美容師の母の背中
今井さんは沖縄生まれ。美容師として働く母親を見て育ち、中学生の時には、自分も美容師になろうと思うようになった。
高校の途中で両親が離婚し、父親と2人で上京。偏差値70超の進学校に編入し、周囲は大学へ進学する生徒ばかりだったが、美容師になりたいという気持ちは揺るがなかった。
美容専門学校に進学するつもりだと話すと、母親からは猛反対を受けた。
「高校卒業後は自力で」という家庭方針だったため、学費は自分で稼いだ。「授業とバイトで大変でした。先生がごはんを作ってくれたこともありました」と当時を振り返る。
「美容学校に入っても、美容師になっても、母は嬉しいという風ではなかったのに、僕が30歳を過ぎたら『やっぱり手に職よね』と言うようになった。ここまで続けてきたからでしょうね。母も沖縄で美容師を続けています」と話す口調は誇らしげだ。
進学校から美容専門学校に進み、自分で学費を払ってきた今井さん。
熱心に勉強してきたという印象を受けるが「勉強するようになったのは、美容師になってから。25歳くらいで、薬剤に興味を持つようになって。ちゃんと勉強したと思えるのは、それからですね」と自分に厳しい。
オーバーオールがトレードマーク
今井さんは、飲み仲間が多い。「飲み会でも一発で覚えてもらえる」とカラカラ笑う今井さんは、この日もトレードマークのオーバーオール姿だ。
「人に覚えてもらいやすいようにと20代前半から着始めたんですが、脱ぐタイミングを逃しました。ポケットがたくさんあって、ヘアアイロンを差しやすいので機能的なんですよ。僕が愛用しているのは、プレートがしっかりしているADSTのヘアアイロン。特にSLIMは幅が狭いので、ショートヘアの矯正にも使いやすいのがいい」。
元々は作業着であるオーバーオール。気取らないオシャレなテイストが、今井さんの気さくな人柄に重なる。
今では、16本ものオーバーオールを持っているといい、すっかりイメージが定着した。
集客に効く、セルフブランディング
「大人のための自分らしいショートボブの提案」「オーバーオールの美容師」と、今井さんは得意とする技術やキャラクターがはっきりしている。
明確なアピールポイントが必要となる都市型のデザイナーズサロンにとって、これは大きな強みだ。
パーセントの集客は、3年前から続けているブログとサロンのホームページが中心。
「施術のビフォーアフターの写真を数多く載せているので、ショートボブが好きな人が自然と集まる」という。
ホームページやブログは自力でつくり、自分で更新しているので、かかる費用はドメイン代4000円、サーバー代3000円で年間7000円ほど。
基本の集客費が年間1万円以下で済むため、ホットペッパービューティーも利用することにしたという。掲載エリアの細分化で渋谷と原宿が分かれ、渋谷の掲載件数が少なくなったのも幸運だった。
同じ価値観の仲間を大切に
自身初のサロンについてコンセプトをたずねると「店として決めるよりも、スタッフ一人ひとりの取り組みがお店のコンセプトになるのがいい」という返事が返ってきた。
「それでも、サロンというのは結局、トップの色に染まります。だから、独立して自分のお店を持つ方が、スタッフにとってはいい」。
将来は多店舗展開するよりも、スタッフにのれん分けする方向で考えているという。
自立心が強く、後進にも独立を進める今井さん。個としての生き方に重きを置いている印象だが、その上で、つながりの大切さを説く。
「個の時代と言われますが、全員が個でなんて生きられない。一人で開業し、経営していくのは大変なこと。同じ価値観を持つ仲間がいることは、とても心強い。若い美容師さんは、今のうちから、好きな人、価値観や方向性が合う人に会い、一緒に働くといい」とエールを送る。
「美容師は職人だから、やりがいが大事。好きなことをひとつ、突きつめる」と語る今井さんの挑戦は、始まったばかりだ。
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