漏水事故に巻き込まれたらどうしたらよいでしょう?
弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。第37回は、漏水事故について取り上げます。
美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!
目次
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」
こんにちは!弁護士の松本隆です。
第37回は「漏水事故に巻き込まれたら~上の階からの水漏れ~」です。
事例から見てみましょう。
私(X)は、ビルの1階で「Xサロン」を経営しています。
先日、2階の「Y飲食店」が水漏れを起こしたため、うちのサロンが水浸しになりました。
故障してしまった美容機器もありますが、何より営業ができる状態ではないです。
私(X)としては、2階の「Y飲食店」に損害を請求したいのですが、「ビルのオーナーZさん」もいるので、どちらに請求したらいいかよくわかりません。
どうしたらいいのでしょうか?
国土交通省の資料によれば、年間2万件の漏水事故が発生しているとのことです。
いつ漏水被害にあっても落ち着いて対処ができるよう、今回も経営者としてぜひとも知ってほしい内容です。
漏水事故があったら保険会社が対応してくれる
今回のような漏水事故が起きたとき、責任を負う候補の人は「2人」います。
民法717条が根拠です。
民法717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)
1 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2、3 (略)
ビルなどの建物は「土地の工作物」といいます。
例えば、専有部分の排水管からの漏水の場合、責任を負う候補の1人目は、「占有者」、つまり、上の階を使っている者です。
今回だと2階の「Y飲食店」です。
次に、もし「占有者」(Y飲食店)が「うちは水漏れしないように注意をしていたから責任はないよ!」といえるときは、2人目の候補として「所有者」つまり、建物のオーナーが責任を負います。
今回だと「ビルのオーナーZさん」です。
ただ、占有者(Y飲食店)も所有者(ビルのオーナーZさん)も通常は「火災保険」に入っているものです。
火災保険は「火災」だけでなく「漏水」にも対応しているので、漏水事故の被害にあったとしても、保険会社が損害を賠償してくれるのです。
「なんだ。じゃあそれなら大丈夫じゃん」と思いますよね。
違います…!!
損害の「全額」が補償されると思いがちだけど・・・
「漏水でパーマの機械が壊れてしまった」
「サロンが休みになってしまった」
などの損害を保険会社に請求することになりますが、結論から言えば、「全額」が回収できるとは限らないのです。
例えば、美容機器が壊れた場合、新しい機械の代金がもらえるわけではないのです。
「購入金額から減価償却分を引いた金額」がもらえるだけです。
美容機器の耐用年数は「5年」とされています。
減価償却の考え方は「定額法」や「定率法」などがありますが、理解しやすくするために「定額法」で考えると、500万円で買った美容機器は「500万円÷5年=100万円」なので、1年ごとに「100万円」が減価償却されると考えます。
ですので、漏水事故の時点で3年経過していると、500万円-300万円=「200万円」が美容機器の残った価値になります。
そうすると、保険会社からは200万円しか補償されないので、新しい美容機器を買うための300万円は自腹になります…!
「この美容機器はみんな10年は使っている。だからこれから10年使える見込みで計算して保証してほしい」と思うかもしれませんが、そうはなりにくいのが世知辛いところです。
(※もちろん交渉次第ではありますが…)
休業した分は請求できる?
休業したとしても、「本当に休業が必要だったのか」という話は問題になります(ハードルその1「休業の必要性」)。
例えば、「工事の日数が妥当だったか」、つまり、工事が80日かかっているけれど、本当は40日で終わったのではないかという話はよく争いになります。
また、例えば、「せっかく工事するからサロンのデザインを一新しよう」というように、工事を増やした結果、サロンの営業再開に余計に日数がかかった場合、休業した日数すべてが補償の対象にならないことがあります。
なお、ハードルその1「休業の必要性」が認められても、次に「実際に収入が減少したといえるか」も問題になります(ハードルその2「実際の収入の減少」)。
実際の収入の減少がなければ損害は「0円」ということになってしまいます。
損害をより多く填補してもらうためには…?
そもそも「漏水事故の補償の対象になるか」という点が重要です。
裁判では保険会社側は「そもそも漏水で被害にあった証拠がない」という戦い方をしてくることもあります。
ですので、漏水事故が起きた際には、片づけをする前に動画と写真を残すようにして下さい。
(裁判では動画や写真などの「固い証拠」がモノを言います)
実際に水がしたたり落ちている動画や、水浸しになった被害品の写真などを1つ1つ丁寧に残しておくことが重要です。
その際、漏水箇所の写真については、拡大したバージョンと遠めからのバージョンの2種類があると理想的です。
また、被害品の写真については、メーカーの情報(製品番号や製造年月日など)がうつっているとよいです。
相談に行った先の弁護士さんはきっと褒めてくれます(笑)
さいごに
今回は「漏水事故の被害者」になった場合を取り上げました。
何にしても保険は重要です。
漏水に限らず色々な事件に対応できるように、ちゃんと保険に入っておきましょう。
オススメの保険は、みんなのサロンほけん「事業活動総合保険」です!
ではでは、また次回。
松本 隆
弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー
早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。
横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115
監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子