弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。
第45回は公正証書遺言を取り上げます。
美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!
目次
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」
こんにちは!弁護士の松本隆です。
第45回は「知っておきたい!公正証書遺言」です。
さっそく事例から見てみましょう。
私はXサロンの経営者です。今回の相談は、遺言についてです。
私はまだ60歳ですが、将来のことを考えて遺言を書いてみたいと思います。
どんな形で書くのがいいかよくわからないので教えてほしいです。
あと、親から「遺言を書いてあなたに全財産をあげる」と言われているのですが、親に遺言の作り方をどうやって教えてあげればよいかわからないです。どうしたらよいでしょうか?
「デジタル社会」に遺言は必須!?
普段はご自分の「寿命」について考えないものですよね。
残された家族にとって困るのは何でしょう?
個人的なベスト3は
1位「財産がどこにどのくらいあるかがわからない」
2位「携帯電話のパスワードがわからない」
3位「パソコンのログインパスワードがわからない」
です(統計ではありません。個人差があります)。
最近は「WEB通帳」が増えて紙の通帳が存在しないため、口座を探すのにもひと苦労です。
今までもありましたが「気づかれない預金、株、保険」は今後さらに増えると思います。
また、携帯電話からでないとWEB通帳やクレジットカードの明細が見られないことも多いので、携帯電話やパソコンのログインパスワードがわからないのは非常に困ります(携帯電話からならIDやパスワードが自動入力されるので結構ログインできます)。
このような事態を防ぐために、遺言で財産や伝えたい大事なことを残すのは非常に重要です。
遺言の種類
遺言の中で代表的なものは、①自筆証書遺言と②公正証書遺言です。
①自筆証書遺言は、文字どおり「自分で書く」遺言です。
費用はかからないですが、紛失するリスクがあったり、方式を間違えると無効になってしまうリスクがあったりするので、専門家としてはオススメできません。
最初に見つけた人が「自分に不利になる」と思って捨ててしまう可能性もあります。
②公正証書遺言は、公証役場で公証人(主に元・裁判官や元・検察官)に作ってもらう遺言です。
費用はかかりますが、100年以上保存されるため紛失のリスクはきわめて小さく(データ化されるので火事になってもなくなりません)、無効になる可能性もきわめて低いので、専門家としてはオススメです。
なお、公証役場に保管されていますから、最初に見つけた人が勝手に捨てるということも起きません。
そんなわけで今回は②公正証書遺言についてじっくりご説明いたします!
原稿はどうやって作るの?
原稿を作るときこそ弁護士の出番です。
「え?公証役場の公証人が作ってくれるんじゃないの?」という質問がよくありますが、「公証人は文面についてのアドバイスはしてくれない」のです。
公証人は遺言の内容を確認して印鑑を押して完成させる役割ですので、文面は自分で作る必要があるのです。
よほどシンプルなものでもない限りは「遺言はオーダーメイド」で作るのが一番です。
例えば、親族がいない方の遺言ですが、「この絵は友人のAさんにあげたい。ペットのワンちゃんは友人のBさんに引き取ってもらい、その代わりに現金で〇〇円をあげたい。残りの現金は友人のCさんにあげたい」などという細かい内容でも弁護士であれば上手に作ってくれます。
専門家でも知らない人がいる「予備的遺言」
「予備的遺言」というものがあるのですが、意外と知られていません。
例えば、Aさんが「長男Bには一切あげないで、次男Cに全財産をあげたい」と考えて遺言を作ることができますが、もし遺言を作ったAより先に次男Cが亡くなってしまうと、「遺言がリセットされてしまう」のです。つまり、「長男Bに半分、次男Cの子Dに半分」という結果になってしまいます。
これを防ぐために、「予備的遺言」というのですが「長男Bには一切あげないで、次男Cに全財産をあげたい。もしも次男Cが先に亡くなってしまったら次男の子Dにすべてあげる」という形で作っておけば、長男Bに法定相続分をあげずに済みます(ただし、遺留分の請求権は残ります)。
どのような遺言にすべきかは弁護士に一度相談するのがいいと思います。
親から「財産をあげる」と言われたら…(遺言執行者のうまい利用法)
例えば、親から「遺言であなたに全財産をあげる」と言われたとき、どうしたらいいでしょうか?
こんなときには「遺言執行者」を決めておくとよいです。
遺言を作る際に「遺言執行者」という「遺言の内容を実現する人」(弁護士など)を定めてもらうということです。
これによって、わざわざ自分が手続きをしなくても、相続が発生したときに遺言執行者がすべてやってくれるのです。
連絡をしにくい兄弟姉妹にも遺言執行者が連絡を取ってくれるので、不必要にもめる心配はありません。
何より兄弟姉妹から「不正をしていると誤解されることを防げる」のが大きいです。
なお、すべての財産を相続すると、他の法定相続人から遺留分侵害額請求(法定相続分の2分の1)をされることはありますので、遺留分をあらかじめ遺言で分配しておくかどうかは弁護士と相談するのがよいでしょう。
公証役場に支払う費用(手数料)
気になる手数料ですが、100万円以下なら5000円、5000万円を超えて1億円以下なら4万3000円です。ただし、相続を受ける人ごとに計算するため「遺産の金額が700万円なら17000円」というわけではありません。
くわしくは公証役場に問い合わせるのがよいと思います。
目的の価額 | 手数料 |
100万円以下 | 5000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 17000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 23000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 29000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 43000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3000円に超過額5000万円までごとに 1万3000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5000円に超過額5000万円までごとに 1万1000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9000円に超過額5000万円までごとに 8000円を加算した額 |
>> 公正証書遺言の作成手数料(日本公証人連合会の公式サイト)
弁護士に支払う費用
内容や遺産の金額によって増減しますが、弁護士費用は10万~20万円が多いです。
遺言執行者を依頼する場合には安くしてくれるということもあります。
ただし、遺産の金額が多い、遺言の内容が複雑であるなどの事情があると30万円以上になることもあります。
弁護士に問い合わせて相談するるとよいでしょう。
公証役場の場所
公証役場がどこにあるかはこちらから調べることができます。
主要な都市にはありますので、最寄りの公証役場やアクセスしやすい公証役場で遺言を作るのがよいでしょう。
また、歩けない等の事情がある場合は、公証人が施設や病院に出張してくれるので(出張日当も高額ではありません)外出ができなくても大丈夫です。
さいごに
今回は公正証書遺言について解説しました。
相続は突然やってくるものですが、先のことだと思ってどうしても対策が後回しになりがちです。
ご自身が遺言を作成するなら少しでも早く、ご両親が遺言を作成するなら元気なうちに。
「うちは遺産が多くないから…」などと思う必要はありません。
気軽に弁護士に相談するのがいいと思います。
松本 隆
弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー
早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。
横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115
監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子