弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。
第41回のテーマは、2024年11月より施行されたフリーランス新法について、契約書のひな型を取り上げます。
美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」
こんにちは!弁護士の松本隆です。
この連載では「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく」をモットーに、あえて内容をシンプルにしてお送りしています。
さっそく事例から見てみましょう。
私はXサロンの経営者です。
業務委託のフリーランス美容師が3人ほど在籍しています。
前にフリーランス新法の解説の回がありましたが、契約書を準備しなきゃと思っているうちにフリーランス新法が適用になってしまいました。
とりあえずサロンの経営者は何をすればよいですか?
フリーランス新法、始動!
「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」、別名「フリーランス新法」が2024年(令和6年)11月1日から施行されました!
過去の記事もあわせてお読みいただけるとうれしいです。
>> 【サロン六法】21.フリーランス新法(前編) サロン側に従業員がいない場合
>> 【サロン六法】22.フリーランス新法(中編) サロン側に従業員がいる場合①
>> 【サロン六法】23.フリーランス新法(後編) サロン側に従業員がいる場合②
サロンがフリーランス美容師に業務委託をする場合には、「書面等により取引条件を明示する」(参照:21.フリーランス新法(前編))こと、つまり「契約書を作ること」が必要です。
「契約書って言われてもわからない!」
という方のために、なんと今回は国が契約書のひな型を用意してくれているのです。
今日はこちらを見ていきましょう。ちなみに、なぜか契約書の名前が書いてありませんが、通常は「業務委託契約書」となります。
発注内容
今回、国が用意したひな型は「1.発注内容」からです。
引用:厚生労働省・<別添1>本ガイドラインに基づく契約書のひな型及び使用例について(以下同じ)
サロンがフリーランス美容師に何を依頼するのかをきちんと決めておくことで、フリーランス美容師は何をどこまでやればいいのかわかるようになります。
国は、「具体的に記載してね」と言った上で6つほど例を挙げています。
例えば、コンサルタントは以下のようになっています。
じゃあ、フリーランス美容師との契約の場合に、どのようにすればいいのでしょうか。
作り方は様々あるのは当たり前ですが、
(1)発注内容
①Xサロンにおける顧客に対する施術
②施術に伴い発生する事務全般(会計、予約の入力等)
(2)規格・仕様
・予約された施術時間において、顧客の希望するメニューを施術すること
(カット、パーマネントウェーブ、カラーリング、マッサージ、●●)
・予約はXサロンの予約専用ページ(https://●●●●●●)を通じて管理すること
・会計はXサロンのレジを使用すること
(3)納入方法・納入場所
・施術料金(売上)の納入は、①Xサロンのレジに現金で納入する方法、②●●により決済をする方法で行う。
というように、なるべく具体的な内容にしていきましょう。
特に、予約の管理をしっかりしないと、フリーランス美容師が毎月の売上をごまかすことができてしまうようになるので、予約のルールはしっかりと決めましょう。
報酬などについて
続いて「2.納期等」、「3.報酬の額」です。
フリーランス美容師はその場で施術をするので、「2.納期」は問題になりにくいと思います。
悩ましいのは、「3.報酬の額」です。国は以下のような例を出しています。
美容業界のフリーランスですと、「施術料金の〇パーセント」というのが一般的ですね。
考え方は様々ですが、
3. 報酬の額
・施術料金の●●パーセントとする。
というようなシンプルなものが多いかもしれません。
ただ、フリーランス美容師のやる気を出すために、もう少しきめ細かく決めると、例えば、
3. 報酬の額
・施術料金の金額に応じて以下のとおりとする。
①1か月の施術料金の総額が●万円未満の場合
施術料金の総額の●●パーセント
②1か月の施術料金の総額が●万円以上●万円未満の場合
施術料金の総額の●●パーセント
③1か月の施術料金の総額が●万円以上●万円未満の場合
施術料金の総額の●●パーセント
④1か月の施術料金の総額が●●万円以上の場合
施術料金の総額の●●パーセント
・交通費等の諸経費は、乙(フリーランス美容師)の負担とする。
・施術にかかる材料費は、●●、●●、●●については甲(Xサロン)の負担とするが、乙が●●、●●、●●を使用する場合は乙(フリーランス美容師)の負担とする。
というように、施術料金(売上)の金額に応じてパーセントを変えるのは1つです。
(売上が上がれば上がるほど、本人に還元される額が大きくなるように配慮すると長く続くように思います)
また、使う材料によって費用負担を決めるのは合理的かと思いますが、逆に、材料費はすべてサロンが負担するからその分パーセンテージは下げてね、というのも工夫かもしれません。
支払期日は一応注意?
国の用意した契約書ではこのようになっています。
また、「4.支払期日」は法律違反になりかねないポイントとしてこのような解説があります。
「22.フリーランス新法(中編)」でお話しましたが、
「サロン側(特定業務委託事業者)がフリーランス美容師(特定受託事業者)に対して業務委託をした場合、報酬支払は施術した日から60日以内にしてね」というものです。
これは美容業界の経営者はもともと60日以内に払っていると思われるので問題ないかと思います。
なお、「5.支払方法」は現金支払もあり得るかもしれませんが、基本的には銀行振込がよいでしょう。
「その他特記事項」ってなあに?
国の解説では、再委託があるなら書いてくださいというような内容ですが、ここには「特に注意しておきたいこと」を書いておけるので、色々と盛り込んでよいです。
例えば、
・フリーランス美容師が施術で利用する席を指定するか
・材料費の負担について細かいルールを書くか
・予約時間前後に清掃を行うことも業務に入る旨書くか
・アシスタントの利用ができるかどうか
・カウンセリングシートの作成を義務づけるか
・シャンプーやカラーの乳化の長さの目安をルールとして盛り込むか(「少なくとも〇分は行う」など)
・ドリンク提供のルールをどうするか
・物販についてのルールをどうするか
など、意外と決めておきたい細かいことは多いのです。
もちろん、あえて書かないという選択肢もあります。
雇用と評価されないように注意!
勘違いしてしまいがちなのが、「フリーランス美容師は労働者ではないこと」です。
でもお伝えしておりますが、サロンがフリーランス美容師に対して指揮監督をしている事情があると雇用(労働者)と評価されてしまうことがあるので注意してくださいね!
さいごに
今回はフリーランス新法の施行あたって、国が公開した契約書のひな型をご紹介しました。
国が出しているものは「最低限」の内容ですので、必ず契約書は作りましょう。
今後もお役に立つ情報を発信していきますので、読んでいただければうれしいです。
松本 隆
弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー
早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。
横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115
監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子