美容室の経営には、税務の知識が不可欠です。美容師&美容室経営者のためのビジネスメディア「ビュートピア」(BeaUTOPIA)では、税務に関する情報を発信していきます。
単に「法律上こうなっている」という情報ではなく、「経営する上では、こうした方が良い」という経営コンサルティング的な情報をお届けします。
今回は「確定申告は、青色申告がオススメ」です。
青色申告と白色申告があることは、皆さま、よくご存じかと思います。
実は、「白色申告」は通称であり、法律で定められた名称ではありません。簡単で事務負担が軽い、原則的な方法です。
それに対し、「青色申告」は法律で定められた納税制度です。正しく記帳して、しっかり納税する真面目な納税者を優遇しようというものです。手続きが必要ですが、その分、大きなメリットがあります。
具体的に、どんなメリットがあるのか、専門家に解説していただきます。
ご協力いただいたのは、大手監査法人、世界最大規模のコンサルティング会社、国内独立系最大手会計事務所を経て独立した、公認会計士・税理士の田村聡さん(田村公認会計士・税理士事務所所長)。
法人・個人合わせて100を超える顧問関与先を持ち、美容室についても、20店舗規模のチェーン、2~3店舗展開、単店のサロンと幅広く担当されています。
個人・法人とも、確定申告は「青色申告」がオススメ
美容室経営者には、個人事業主の方、法人化されている方がいらっしゃると思いますが、どちらの場合も、確定申告は「青色申告」をお勧めします。
実際、当事務所の顧問先についても、大半が青色申告を行っています。青色申告の税務面でのメリットについて、順にご紹介します。
青色申告のメリット
①特別控除額65万円を受けられる(個人事業主のみ)
所得(収入―経費)から、青色申告の特別控除額として65万円が差し引かれます。
これは個人事業主のみで、法人には適用されません。個人事業主にとっては、これが青色申告の大きなメリットになります。
②家族への給与を経費にできる(個人事業主のみ)
正しくは「青色専従者の給与」といいます。
親族(事業主と同一生計の配偶者や15歳以上の親族)で、その事業にもっぱら従事している人に支払う給与については、仕事の内容などに照らして妥当な金額を給与として必要経費とすることができます。
これも個人事業主のみです。家族経営の多い個人事業主にとっては大きなメリットですね。
③赤字の繰越し・繰戻しができる
事業から生じた純損失(赤字)を翌年以降に繰り越すことができます。
つまり、将来の所得金額(黒字)から控除して、所得税を減らすことができます。これを「純損失の繰越し」といいます。
繰越期間は、個人事業主が3年、法人が9年です。法人は、平成30年4月以降、10年となりました。
損失の繰越しを行わない代わりに、税金の還付を受けるという方法もあります。これが「純損失の繰戻し」です。
純損失の全部または一部を、前年分の所得金額から控除した上で、前年分の税額計算をし直し、その差額の税額について還付を請求できます。
これは、前年分の税金が返ってくるということです。ただし、前年も青色申告をしていることが前提になります。
美容室の経営には、当座の運転資金が必要です。赤字で苦しい時は、繰越し・繰戻しをすることで、資金繰りが楽になるでしょう。
④経費の対象が広がる
通常、つまり白色申告では、10万円を超えるものの購入は資産計上することになっており、経費にはできません。
しかし、青色申告では、30万円未満のものであれば、合計300万円まで一括で、その年度の経費にできます。このため、所得税及び住民税を減らせます。
⑤融資や補助金を受けるときに有利
融資や補助金の適用要件として、青色申告をしていることが求められる場合があります。
今後、融資や補助金を受けることを計画している方は、青色申告にすることをお勧めします。
青色申告に必要な手続き
①申請書の提出
青色申告をする年の3月15日まで(または開業日から2カ月以内)に「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出し、承認を受ける手続きが必要です。
この申請書は、一度提出すれば、それ以降の提出は必要ありません。
②帳簿作成の作業
青色申告の要件を満たした帳簿を作成しなければいけません。
正規の簿記の原則に基づき、現金主義ではなく発生主義で帳簿をつける、主要簿と補助簿の複式簿記にする必要があります。
一般の方がするには、なかなか骨が折れますが、この作業は、会計事務所・税理事務所に依頼できます。
青色申告に対する考察
青色申告を選択すべきと思われる方は、以下に該当する方です。
・節税、運転資金の確保をしたい方
・親族に対して給与を支払う方
・今後、融資や補助金を利用したい方
ここまで述べてきたように、青色申告をすることで、大きな節税メリットを受けられます。
一方、デメリットは、事務手続きが面倒なことです。ただ、これは税理士に依頼することで解消します。その他にも、税理士に依頼するメリットとして、税務相談、税務調査立会、電子申告などがあります。
それでも税理士に報酬を支払うのに抵抗がある方は、近年は格安で導入できる会計ソフトがありますので、そちらで対応するのもよいかもしれません。
税理士に依頼するにしても、ご自分でするにしても、青色申告を行うことをお勧めします。
田村 聡 (たむら・そう)
田村公認会計士・税理士事務所所長
1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学商学部を卒業後、新日本有限責任監査法人、アクセンチュア株式会社、辻本郷税理士法人を経て、田村公認会計士・税理士事務所を開設。会計・経営コンサル・税務の3つの領域で様々な業務を実施。顧問関与先は法人・個人を合わせて100を超える。美容室については、国内独立系最大手会計事務所在職時に、美容大手上場会社の税務顧問を担当。現在は20店舗規模のチェーン、2~3店舗展開、単店のサロンと幅広く担当している。
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