こんにちは!弁護士の松本隆です。ヘアサロン経営者の方たちからのご相談に回答していきたいと思います。
まず、はじめにお伝えしておきますが、この記事は「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく」をモットーに弁護士が書いています。
そのため、あえて内容をシンプルにしており、その結果、説明を省略した部分や不正確な部分があります。
(えっ?説明が下手だから省略してる?知識がないから不正確? そっ、そっ、そっ、そんなわけないじゃないですか!)
というわけで、この記事は「法律の話をざっくり理解すること」を目標にお読みください。
第1回は「競業避止義務契約」です。
「最初から漢字多っ!!」って思いますよね。「きょうぎょうひしぎむけいやく」と読みます。
競業避止義務とは、退職後にうちと同じような仕事をしないようにしてお客を奪わないでね、という義務です。
この義務を従業員の方に負わせることができれば、例えば、「うちの経営しているヘアサロンの近くに転職したりお店を出したりしないでよね!」といえるようになります。
競業避止義務契約は、競業避止義務を課す契約です。
この契約をしておけば、従業員が退職後にヘアサロンの近くで転職したりお店を出したりすることを防げるようになります。
とはいえ、契約書を作るのは大変です。
この契約をしているヘアサロンがどのくらいあるかというと、そう多くはないでしょう。
他にも、「うちには特殊なノウハウがあるよ!」というヘアサロンは、この競業避止義務契約と一緒に秘密保持契約もセットで結ぶのがよいです。
競業避止義務契約は、退職して独立する従業員の方に対して、退職後の仕事の場所などを制限することになります。
これは、憲法上保障されている「職業選択の自由」を制限してしまうことになります。
みなさん、憲法ってどのくらいすごいかわかりますか? 憲法は、法律や政令、条例よりも圧倒的に強いんです!
美容師国家試験の「関係法規・制度」という科目で、「法の効力の優先順位」という問題があったと思います。
そうです。憲法はダントツで優先順位1位。つまり、憲法はすごくえらいのです。「キング・オブ・法」なのです。
競業避止義務契約は「キング・オブ・法」である憲法に載っている「職業選択の自由」(=みんな、職業は自由に選択していいよ!)を制限するものなので、そんなに簡単には認められません。
ですので、「あれもこれもダメ」という内容にしてしまうと、「さすがにそれはやりすぎ!」ということで「無効」になってしまいます。
例えば、「日本全国どこでも30年間、美容師として働いたら違約金1億円!」という競業避止義務契約はさすがに無効になっちゃいます。
でも、何もしばることができないと、近くに転職されたりお店を出されたりしてしまいます。それでは困っちゃいますよね・・・。
では、どのくらいの制限なら競業避止義務契約は有効になるのでしょう?
まずは最近の裁判例を見てみましょう。
東京地裁平成30年2月14日「3回も確認したし、内容もゆるくしてあげたのよ?」事件です。
■ 登場人物
X美容室 経営者Aさん(新宿、大阪などに5店舗出店)
元従業員Bさん
■ 事案の概要
①BさんはX美容室に平成25年4月に就職し、そのとき「競業避止義務契約」を結びました。
内容: |
②Bさんは平成28年8月末に退職することになりましたが、8月10日、Aさんは、①で結んだ「競業避止義務契約」の内容をちゃんと理解しているかをBさんに確認したら「理解しています」と言ったので、「競業避止義務の確認書」を提出してもらいました。
内容: |
③平成28年8月31日、Aさんは心配なので念のため、「競業避止義務の確認書(再確認)」を提出してもらいました。
内容: |
④それにもかかわらず、Bさんは退職してすぐ、近くの美容室に転職しました。その距離なんと約50メートル。
⑤そこで、X美容室は、違約金85万円を請求しました。
Bさんは、「こんな競業避止義務契約は無効だ!」と争いました。
このケースでは、競業避止義務契約は「3回」されています。
しかも、どんどんゆるい内容に変わっていっているのがポイントです。
■ 判旨(判決の内容)
結論:
X美容室(経営者Aさん)の勝ち!(=Bさんは85万円を支払え)
X美容室(経営者Aさん)とBさんとの間の「競業避止義務契約」は有効に成立している。
理由:
書面押印しないと退職できないなど、強く契約をするように求めた証拠はない。
就職のとき、退職前、退職のときを含めて3回も契約をしているのだから、Bさんは合意の内容を十分に理解していたといえる。
私の完全な推測ですが、このX美容室は優秀な顧問弁護士さんを頼んでいたと思います。
経営者であるAさん1人の判断で「競業避止義務契約」を3回も結び直すことはしないでしょう。
しかも、少しずつゆるい内容にしていった(「2年間」→「1年間」、「同一区内」→「半径200メートル以内」→「半径100メートル以内」、「100万円」→「給料3か月分」)という点も、職業選択の自由に配慮していてポイントが高いように思います。
ここまでしておけば裁判では有効になりやすく、しかも現実的に請求できそうな金額なので参考になりますね。(ただ、これだと「金額が少なすぎる!」という声もあるかもしれませんが・・・)
次のページでは、競業避止義務契約が有効・無効になる分かれ目についてお伝えしたいと思います。
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