2022年11月より、医療機関向けのアレルギー受託解析サービスを始めました。これは、ヘアカラーのアレルギー性皮膚炎の研究成果を応用したもので、食物アレルギーの検査を請けおうという新規事業です。