毛髪の中心部に存在する「メデュラ」。タカラベルモントは2020年10月21~30日にオンラインで開催された国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)の学術大会「IFSCC コングレス 2020 横浜」にて、世界で初めてメデュラの構造変化の解明に成功したと発表した。
これに伴い11月26日、「世界初・毛髪新発見サイエンステクノロジープレスセミナー」を東京本社で開催。iPS細胞をヘアケアに応用する研究についても発表した。なお、これらの研究結果を用いた次世代ヘアケアブランドを2021年に発売する予定。
新たなヘアケアコンセプト「ヘアメデュラケア」
冒頭に登壇した吉川朋秀常務は、製品研究だけでなく基礎研究にも注力してきたタカラベルモントのこれまでの研究開発の歴史について解説した上で、「新たな研究成果をプロフェッショナル業界のフロントランナーとして発表できることが我々の価値と考えている」と力を込めた。
続いて、タカラベルモント化粧品研究開発部第一研究所研究員の萬成哲也氏(学術博士)が登壇。「新しいコンセプト“ヘアメデュラケア” 毛髪のメデュラの構造を解き明かすことで白髪の見た目を変化させる」と題して講演を行った。
毛髪構造は、外側からキューティクル、コルテックス、メデュラという3層構造に大きく分かれるが、毛髪は未解明な点が多い研究領域で、特に中心部のメデュラは詳細な構造や機能についてほとんど解明されてこなかった。そこでタカラベルモントでは、毛髪の芯であるメデュラを解析するため、毛髪を縦に切断して観察できる独自技術を開発。メデュラで生じる構造変化を観察することに世界で初めて成功した。
この新規技術を用いて、メデュラには光が散乱して内部が黒く不明瞭に見える“ブラックメデュラ”と、白く明瞭に見える“ホワイトメデュラ”があることを発見。ホワイトメデュラはブラックメデュラに比べて空洞が少ないため、白く見えるのだという。この発見から、空洞化したブラックメデュラを充填してホワイトメデュラに変化させ、その状態を持続させる技術の開発に成功。これを「ヘアメデュラケア」と定義した。
ブラックメデュラの髪は白く目立つ一方、ホワイトメデュラの髪は透けていて目立ちにくくなるため、メデュラを変化させることによって黒髪になじみやすい白髪に変えることが可能となる。アレルギーや刺激で白髪染めができない人や、自然な白髪を楽しみたい人にとって有用な技術になることが期待される。
「ヘアメデュラケア」はブラックメデュラをホワイトメデュラに変化させるだけでなく、目的に応じてメデュラの状態をコントロールすることが可能であり、現在はヘアカラーなどにも応用するための研究が行われている。既存とはまったく異なる新次元のヘアケア概念ということになる。
iPS細胞を用いた皮膚研究から生み出される新製品
続いて、同研究所研究員の上條洋士氏が登壇。「iPS細胞の皮膚研究と化粧品開発への応用 iPS細胞を用いた皮膚の老化研究、および有効成分の探索」と題して研究発表を行った。
iPS細胞とは「人工多能性幹細胞」と呼ばれるもので、世界で初めてiPS細胞の作製に成功した京都大学の山中伸弥教授によって名付けられた。現在では主に再生医療の分野で活用されている。
タカラベルモントは東京工業大学と共同で皮膚老化のメカニズムについての研究を行い、iPS細胞を使った実験で皮膚の老化は幹細胞がダメージを受けて起こっていることを突き止めた。また、幹細胞を選択的に増加させることができる成分“Z”を発見。このことによって、肌そのものの自ら潤いを生み出す機能を高めることできるようになるのだという。
今後はこれらの研究を応用し、「潤いを与える」から「潤いを生み出す」へと変化した新機能を搭載した次世代ヘアケアブランドを2021年秋に発売する予定だ。
なお今回のセミナーは、新型コロナの感染拡大下での対策として、人数を制限して3回に分けて実施。約100名の報道関係者が参加した。また、会場に展示エリアを設け、研究員が質問に答えていた。
取材・記事 大山くまお