「オレオレ詐欺になんてだまされない」と思っている方は結構多いです。しかし、詐欺のレベルが高すぎるので、意外とだまされてしまいます。
弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。第39回は、オレオレ詐欺、振り込め詐欺について取り上げます。
美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!
目次
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」
こんにちは!弁護士の松本隆です。
第39回は「防ごう!オレオレ詐欺、振り込め詐欺(前編)」です。
事例から見てみましょう。
私はXサロンの経営者です。
経営もだいぶ落ち着いてきたので、久しぶりに実家に帰ろうと思って母に連絡をしたところ、母から「この前、アンタに300万円を貸した」と言われ、大変驚いています。
私が母から300万円を借りた事実はありません。
母は、「長時間話したし、アンタの声だった。大きな入金がある前にサロンの設備の支払があって、すぐに返すから300万円を振り込んでほしいと言われた」と言っています。
これは振り込め詐欺というものなのでしょうか?
だまされたお金は返ってくるものでしょうか?
オレオレ詐欺、振り込め詐欺などを総称して「特殊詐欺」というのですが、世の中にはあまり浸透していないので、「オレオレ詐欺、振り込め詐欺」と呼びます。
だまされてしまうのはみなさんの親です。
これを読んでいるみなさんは「相続財産が減る」という意味で影響を受けるのではないかと思います。
ぜひともこの記事で詐欺のことを知っていただければと思います。
オレオレ詐欺、振り込め詐欺の被害額は?
さて、警察庁が発表する統計によれば、オレオレ詐欺、振り込め詐欺などの被害額は、
令和元年 約316億円
令和2年 約285億円
令和3年 約281億円
令和4年 約371億円
令和5年 約452億円
でした。
コロナ禍では一時的に下がったものの、ここ1、2年で激増しています。
ちなみに、過去の被害額ワースト3は
平成26年 約565億円
平成25年 約490億円
平成27年 約482億円
ですので、近年の被害額はワースト最高記録に迫る勢いです。
詐欺集団のプロとしてのリサーチ力~呼び名~
「オレオレ詐欺なんて、だまされる方が難しいだろう」と思っている方は結構多いです。
しかし、意外とだまされる可能性は高いです。
なぜなら、「詐欺のレベルが高すぎる」からです。
詐欺集団は日々成功と失敗を繰り返しながらレベルアップしています。
今では「これで引っ掛からない方がおかしい」くらいのレベルです。
「声や話し方が似ている」などということは当然よくある話ですが、さらに、「家族構成を知っている」ので、おのずと会話がうまく進んでしまうのです。
さらに、詐欺集団は「親しい人しか知らないはずの呼び名を知っている」のです。
これによって多くの人がだまされてしまいます。
例えば、「紀子(のりこ)」をあだ名にするときに「のりちゃん」や「きこちゃん」とかはよくあるので言われても不思議ではないのですが、「のっこん」「きのこ」など、「名前からはすぐに連想できない呼び名」で呼ばれると、コロリとだまされるのです。
詐欺集団のプロとしてのリサーチ力~職業や趣味まで~
他にも、「息子、娘の職業や趣味を知っている」となるとだまされる確率は高くなります。
今回も詐欺集団は「サロンの設備の支払いがある」と伝えているので、お母さんは息子のXだと信じてしまったのかもしれません。
このように、詐欺集団は、だます相手の子どもがサロンを経営していることくらいは把握していると思ってください。
ちなみに、私が司法試験の受験生のときに、私を名乗る人から母に「●●(予備校名)に支払わないといけないから100万円を振り込んで」という連絡があったそうです。
司法試験の予備校名を知っているのもすごいですが、当時の私が弁護士を目指して勉強しているのを詐欺集団が知っているところが怖いですね…
1回あたりの被害額は?
全国平均では「1件あたり約200万円」の被害ですが、詐欺の種類や地域ごとに異なります。
例えば、令和4年の「東京」の「オレオレ詐欺」は「819件」で「32億円」でしたから、「1件あたり約400万円」の被害です。
また、同様に、令和4年の「神奈川県」の「オレオレ詐欺」は「749件」で「22億円」でしたから、「1件あたり約300万円」の被害です。
他方、還付金詐欺は、「●●円の還付金がもらえますよ」と伝えた上で「還付金をもらう前に●●円振り込んで下さい」と言ってだます詐欺です。
令和4年の「東京」の「還付金詐欺」は「588件」で「9億円」でしたから、「1件あたり約150万円」の被害です。
ですので、100万円くらいの被害の方は軽い方だということになります。
私が見た中で1回あたりの被害額が大きい方は「3000万円」です。
もちろん他にももっと高い方もいらっしゃいます。
地方の被害が少ない理由
令和4年の東京の被害額は約80億円でした。
私のいる神奈川県は約42億円です。
これに対して、令和4年の岩手県の被害額は5000万円、山形県は9000万円です。
被害額が少ない理由は何でしょう?
(よく学生にクイズを出すと「岩手にはATMがない」「岩手県の人はお金を持ってない」という回答が返ってきますが、完全に違います 笑)
人口が少ないことが影響しているかもしれませんが、「詐欺集団が方言をマネできないこと」もあるようです。
ですので、東北や九州などの方言が強い地域は被害が少ないと言われています。
「こまめな連絡」と「お金を貸してないかの確認」を!
被害防止のためによく言われるのは「こまめな連絡」です。
あとは、「合い言葉」や「秘密の質問」を作るのがよいと言われます。
しかし、一番大事なのは「お金を貸していないかの確認」です。
親としては「会ったときにお金を貸した話をするのはかわいそう」と思ってお金を振り込んだことを話題にしない人も多いのです。
10年前のオレオレ詐欺が最近発覚したなどということもよくあります。
ですので、親御さんには「私にお金貸してないよね?」と聞くのがよいと思います。
(本当に借りている方は話題にしづらいですね 苦笑)
後編は詐欺のもう少し詳細な話もしていきますので、よろしくお願いいたします!
松本 隆
弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー
早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。
横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115
監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子