
「決めつけないこと」MERICAN BARBERSHOP代表・結野氏㊧と、クリエイティブディレクターのヌマタ氏㊨の言葉が会場を沸かせた
ノンバイナリー(自身の性自認と性表現を、「男性・女性」という二つの枠組みに当てはめないという考え方)を掲げる、神戸発のネオクラシックな理髪店・MERICAN BARBERSHOP(メリケンバーバーショップ)。人気理髪店をゲストに迎え、ホットペッパービューティーアカデミーが、LGBTQ+をテーマに多様性を考えるセミナーを主催した。
すべての人に開かれたバーバーへ
ホットペッパービューティーアカデミー研究員の田中公子氏がファシリテーターを務め、MERICAN BARBERSHOP代表の結野多久也氏とクリエイティブディレクターのヌマタユウト氏、自身もトランスジェンダーである認定特定非営利活動法人ReBit(リビット)理事の中島潤氏が、LGBTQ+について想いをぶつけ合った。

Q:バーバーは「男性向け」というイメージが強いですが、実際のところはいかがでしょうか?
結野氏:当店では「バーバー=男性のもの」とは考えていません。バーバーは本来、髪を整える場所であり、自己表現の場でもあります。性別で利用を制限するのはおかしく、誰でも自由に来られる空間であるべきですね。
ヌマタ氏:実際、当店にはLGBTQ+の方を含め、さまざまなお客さまが訪れます。「バーバーに行きたいが、自分が行っていいのかわからなかった」と話す方も多いです。そのような不安を感じることなく、自分らしいスタイルを楽しんでもらえるようにするのが、私たちの役割だと考えています。
Q:LGBTQ+の方がバーバーを利用する際に感じる具体的な課題には、どのようなものがありますか?
中島氏:「短くしたいが、女性らしさを求められるのが怖い」「長めにしたいが、男らしく仕上げたくない」という声は本当に多いです。「美容室ではフェミニンにされるし、バーバーではマスキュリンにされる」というジレンマを抱えている方もいます。
結野氏:そのような声をよく聞くからこそ、当店ではジェンダーにとらわれないスタイル提案を大切にしています。お客さまに「どのような印象にしたいか?」をしっかり聞くことで、一人ひとりの希望に寄り添ったカットができると考えています。

Q:メニューが「メンズ」「レディース」と分かれていることで、利用しづらさを感じる方も多いのではないでしょうか?
ヌマタ氏:そうですね。実際、「どちらを選んだらいいかわからなくて、予約をあきらめた」という話を聞くこともあります。
中島氏:「メンズカット」と書かれていると、「自分が行ってもいいのかわからない」と感じる方は多いです。ただ、「レディースカット」にすると、自分が求めているスタイルとは違ってしまう。そうした迷いを抱えている方も少なくないです。
結野氏:だからこそ、当店では性別でメニューを分けるのではなく、どのようなスタイルを求めているのかを大切にしています。ただ、検索対策の観点から「メンズカット」の表記が必要になることもあります。そのため、「どなたでも利用可能」と一言添えるだけでも、お客さまの心理的ハードルは下げられるはずです。
Q:接客の際に気を付けていることはありますか?
ヌマタ氏:当店では、「男性向け」「女性向け」といった言葉は使わず、「どのような雰囲気にしたいか?」を基準にしています。「このスタイルは男性に人気」「女性におすすめ」という言い方は簡単だが、それが押し付けになってしまうこともあります。
中島氏:実際、「髪を短くしたいと言ったら、『ボーイッシュになりすぎないように』と勝手に調整された」「フェミニンなスタイルにしたかったのに、勝手にマスキュリンに寄せられた」という体験をした方もいます。LGBTQ+の方にとって、髪型は単なるスタイルではなく、アイデンティティに関わる重要な要素であります。だからこそ、お客さま自身の希望を最大限尊重することが大切と。
「バーバーは男性のもの?」という固定概念を超えて

バーバーは、髪を整えるだけの場所ではなく、自己表現の場でもある。メリケンバーバーは、そこにふさわしい基準を決めるのは「性別」ではなく「その人自身」であると考えている。
これからも、性別によるカテゴリー分けをなくし、一人ひとりの「なりたい自分」に寄り添った提案を行うこと。どんな人でも気兼ねなくスタイルを相談できる環境を整えていくこと。そして、「バーバー=男性のもの」という固定観念を業界全体で見直していくこと——それが、メリケンバーバーの使命であると話した。
「ここなら、誰もが自分らしくいられる」と思える場所をつくるために。
2025年2月4日に東京・丸の内のリクルート本社で無料開催されたセミナーは、そんな温かい言葉で締めくくられた。
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