<Interview>「美しさの理由」を知ることで美容師はもっと自由になれる
古城氏が見つけた「5つの視点」は、これまでのデザイン解説書にあったような「ルール」や「セオリー」の説明とは、一線を画す概念。
この考えを美容業界に広めることで、古城氏が伝えたかったこととは……?
古城隆の「視点」を身に付ける
――『EYE』の中でうたわれている「5つの視点」という要素はとても明解で、かつ特徴的な概念だと思いました。これらは、どのようにして発見したのでしょうか。
古城 構想をまとめ始めたのは、約2年前のことです。
サロンワークや作品撮影などを繰り返す中で「美しい」と思えるデザインとそうでないものにどんな違いがあるのか……自分なりにいろいろ考えていました。
そしてあるときから、気付いたことを日々、記録するようにしたんです。
自分がメモしたものを整理していると、いくつか共通のロジックが存在することにすぐに気付きました。それをまとめたものが「5つの視点」です。
――ヘアデザインそのものが持つ「デザイン要素」という表現ではなく、つくり手の存在を強く意識させる「視点」という言葉選びが印象的です。この言葉の意図とは?
古城 「正解」を、一方的に自分の好みだけで決めたくなかったからです。
ヘアデザインには、それをつくる人=美容師の意図が反映されています。つまり、どんなものをつくるかというゴールは自由。究極を言えば、正解・不正解のある世界ではないんです。
ただ、つくられたヘアデザインが、普遍的な意味で美しいか否かには、確実に線引きがある。
その「理由」を、なんとなくではなく明確な知識として身に付け、自身の「軸」とすれば、自由にヘアデザインを展開していけます。そのための取っ掛かりになるべき本として『EYE』をつくりました。
――なるほど。『EYE』、特に『LOGIC』について、ヘアデザインの「セオリー本」だと思っている方もいるかと思います。
古城 それとは、まったく逆の発想ですね。その証に、『EYE』の中では「NG例」については一切載せていません。
いわゆる教本ではなく、美容師が自分自身で身に付けた「軸」を元に、自分の可能性を広げるための本にしたかったんです。
まずは「自分がどんな力=軸を身に付けたらいいか」を、本を読んで客観的に感じていただければと思います。
――古城さんのおっしゃる「軸」というのがまさに「視点」なわけですね。
古城 はい。技術力やデザイン力以前に、まず「何に注目すべきか」が重要です。
ヘアデザインに大切な「バランス感覚」や「センス」って感覚的なもので、言葉にするのは難しいですよね。
実際、僕もサロンワークや撮影において、その瞬間は感覚でやっています。それを、『EYE LOGIC』の中ではできるかぎり論理的に伝えられるよう、工夫しました。
――要素が細かく分解されて載っていたので、とても分かりやすかったです。初心者の方が頭に入りやすいと思いました。
古城 ただ、解説に使う言葉選びに関しては、具体的になりすぎず、あえて抽象的な表現も残すようにしました。
ロジックを学びながらも、読者の方の想像が膨らみ、さらにその言葉が頭に残るような本にしたかったからです。
ぜひ、ロジックを学ぶとともに、自分なりの解釈もしていただけると嬉しいと思います。
美容師を長く続けていくためにはデザイン力が欠かせない
――『EYE』を通じて、美容業界に発信したかったこと、出版に込めた思いなどを聞かせてください。
古城 美容師にとって「ヘアデザイン」がいかに大切なものか、ということです。ヘアに「自分にしかできないこと」や「つくり手の存在感」がどれだけ反映されているか、がとても重要。
そして自分がつくったものを「デザイン」と呼ぶためには、クオリティが必要です。それは、クリエイションの世界だけでなく、サロンワークにおいてもそうです。
美容師が、美容師として「長く仕事を続けていく」ために、ヘアデザインというものに改めて向き合う必要があると思いました。
――時代によって、美の基準は変わるようにも思えますが、そこについてはどう思われますか?
古城 もちろん、トレンドは移り変わっていくものですし、それは意識すべきものではあります。
でも、どんな時代のスタイルであっても、見る人が心地よいと感じる要因、普遍的な「美しさの理由」は変わらないと思います。
例えば、スタイリングでヘアを崩してラフさを表現するときでも、根底となる美しさを知っているか、知らないかでクオリティが変わると思います。
なぜそれが美しいのかを理解していないと、トレンドが移り変わったときに、良いデザインをつくることが難しくなるかもしれません。
『EYE』で解説しているようなことを「硬い」と思う人もいるかもしれませんが、美容師にとって身近なことなんだ、と感じてくれると嬉しいです。
――普遍的な美……たしかにそうですね。クリエイションの世界でも、そういったことはあるかもしれません。
古城 そうですね。最近は写真表現やメイク、衣装のクオリティがものすごく高い作品が多いですが、その反面、ヘアのクオリティが他の要素に負けていることも多いように感じます。
もちろん、表現の自由ではありますし、何に比重をおくか、という選択も、ひとつの作品をつくり上げる上では大事です。
ただ、美容師が表現するクリエイションという観点から見たときに、ヘアそのものが持つ力について、もっと考えたほうがいいな、と思うこともたくさんあります。そうしたことも、出版意図のひとつとしてはあります。
――古城さんのように、ヘアデザインに対する鋭い「視点」を身に付けるためには、何を心がけたらいいのでしょうか。
古城 「自分で気づく」ことが大切だと思います。
僕も、初めからロジックに気づいていたわけではなくて、自分がつくったものを見て「なぜこれは心地よくないんだろう?」などと、よく考えていました。
自分の作品だけじゃなくて、他の人がつくった作品を見るときでも「理由を探す」クセをつけると良いと思います。そして、自分がつくるときには「最後までこだわる」ことも大切です。
――ありがとうございます。『EYE』を購入した人、気になっている人に、メッセージをお願いします。
古城 正直に言うと『EYE』の内容を最初から全部理解するのは、難しいかもしれません。
でも、ヘアデザインを何年も続けていると、あるとき、この本に載っていたことを実感する瞬間がきっとあります。『EYE』をそうした体験のきっかけにしてくれれば。
また、これからクリエイションにチャレンジしていきたい方にもぜひ読んでもらいたいです!
サロンワークにもきっと役立つ内容だし、こういう、デザインをロジカルに追求する世界があるんだ、と知ってもらえたら、嬉しいですね。
DADA CuBiC 古城隆氏プロフィール
古城 隆
DADA CuBiC アートディレクター
1980年生まれ。大分県出身。大村美容専門学校(現・福岡大村美容ファッション専門学校)卒業後、DADA CuBiCに入社。現在、同サロンのアートディレクターを務める。2019年JHA大賞部門グランプリ。
書籍概要
『EYE HAIR DESIGN LOGIC + VISUAL』
「5つの視点」を中心に美しさの「理由」についてまとめた『EYE LOGIC』と、古城氏の「存在感」をくまなく反映した珠玉の作品集『EYE VISUAL』の2冊セット。ヘアデザインの「質」と「価値」を高めるための視点と手法が盛りだくさん。古城隆氏(DADA CuBiC)のヘアデザインに対する想いが詰まっている。
著者/古城 隆(DADA CuBiC)
発売日/2020年12月10日
定価/8,800円(本体8,000円+税)
判型・頁数/A4判変型
※「EYE LOGIC」(160ページ)+「EYE VISUAL」(96ページ)の2冊セット
記事・画像提供
女性モード社
美容師向け出版物を発行して60年。『ヘアモード』『美容の経営プラン』『美容界』などの月刊誌や各種書籍を発行する美容専門出版社。
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