
弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。
第55回は奨学金の返済支援を取り上げます。
美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!
目次
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」

こんにちは!弁護士の松本隆です。
この連載では「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく」をモットーに、あえて内容をシンプルにしてお送りしています。
事例を見てみましょう。
私はXサロンの経営者でAといいます。
知人が経営するYサロンにはスタッフが学生時代に借りた日本学生支援機構の奨学金の返済を支援する制度があるようです。
しかも、Yサロンで働いている間はずっと返済を支援してくれるようです。
今はスタッフの求人も難しい時代ですが、この制度があれば魅力のあるサロンだと思ってもらえそうですし、長く働いてもらえるように感じています。
奨学金の返済を支援する制度を導入する場合に気をつける点はありますか?
奨学金返済支援制度があるとスタッフが定着しやすい効果あり?
奨学金(貸与)は今や多くの学生が借りていると言っても過言ではありません。
日本学生支援機構(JASSO)の発表したデータによれば、令和5年度は96万人の学生に8329億円の奨学金を貸与したとのことです。
また、貸与を受けている学生は「4人に1人」とのことです。
>> (参考)日本学生支援機構「奨学金事業に関するデータ」(令和7年1月発表)
卒業した年から返済が始まりますが、毎月定額の返済、ボーナス月には多く返済する方法など、返還の仕方はさまざまです。
いずれにしてもサロンで働くスタッフにとっては(特にスタイリストではないアシスタントにとっては)、大きな負担であることは間違いありません。
例えば、日本学生支援機構では、返済が困難な場合には返済時期の「猶予」制度の申請(最大10年まで)はできるのですが、「減額」や「免除」の条件はとても厳しいので使えません。
そうした中、奨学金の返済を支援する制度を導入するサロンがありますが、スタッフの定着に有用です。
例えば、①基本給を1万5000円上げる場合と②奨学金の返済支援で1万5000円出す場合を比較しましょう。

①基本給を1万5000円上げる場合
基本給は一度上げると、減額することはできません。
その理由は、労働契約法9条では、労働者の同意がなければ労働条件の不利益変更はできないのが原則だと定められているからです。
しかも、他のお店でより高い給料のお店が見つかれば、そのお店に転職してしまう可能性があります。
ですので、たとえ経営者側が「基本給を上げている分、奨学金が返しやすくなっているはずだ」と思っていても、スタッフが同じように感じることになるとは限りません。
②奨学金の返済支援で1万5000円出す場合
奨学金の返済支援は基本給を上げることにはならないので、奨学金の返済が終わった場合には1万5000円の支給をする必要はなくなります。
代わりに基本給を1万5000円上げなければならないというルールもありません。
また、奨学金の返済支援をするにあたっては、給与口座とは別に「奨学金返済用の口座」を別途作ってもらい、そこに振り込むのがよい方法です。
例えば、スタッフの奨学金の返済が2万円の場合、
・「1万5000円」は奨学金の返済支援金として振込しますが、同時に「本人が負担する5000円」も振込をする(つまり、奨学金2万円全額を振り込む)
・そして、「本人が負担する5000円」は給与振込用の口座に給料を振り込む際に差し引く
というようにするのがよいでしょう。
スタッフは
・「奨学金返済のわずらわしい手続きもサロンがやってくれるからありがたい」
・「働いている間は奨学金返済のことを考えなくていい」
・「口座が別だから間違えて使ってしまうことがない」
・「他のサロンでこういうことをしてくれるところはほとんどない」
と思いますし、それが結果的に
「長く働こう」という考えにつながりやすいかと思います。
実際、返還をしている人の中には、
・返済用口座にお金を入れ忘れて何度も滞納になってしまう人
・放置したために裁判(支払督促や簡易裁判など)を起こされてしまった人
も少なくないのです。
「管理されること」が嫌だということもありますが、奨学金返済の場合は「管理されること」がありがたいのです。

>> 日本学生支援機構の「代理返還制度」を利用することも可能
