美容学校の同級生だった6人が共同代表を務める「Lond」(ロンド)。2013年の設立から急速に店舗網を拡大。スタッフが辞めないサロンとしても知られる。
その経営論と成長の軌跡をたどる本が、2021年4月12日、女性モード社と髪書房からそれぞれ発売された。
美容業界の出版社2社から同じサロンの本が同日発売されるのは、これが初めて。いかにLondが注目を集めるサロンなのかが伝わるエピソードだ。
このうち「Lond流 非合理的経営」(女性モード社)では、スタッフ第一主義を貫き、スタイリストの平均年収800万円を実現するまでの軌跡を描いている。
※以下は、女性モード社からの寄稿です
文・写真 女性モード社
経営理念は3つの“L”から
「Love For All(全ての人、物、事に愛を)」というスローガンのもと、経営理念として3つの“L”を要素とした「従業員の物心両面の幸福の追求」を掲げる美容師集団『Lond』(ロンド)。
Love 愛を持って
Life より素晴らしい人生を
Luxe より贅沢に、より豊かに
の3拍子を実践することで、従業員と顧客のみならずサロンのステークホルダーへと幸福の輪をつなげてゆく。
そのサロン名は音楽の楽曲形式である「Rondo」に由来するが、あえて“L”を頭文字とした造語にしたことで、同サロンが存在する目的意識を強調している。
美容師が辞めない職場環境とは?
「会社が大きくなったから、それにふさわしい理念を後付けするのではなく、1人目のスタッフを迎える時点で、我々はそのスタッフのために会社を大きくしよう、お店をどんどん出店して、それも会社のためではなく、あくまでもそこで働いてくれている、そしてこれから『Lond』を選んでくれるであろう、まだ見ぬスタッフやお客さまのために、この企業理念を掲げました」
2019年12月、(一社)美容の価値を考える会の会員限定講演会において、ゲスト講師として招かれた、『Lond』6人の共同経営者の1人である吉田牧人氏は、当日の講演テーマ「スタッフが辞めないサロンが“顧客満足”を高める」を裏打ちするように、経営理念の大切さを唱えた。
「この理念に対して、僕たちは本当に真面目に、誠実に向き合って、努力を重ねています。ただ単に掲げるだけではなく、全スタッフに対して時間をかけて理念教育も行っています。『Lond』 はこういったことを大事にしているから、次にこういった活動をするんだということが、スタッフの意識として浸透するよう座学の時間を設けて伝えているんです」
企業理念の共有、かつ企業が忠実にそれを体現することで、スタッフは誇りを持って、それをお客さまに語り始めるのだと吉田氏は言う。
決して強要しなくても、スタッフはそこにいることの幸福感や人の気分を高める取り組みについて、誰かに伝えたくて堪らなくなるのだ。
そのスタッフの思いが顧客に届くと、企業理念はお客さまの中でストーリー化され、さらにその先を見続けたくなる。つまり顧客がサロンのファンになるということだ。
講演で吉田氏は、美容サロンに入社早々、先輩美容師から強烈なパワハラの洗礼を浴びせられた体験を明かした。
大変な業界に飛び込んでしまったと理不尽さを感じながらも、その時は、それがプロの世界の厳しさと割り切ったという。だから後々、美容師の入社3年以内の離職率が6~7割に達していると聞き及んだ時も、それが意外なこととは感じなかった。
そして2013年4月、吉田氏は、日本美容専門学校時代のクラスメイトで、将来一緒に店を持とうと誓い合った5人の仲間と共に『Lond』を東京・銀座の一等地に開業。
目標は「美容サロンとしての年商国内第1位」と掲げた。それは単に利益を追求するということではなく、「従業員の幸福」が伴っていることを必須テーマとした目標設定だ。
「熱意ある先達がつくり上げてきた業界。後輩をしっかり育て、けん引してきた功績もあるかもしれませんが、行き過ぎた指導、間違った常識も長らくはびこっていた業界でした。その中で、なんとか食らいつきながら成長していく子よりも、そういう環境に身を置き続けられることができない子の方が多いというのが現実問題です」と入社時の出来事も引き合いにしながら述べる吉田氏。
「我々はそういった点を見直して、『Lond』という会社を前進させていこうと、“従業員第一主義”を軸とした会社づくりをしてきました」と胸を張る。