美容師の働き方が多様化する中、「業務委託契約」も増えています。
「よく知っている仲だから」「そんな大げさにしなくても普通に働く分には大丈夫」と思っていると、トラブルにつながることもあるようです。
美容室の経営者側も、そこで働く美容師も、業務を委託する・される「契約」である以上、それが法律上でどのような意味をもつのか、しっかり理解して「契約」を交わすことが重要です。
そこで、法務省や公正取引委員会、大手法律事務所で経験を積んだ弁護士の板崎一雄さん(三浦法律事務所・パートナー)に、「業務委託契約」とは何なのか、その注意点などについて解説していただきます。
>> 関連記事:【ヘアサロン六法】14.雇用と業務委託(前編) -美容室経営者の法律相談
編集部
そもそも業務委託契約とは、何ですか?
板崎弁護士
業務委託契約とは一般に、事業者が、ある業務を外部に委託するために締結する契約です。
事業者が他の事業者に業務を外注する契約として使われてきましたが、個人に委託する場合もあります。近年は特に、非正規雇用や自由な働き方(フリーランス)として増加してきました。
★より詳しくは★
法律的には(準)委任契約(民法643条、656条)。
仕事の完成(例えば、ソフトウェアや、デザイン等の著作物の作成)を依頼する場合は請負契約にあたるケースもあります。
美容室と美容師の契約は通常、請負契約ではなく、来店した顧客の散髪等の業務を誠実に処理する、準委任契約という契約と考えられます。
(板崎弁護士)
編集部
昔からある美容室、いわゆる“教育サロン”では、アシスタントもスタイリストも従業員として美容室に雇われています。こうした雇用契約と業務委託契約はどう違うのですか?
板崎弁護士
雇用契約では、従業員は、雇用主の指揮命令に従って労働を行います。
業務委託契約は、そのような指揮命令までは受けずに、通常は、受託者がある程度自由に、業務を任されます。
業務委託契約は、美容室と美容師の双方にとってメリットがあり、有効な選択肢となる場合も多いです。
他方で、契約書の内容や、運用が不合理なものとならないように注意する必要があります。
編集部
それではまず、業務委託契約のメリットについてうかがいます。美容室の経営者、美容師それぞれにどのような利点があるのでしょうか?
板崎弁護士
雇用契約は、労働基準法等、従業員を保護するための法律が適用されます。
例えば、通常、労働時間等に上限があり、さらに、一定の労働時間を超える残業や休日労働に対し、通常の賃金より高い金額の残業代を支払わなければなりません。
また、美容師に退職してもらう(解雇する)ことは、かなり厳しい条件をクリアしないとできません。
しかし、業務委託契約であれば、通常、労働基準法等は適用されず、比較的自由な条件の契約を交わすことができます。
例えば、報酬は、業務時間と関係なく、完全に売上の一定割合(歩合)とする契約も原則可能です。
契約の終了も、契約書に終了方法をきちんと定めておけば、それに従って原則として自由に終了させることができます。
つまり、労働基準法遵守の負担を減らしたい美容室等は、業務委託契約を選択するとよいでしょう。
編集部
なるほど。業務委託契約には労働基準法が適用されないということは、経営者にとってはいろいろな制約がなくなるので利点がありますね。
編集部
続いて、業務委託で働く美容師には、どのようなメリットがあるのでしょうか?
板崎弁護士
美容室にとってのメリットでお話しした通り、業務委託契約は労働法の規制のある雇用契約より、自由な契約内容とすることができます。
例えば、報酬については、労働時間に応じた固定給ではなく売上重視の報酬体系(完全歩合給等)にしたり、拘束時間についても、出勤日や労働時間を自分で決められるようにしたりすることが考えられます。
編集部
つまり、美容師さんにとって業務委託契約の魅力は、その自由さですね。
売上に自信があって高額の報酬を目指したい美容師や、朝から晩までサロンに拘束されるのは嫌だ、自由に働きたいという美容師は、業務委託契約を選択するといいのですね。
板崎弁護士
雇用契約には、業務委託契約に比べて、兼業禁止規定が入っている可能性も高いです。
最近は副業解禁時代で、兼業禁止規定がないケース、個別に兼業の許可が得られるケースも増えていますが、複数社の「従業員」を兼任するより、業務委託の方が理解を得やすいと思います。
また、労働法との関係も複雑になります。
例えば、労働基準法には労働時間の規制がありますが、美容室2社の従業員を兼務した場合、2社の労働時間を合わせると規制を超えてしまう可能性が出てきます。
したがって、複数の美容室で勤務したい美容師は、業務委託契約を選択する方がよいケースが多いと言えるでしょう。
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