文・写真 女性モード社
制作担当編集・小池入江(以下、小池):単行本制作のお願いにうかがった日から丸1年。神谷さんのカット技術の真髄が詰まった10スタイルを、徹底的に解説したテクニックブック『THE CUT DESIGN VARIATION』が完成しました。実は、「本をつくろう!」と決まった後に、SCREENの銀座出店が決定したり、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発令されて、出店も延期になったり…と、一般的に考えたら、とても本をつくれるような状況ではなくなってしまったんですけれど…でも、完成しました、この本。
神谷:「本をつくれるような状況じゃない」ことを、僕はむしろポジティブに捉えるようにしていました。新型コロナ禍はとても大変な出来事ではありますが、不幸中の幸いとでも言うべきか、思いがけず時間が生まれ、図らずも本づくりにどっぷり集中できましたし、時間の余裕とはうらはらに、どうしても不安が募る気持ちの面でも、本づくりという大きな仕事が自分の指針となって支えてくれた部分があって。
小池:なにしろ、スタイルやテクニックの写真撮影まで、神谷さん自身が手がけられていますものね。
神谷:コンテンツ構成や文章、デザインなど、本をつくるって、“総合芸術”のようなところがあるので、とても勉強になりました。実は、PEEK-A-BOOで働いていた時代、「自分の本をつくってみたいな」と思って、夜な夜な撮影して、プリントアウトして、紙を綴じて本みたいにしてみたりして…いろいろやってたんです。当時アシスタントだった福井(編集注:現在、SCREENサロンマネージャーの福井優生さん)を巻き込んで(笑)。その時のことを思い出したりしました。夢が叶ったなって。
小池:本書のサブタイトルは、「スタイリストになってからの壁を乗り越えるベーシックの応用カットテクニック」です。この“スタイリストデビューしてからの壁”とは、一体なんですか?
神谷:デビューするまでって、もちろん全ての美容師にとって1つの山で、技術を身に付けるためにコツコツとした訓練が必要な時期ですけれど、実はやるべきことは決まっているし、ジャッジするのもされるのもサロンという“内輪”の中でのこと。だから、あくまで守られている中での苦労なんです。でも、ひとたびスタイリストデビューすると、お客さまに喜んでいただく方法に正解はないし、学んできたベーシックだけではとても対応しきれない千差万別の素材と要望がある。しかもライバルが「日本中の美容師全員」に突然、増えてしまう。
小池:たしかにそうですね…。乗り越え方どころか、頑張り方がわからなくなりそうです。
神谷:そうなんです。誰しも、デビュー後早々に、「自分って全然何もできないんだ」ということに気が付いて、強烈な焦燥感を抱くんです。それが、“デビュー後の壁”。
小池:なるほど。そういう“壁”にぶち当たっている人が、この本の10点のカットスタイルを切ると、サロンワークの波にうまく乗っていけるようになる、ということですか?
神谷:この10点をマスターすれば、確実に一皮むけると思います。というのも、これらのスタイルは、まさに今のサロンワークでお客さまに求められるデザインですから、完全に切れるようになれば、かなり多くのお客さまに対応できる提案の幅を身につけられるはずです。とはいえ、この本は、決して全ての人にとっての「正解」を示したものではありませんし、僕にとっても、今現在の「正解」でしかありません。さきほど話したように、サロンワークの「正解」は、目の前のお客さまが喜んでくださることであり、喜んでいただく方法はそれこそ千差万別。その中で、この本は、自分なりの「正解」に近づくガイドの役割を果たします。
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