生まれてから一度も髪を切ったことがないという人はまずいません。一生涯、自宅で髪を切るという人も、現代日本ではめずらしいでしょう。
老若男女が訪れる美容室、理容室。業界の外からは、どのように見えているのでしょうか?
「コラム 私と美容室」では、誰もが持っている髪にまつわる思い出について、さまざまな方に寄稿いただきます。
第1回は、東京大学を卒業後、大手医療メディアで記者、編集長として活躍してきた星良孝さん(現ステラ・メディックス社長)。美容室と同じく「コンビニよりも多い」オーバーストアとなっている歯科医院。その経営を見てきた星さんが考える、店舗の営業時間についてです。
美容院の営業時間はどのように決められるのか。
ちょっと古いデータですが、厚生労働省の2010年の調査によると、開店は9時台が多く、閉店は午後6時台~7時台が多いそう。
営業時間はどのように決めるといいのでしょう。
昨年、ニューヨークを訪問した際、周りに合わせる必要はないのだなと思わせることがありました。そのときのことを思い出しつつ、サービス業の営業時間についてなどをここで書いてみたいと思います。
あらかじめお断りしますと、私は、美容業界の人間ではありません。都内で「医療関連のコンテンツ創出」を掲げる会社を経営する星良孝と申します。
医療分野を専門として、企業や大学の依頼を受け、取材や編集、執筆などをしております。少し美容とは違った立場からの小話としてお読みいただけましたらと思います。
真っ暗な早朝に光を放つお店
ニューヨークにいったのは9月のことで、5日ほどホテルに滞在していました。営業時間について考えたのは、そのホテルでの早朝の朝食のときのことでした。
ホテルというと、最近では朝食が人気で、ビュッフェなどがあり、そこでいろいろ料理を選んで食べる、少し賑やかなイメージもあります。
ほかはどうなのかは分からないのですが、私が泊まったホテルでは一枚のプレートに載ったハムエッグなどに、パンとコーヒー、ジュースがつくシンプルなもの。
ビュッフェではありませんから、食べ物を取りに席を立つ人はおらず、朝食の会場となるレストランは、音もなく、静かなものです。
しかも、朝食を取ったのは早朝で、カトラリーの金属音が時折聞こえてくるくらい。なおさら静まりかえっていました。
そんなに早かったのは、時差もあったからだと思います。私は早朝4時、5時に目が覚めていました。
朝一番で1階にあるレストランにエレベーターで下りていき、午前6時にはレストランの窓に近いソファーの席についていました。9月、ニューヨークの午前6時、外はまだ真っ暗です。
その静まりかえった暗闇な中、外を見ると、1カ所だけ煌々と光を放つ場所が目につきました。初日の朝から気になりました。何なのだろうと。
路地をはさんで向かいに見えたのは理容室でした。
午前6時にはあかりがついてお客さんがいますから、それよりも前には営業を始めているということです。
毎朝、そのお店は早朝営業しているのを目にしましたが、日曜日には早朝営業をしていませんでした。
朝食をとりながら、ぼんやりとそのお店を見ていましたが、どうもお客さんは来ているようでした。早朝営業の背景には、ニーズがあるからということでしょう。
ちょっと私は業界の常識はそのときには全く分かりませんでしたが、そんな早朝から開いている理容室はすごいなと素直に思いました。
思い込みで、もっと早朝からやっている店舗はあるのかもしれませんが、競争を勝ち抜くときに営業時間を思い切り早めるのは手だなと思ったのです。
24時間営業の歯科医院
営業時間をどうするかはサービス業に共通した経営課題の一つになるのだろうと思います。私が携わる医療分野でも同様に診療時間は課題です。
私は2017年までは、診療所や歯科医院の予約サイトを作る責任者をしていたことがありました。ときおり話題に上っていたのは、歯科医院の診療時間についてです。
歯科医院を予約する人は、診療時間が気になるものです。予約サイトでは、自分の好みの時間帯を選べるようにする必要があります。そのため、歯科医院の診療時間について整理する必要があるのです。
あるとき思いついて「歯科医院に24時間営業ってあるのかな」と検索したことがありました。検索する前は、「さすがに医療行為だし、対応する歯科医師の問題もある。24時間までできるところはないだろう」。そう思いました。
自分たちで作っている予約サイトの中で、診療時間が24時間の医院を検索してみたのです。
すると24時間診療の歯科医院がヒット。緊急時24時間対応という、条件づきも含めれば、診療の歯科医院は多数あったのです。
24時間診療をうたっている歯科医院は、その特徴を前面に出しています。よく言われるように歯科医院は競争が激しく、ほかの医院との違いを出す必要性が強まっているからだろうと思われます。
個人経営で24時間はかなり無理がかかると思いますが、やっているところはあるのです。
同じ医療機関でも、病院では夜間診療は当然のようにやっている面があります。こちらは診療時間の短縮の方が課題になっています。
2018年には杏林大学が夜間診療体制を縮小するというニュースが出ていましたが、医師の働き方改革は国会でも議論が進んでいるところ。医師の勤務時間を短縮する中で夜間診療を維持するのは限界もあります。
ここは経営ばかりではなく、命を救えるかどうかという問題もあります。
ニーズに応えれば早朝の営業もありか
帰国後に髪を切りにいったときに、その早朝の理容室の話をしました。
すると、その美容師の方も、「自分も営業時間を早めようか考えたこともある」と話してくれました。でもそうしていない理由として大きいのは、朝早く開いてもお客さんが来ないということ。
日本だと、人々が家を出るのは、8時~9時くらいでしょうか。それに合わせる考え方が自然かもしれません。厚生労働省の調査もそうなっています。8時前に開店しているお店は1.1%。
調査から時間も経過しており、大きく変化しているかもしれません。
もう早朝開店のお店も多いのかもしれませんが、社会が大きく変わる中で、営業時間への注目度は一層高まってくるような気がします。ニーズに応えれば早朝に営業するのもありかもしれません。
■星良孝(ほし・よしたか)
石川県金沢市出身。東京大学を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BP社で「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーでm3.comの臨床領域のコンテンツ強化に当たる。DeNAで医療専門の情報サイト「Medエッジ」をサイト構築から手掛け、編集長となる。光通信の展開するネット予約サービスのEPARKで統括責任者として、医療分野サイトの刷新に従事。2017年4月、インターネット技術を活かした専門分野特化型のコンテンツ創出事業を担う、株式会社ステラ・メディックスを創業。
■株式会社ステラ・メディックス
http://stellamedix.jp/