「証拠」にまつわる失敗談&成功体験
失敗談①【消しちゃった…!】
ある美容室オーナーさんは「退職したスタッフとLINEしてたのは覚えてるけど、退職したから全部消しちゃった…」と困っていました。
労働審判では、メールやLINEのやりとり、出勤記録など、日常的なツールが重要な証拠になることは意外と多いのです。
思わぬものが証拠として役に立つことがあるため、証拠を残すことは「今」から意識しましょう。
失敗談②【契約書なんて作ってない…】
以前、労働審判を申し立てられた美容室では「口約束で十分」だと考えて労働条件を書面にしていませんでした。
そのため「そもそも残業代が発生していたのか」の判断すら困難になってしまい、不利な形で和解をすることになってしまいました。
就業規則や契約書、給与明細は「形式的だからいいや」とは思わず、しっかり整備しておくことが大切です。
成功体験【あ、やりとり結構残ってる!】
別の美容室のオーナーさんは、普段からLINEで業務連絡をしていたため、従業員とのやりとりがそのまま証拠として使えました。
また、スタッフの出退勤時間を「アプリ」で管理していたため「残業代は発生していない」と明確に反論できました。
他にも、退職のときも後日不当解雇だと言われてしまわないよう、退職に関する証拠は会社都合なのか自己都合なのかを含めて残しておきたいですね。
普段のやりとりや記録が、いざというときには強力な武器になることがあります。

オーナーがやってはいけないNG対応
1.無視する・放置する
裁判所からの呼出状を放置すると、審判が一方的に進んでしまい、オーナー側に不利な結果が出てしまうことがあります。
2.感情的に対応する
従業員に対する怒りで感情的に反論すると、裁判所の心証を悪くする可能性があります。
3.証拠の隠滅や改ざん
タイムカードの改ざんやLINE履歴の削除などの証拠の隠滅・改ざんは絶対に避けるべきです。
不利な証拠も整理して冷静に対応しましょう。

弁護士に相談するタイミングと費用感
労働審判は裁判所における手続のため、専門的な知識と証拠の整理が求められる上、「早さ」がウリの手続ですので、とにかく時間がありません。
ですので、相手から「申立書が届いた段階ですぐ」に弁護士に相談することが望ましいです。
弁護士に依頼する費用については、以下のようになることが多いです。
・着手金(事件を着手する最初の時点で払うお金)
10万円~30万円程度(消費税別)
・報酬金(事件の終了時に結果に応じて払うお金)
和解金や請求金額に応じて変動(減額した金額が目安)
・実費
裁判所に行く場合の交通費、郵送に使用する切手代など
ただし、事案の難易度等によって異なることもありますので、相談する弁護士にご確認下さい。
さいごに
今回は労働審判の話でした。
美容業界のように人と密接に関わる現場では、労務トラブルは起こりやすいリスクの1つです。労働審判制度を正しく理解し、健全な職場づくりと安定した経営を実現していきましょう。
それではまた来週!

松本 隆
弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー
早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。
横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115
監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士)
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