【サロン六法】30.労災を知ろう!(後編)

特集・インタビュー
【サロン六法】30.労災を知ろう!(後編)

従業員が業務中にけがをしてしまった場合、どうしたらいいでしょう?

弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。第30回は、前回に引き続き、美容業界の労災事故について取り上げます。

美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!

「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」

松本隆弁護士( 横浜二幸法律事務所)

こんにちは!弁護士の松本隆です。

第30回は「労災を知ろう!(後編)」です。

30回も連載すると週刊連載の偉大さを感じます!(1週間が早い…!)

前回から美容業界の労災のケースをご紹介しております。

今回も厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」に掲載されている美容業界の労災事例からピックアップします!

>> 職場のあんぜんサイト(厚生労働省)

美容業務中「以外」の労災事故

前回は「美容業務中」の労災事故をご紹介しました。

でも、美容行為をしているとき以外にも当然事故は起きます。

今回は美容業務中「以外」の事故に焦点を当てます。

①美容行為の「前後」に起きた事故

客を見送るためにドアを開けて外に出た際、足を滑らせて転倒し、手・肘・膝を打撲、捻挫(41歳)

清掃中、店舗を出るときに階段で転倒し、足の甲を骨折(21歳)

帰り際に美容師さんにお見送りをしてもらえるとうれしいものですよね。

でも、外は雨が降っていて滑りやすいこともありますね・・・。

ケガは打撲と捻挫なので比較的軽かったとは思いますが、施術ごとに「店外に出る」というのはリスクなのかもしれません。

お店を出るときの階段も気をつけないといけませんね。

(足の甲の骨折なので少し重いですね・・・)

美容室の労災。弁護士が解説する連載「サロン六法」、美容室の法律。

②交通事故

美容師さんも銀行やお使い物に行くことはありますよね。

そうしたときの交通事故も業務中であれば労災事故になります。

銀行に向かう途中、自転車に衝突されて転倒し、左肘を負傷(25歳)

・入金と両替のため銀行に向かう途中、道路を歩行横断する際、自転車に衝突されて転倒し、左肘に挫傷(25歳)

交通事故は、車同士なら生身がダメージを受けるわけではないのでまだいいのですが(それでも「むちうち」が強く残ることは多いです)、「歩行者」は生身ですので、自転車やバイクにぶつかると非常に大きなダメージを負います。

私は交通事故の相談も多く受けるのですが、労災であろうとなかろうと交通事故にあったら必ず弁護士に相談するのがベストということは覚えておきましょう。

美容室の労災。弁護士が解説する連載「サロン六法」、美容室の法律。

③バランスを崩してケガをする

美容業務以外で物を運ぶこともあると思いますが、バランスを崩すと大ケガにつながります。

床にあった物を持ち上げようとした際に左足をひねり、バランスを崩して転倒し、左足を捻挫(62歳)

20リットルの精製水を運んで下ろそうとしたときにバランスを崩して、手の上に精製水を落とし、指を2本骨折(18歳)

重い物を持ち上げたときも、下ろすときもバランスを崩すと危ないですね…。

あまりに危険な作業を美容師さんにやらせてしまうと労災だけにとどまらず、サロンにも責任が発生することがあるので、気をつけましょう。

(記事の後半で説明します)

④謎の事故

・施術について10分くらい上司から注意されていて途中で逃げようとしたところ、上司が引きとめようとして手を伸ばしたときに押されたようになって転倒し、頚椎を捻挫、肩・股間・膝を打撲(54歳)

注意されているときに逃げるとは、いったい何があったのでしょう…?

経営者としては解雇したい従業員かもしれませんが、日本では簡単に解雇は認められませんので、弁護士によく相談するのがよいです。

>> 【ヘアサロン六法】第4回「解雇」

美容室の労災。弁護士が解説する連載「サロン六法」、美容室の法律。

サロンが関係ない事故は労災(1段階)で終了

労災事故が起きた場合、事故がサロン(会社)と関係がないものであればサロンに責任は発生しないのは当然ですよね。

例えば、サロンの外で交通事故にあった場合や自らの不注意で起きた事故の場合です。

この場合は、労災だけの対応、つまり「1段階」で終わりです。

「交通事故」は今回見ましたのでおわかりだと思います。

「自らの不注意で起きた事故」は、前回紹介したケースですと、

・カット中に椅子から立ち上がろうとしたら転びそうになり踏ん張った際に膝の半月板を損傷(57歳)

が挙げられます。

これは美容師さん個人の不注意ですので、労災(1段階)で対応は終わりです。

美容室の労災。弁護士が解説する連載「サロン六法」、美容室の法律。

知っておきたい!労災事件の「2段階」

これに対して、ケースによっては、労災(1段階)だけではなく、サロンの責任(2段階)が発生することがあるのです。

それは、①「安全配慮義務違反があった場合」と②「サロンが使用者責任を負う場合」です。

①「安全配慮義務違反があった場合」とは、サロンが従業員に事故が起きないように配慮しなければならないのに、それをしなかったために事故が起きた場合のことをいいます。

前回ご紹介した例の中ですと

・シャンプー台の床が濡れていることに気づかず滑って転倒し、右足を骨折し、靭帯を損傷(47歳)

が挙げられます。

この事例は、日頃から床が濡れやすい状態で危険だったのにサロンが対策をしていなかった場合にはサロンに2段階目の責任が発生する可能性があります。

②「サロンが使用者責任を負う場合」とは、同僚が誤ってケガをさせてしまった場合などが該当します。根拠は民法715条です。

例えば、今回の事例で言えば、

・施術について10分くらい上司から注意されていて途中で逃げようとしたところ、上司が引きとめようとして手を伸ばしたときに押されたようになって転倒し、頚椎を捻挫、肩・股間・膝を打撲(54歳)

というケースです。

これは上司の方がケガをさせてしまったので、サロンに使用者責任が発生します。

ですので、従業員の美容師さんはサロンに対して労災以外にも損害賠償請求をすることができます(ちょっと納得いかないかもしれませんが)。

そのようなわけで、労災だったら全部国が対応してくれるから大丈夫というわけではありませんので、経営者の方は労災についてよく知っていただけるとよいですね。

美容室の労災。弁護士が解説する連載「サロン六法」、美容室の法律。

おわりに

今回は美容業界の労災事例をご紹介させていただきました。

「うちでもこんなケースがあったよ!」という話があればぜひ聞きたいものです。

それでは、次回もお楽しみに!

松本隆弁護士( 横浜二幸法律事務所)

松本 隆

弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー

早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。

横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115

監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子

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