日本学生支援機構の「代理返還制度」を利用することも可能
実は、日本学生支援機構も「代理返還制度」を設けています。
こちらを利用する場合は、
・サロンから日本学生支援機構に直接送金することが可能になる
・返還者(スタッフ)にとっては返還額についての所得税が非課税になるため得になる
・サロンにとっても給与として損金算入できる上に社会保険料も安くできる
という複数のメリットがあります。
>> (参考)日本学生支援機構「企業等の奨学金返還支援制度を活用して、人材確保・定着を目指しませんか?」
サロン独自の支援制度にするか、日本学生支援機構の代理返還制度を利用するかは要検討です。

「辞めたときに全額返せ!」というルールを作るのは違法
経営者の方であれば「途中で辞めるなら代わりに返した奨学金を返してもらう」というルールを作りたいと考えるでしょう。
しかし、これは労働基準法16条に違反してしまいます。
労働基準法16条は「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」とされていますが、辞めたときの奨学金返済分を返せというルールは「損害賠償額を予定する契約」に該当してしまうので違法なのです。
(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金です!)
スタッフには「退職の自由」を確保してあげつつ、「長く働きたいと思ってもらえるようにする」こと(欲張らないこと)が重要です。

看護学校の奨学金の裁判のニュースは関係がある?
昨年、看護学校の学生の奨学金に関する裁判が話題に挙がりました。
「卒業後に看護学校の系列の病院に数年勤務したら学生時代に借りた奨学金が免除される」というルールがあったのですが、看護学校の学生がその系列の病院に就職を希望したのに採用されなかったというものです。
病院(法人)側は、奨学金の返済を求めて学生(卒業生)に対して裁判を起こしましたが、学生(卒業生)側は「不採用にしたのは法人側なのだから請求するのはおかしい」として争っているのです。
弁護士目線では、不採用になった理由にもよりますが、病院(法人)側は「必ず採用する」とは宣言していないだろうと思われますので、学生の主張が通る可能性は低いと感じます。
(ただ、実際の証拠関係を見ないとなんとも言えませんので、裁判の結果がわかればご紹介いたします)
ただ、このトラブルは今回の奨学金の返済支援とは別の話です。
「就職していないのだから返すべき奨学金を返してね」という裁判なので、「サロンが就職したスタッフの奨学金の返済支援をする場合」にはこのようなトラブルは起きません。
さいごに
今回は奨学金の返済支援の話でした。
大企業が導入している話はよく聞きますが、中小規模のサロンでも導入することが従業員確保のためにも良い手段になる可能性があります。
規約や契約書の作成にあたっては弁護士にご相談下さい。
ではでは、また次回!

松本 隆
弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー
早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。
横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115
監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士)
