
弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。
第56回は昇進拒否と懲戒処分を取り上げます。
美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!
目次
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」

こんにちは!弁護士の松本隆です。
この連載では「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく」をモットーに、あえて内容をシンプルにしてお送りしています。
事例から見てみましょう。
私はXサロンの経営者でAといいます。
従業員の美容師(スタイリスト)のYに管理職を任せようと思っているのですが、Yは「管理職になりたくない」と難色を示しているのです。
また、アシスタントZをスタイリストにしようと思っているのですが、Zは「アシスタントのままがいい。スタイリストにならなくてもいい」と言うのです。
このような昇進を拒否することはまかり通ってしまうのでしょうか?
昇進や昇格をうまく進める方法はありますか?
昇進を望まない若者たち
昇進とは役職が上がることですが、給料が上がることがほとんどなので、「おめでたいこと」のはずです。
ひと昔前までは、「仕事でバリバリ稼いでいい車に乗るぞ!」「とにかく昇進したい!」と思う人が多く、CMで「24時間戦えますか?」というキャッチフレーズがあったほどです。
いつまでも昇進できないでいる人のことを「窓際族」と呼んだ時代もあります。
しかし、今は携帯電話(スマートフォン)が1台あるだけで様々な娯楽を楽しむことができる世の中になりました。
アプリ、動画、ゲームなど…スマートフォンがあれば無限に遊べると言っても過言ではありません。
結果として「今の地位でもそれなりに楽しくて満足な生活ができている」「昇進したら大変になるから別に昇進しなくてもいい」という人が増えているのです。

昇進すると労働法のバリアが弱まる?
雇用された従業員は「労働法」という強い「バリア」で守られているのはご存知ですね。
労働法のおかげで
・残業時間の規制がある(時間によって賃金の割増もある)
・休憩時間も法律で定められている
・休日もしっかりある
などの「バリア」があります。
しかし、昇進すると労働法のバリアが使いにくくなることがあるのです。
例えば、「管理職」という立場になると、予測できない事態に対応することも増えるので、サービス残業をしてしまったり、休憩時間も働いてしまったりしやすい傾向があります。
(もちろん、残業をしっかり申告して休憩時間も確保することができることもあります)
また、例えば、アシスタントが昇進してスタイリストになると、月の売上を上げるために無理をして予約を埋めようとして休憩を取らないこともあるでしょう。
ですので、
・労働条件が悪化するかもしれないから管理職やスタイリストにはなりたくない
・スタイリストの方がアシスタントよりお給料は高いかもしれないけれど、アシスタントのままの方がトータルで見たら業務が楽だからいい
と思う人もそれなりにいるのだと思います。

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