④離職をふせぎ、美容室の新収益モデルつくる
「Z世代向けアプリ」で業界離脱ふせぐ
── 上場にあたって発表された中長期経営戦略に、アプリへ1億円を投資するとありますが、これはどのようなものですか?
若い世代、1990年後半から2000年代に生まれたZ世代向けの情報アプリで、この3月にローンチします。初期の開発費が4000万円で、販促や追加の開発費、運用コストをあわせて1億円という大がかりなものです。
ウェブ版であるリクエストQJナビには、インタビューなどの読み物を集めた「リクエストQJナビデイリー」というコンテンツがあるのですが、アプリも同様に情報コンテンツを充実させます。
まずは当社の就職フェアに参加した美容学生さんにアプリをダウンロードしてもらいます。その先、アシスタント時代に共通するシャンプーやブローなど技術の悩みにも、スタイリストデビュー後の多様化する働き方などの悩みにも応えられるよう、適切な情報を提供していきます。
── 新開発のアプリは、美容師さん一人ひとりとつながり、転職の時だけでなくずっと使い続けてもらうサービスなのですね。
美容学校を卒業しても、5年後には8割の人が美容師を辞めてしまうと言われます。この現状を変える、業界からの離脱をふせぐためのサービスにしたいと思っています。
例えば、アクセス状況やよく閲覧するコンテンツなどのビッグデータから「3カ月以内に転職する可能性が70%」「こうした適性が高い人」と分析したうえでタイムリーに求人情報を届けることができるはずです。
ユーザー本人にとっては業界から離脱せずに美容師を続けることができ、美容室にとってはマッチング率が高まるので採用しやすくなります。他にも、美容学校と連携したサービスやe-ランニングなど、第2、第3のアプリ開発を計画しています。
「ビューケット」で美容室の収益向上
── サンプリングを中心としたマーケティング活動支援の「ビューケット」も、大幅に強化するそうですね。
広告配信機能とECサイト機能を搭載したタブレット端末を美容室にレンタルすることで、単なるサンプリングから大きく進化させます。ビューケットは現状1億円の事業ですが、今期は1.5倍に成長させる計画です。
そして、メーカーからのアフィリエイトフィーを、新たな収益として美容室に還元します。
── 広告配信については、鏡の前にタブレットを置いて動画を流すサービスが複数先行しているうえ、あまり浸透しているとは言えないようですが。
ビューケットは雑誌読み放題コンテンツのdマガジンを搭載しているので、サロンへの設置はスムーズにいくと見ています。
まずは、当社の全国2万軒のパートナーサロンのうち25%に当たる5000店と取り組みを進めます。1店舗あたり5台とすると、タブレット端末は2万5000台で350万人の来店客にリーチできる計算です。
タブレット上でアンケートに回答してもらったお客さまに商品をプレゼントするなど、様々なプロモーションを展開できるのも強みですね。
将来的には1万店舗へと拡大し、サロン単位ではなく美容師個人を基点としたものに進化させ、美容師さんの収入増につなげたいと考えています。
⑤原動力は「美容師の可能性広げたい」
創業の志を次世代へ
── チャレンジングな計画が目白押しですね。
正直、私は失敗ばかりです。美容室の予約サイトや美容師専門のSNS、ブライダル事業など撤退した事業もたくさんあります。でも、美容師さんの可能性をもっと広げたい、その想いが原動力になっています。
撤退した事業にも、いつか再挑戦したいものがあります。たとえば、ブライダルは結婚式場が主体で美容師さんは下請けです。でも、ひとりの女性が花嫁さんになることを知るのは美容師さんが先なのですから、美容業界で仕組みをつくれば美容師さんが元請けになれるはずです。
メーカーの営業として美容室を回っていた20代のころ、サロンオーナーの方から「美容師は、欧米ではプロフェッショナルとして敬意を払われているけれど、日本では残念ながらそうではない。日本の美容師の地位を上げていきたい」という想いを聞いて、それをお手伝いしたいと起業しました。そのための挑戦を今後も続けていきます。
── 改めてお聞きします。なぜ上場を目指したのでしょうか?
企業は社会の公器だと考えているので、私には息子が4人いますが世襲はしません。「美容師応援カンパニー」という創業の志を次の世代に継承するため、パブリックカンパニーを目指してきました。
そして、知名度と与信の向上ですね。人材の採用もしやすくなりますし、事業提携や資本提携のチャンスも増えると思います。
親に応援してもらえる職業に
── これから先、どんな業界にしていきたいとお考えですか?
子どもが「美容師さんになりたい」と言ったら、「美容師って立派な職業だね。応援するからがんばりなさい」と親に言ってもらえるような職業にしたいです。
親が安心して応援するには収入と情報が大切なので、ビューケットなどを通じて美容室の売上増に貢献し、情報発信をより強化していきたいと思います。
うちの三男が「美容師になりたい」と言うので、美容業界について何も知らない父親になったつもりで改めて美容師という仕事について調べてみたのですが、今は表面的な情報しかないんです。
── たしかに、美容業界メディアはいろいろありますが、すそ野を広げるための情報発信は不足していますね。
高校生やその親御さん達に向けて「美容師さんはこんなにすごいんだぞ」と、どんどん発信していきたいですね。
美容師さんを応援し、美容を通して世の中をより良くしていく、価値を創造する。それがセイファートの役目だと考えています。そして、美容業界を世の中から尊敬される、素晴らしい業界にしていきたいです。
長谷川 高志
はせがわ たかし/株式会社セイファート 代表取締役社長
1961年2月生まれ。大学卒業後、化粧品メーカーに4年勤務。1991年3月に美容室に特化した求人情報誌「re-quest/QJ(リクエストQJ)」を創刊。同年7月、株式会社セイファートを設立。以来、代表取締役社長を務める。2022年2月、ジャスダック市場に新規上場を果たす。
編集・取材・文/大徳明子、杉野碧 撮影/上米良未来
あわせて読みたい