従業員からセクハラの相談を受けた場合、どうしたらいいでしょう?
弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。第28回は、そんな時の対処法について取り上げます。
美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!
目次
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」
こんにちは!弁護士の松本隆です。
第28回は「セクハラについて学ぼう!(後編)」です。
前回に引き続き、セクハラが発生した場合の対処法について解説していきます。
事例から見てみましょう。前回と同様です。
私(X)はAサロンの経営者です。原宿と上野で2店舗のサロンを経営しています。
先日、原宿店の従業員Yさん(女性)から
・上司Zさんに身体を触られたので強く拒否をしたら「冗談が通じないんだね。今後、君の仕事は半分にする」言われた
・その後、フリーの新規客を他のスタイリストにばかり割り振られるようになり、自分に割り振られる人数が明らかに減った
という申告がありました。
経営者としては、マズいとは思っているのですが、セクハラのことは詳しくないので、どうしたらいいか教えてほしいです。
サロンの経営者としてやらなければならないことは・・・
Xさんが経営者としてセクハラをはじめとするハラスメント対策としてやるべきことは主に以下の4つです。
①サロンの方針を明確にして周知する
②相談体制の整備
③事後には迅速・適切な対応をする
④プライバシー保護
①サロンの方針を明確にして周知する
第3回「パワハラ防止法(後編)」でもご紹介しましたが、ハラスメント防止のための会社内の「方針」を決めて労働者に周知する必要があります。
「職場におけるハラスメント防止について関する規定」という形で作るのがよいでしょう。
以下のリンク先に厚生労働省が規定の例を作ってくれたものがあるので(34ページ)、参考にするといいです。
>> 「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」(厚生労働省 都道府県労働局雇用環境・均等部作成「-職場におけるハラスメント防止について関する規定-」P.34)
②相談体制の整備
あなたのサロンにはハラスメント相談に対応できる「相談窓口」はありますか?
パワハラ、セクハラ、マタハラ等のすべてのハラスメントを1つの相談窓口で相談できるようにするのが望ましいです。
その際、窓口担当者が適切に対応できるように研修をしましょう。
「実際にハラスメント起きた場合じゃないと対応しません」という対応はダメで、「これからハラスメントが起きそう」という場合でもきちんと相談に乗る必要があります。
相談マニュアルの作成も重要です。
理想としては、「社内の相談窓口」だけでなく、「外部の相談窓口」もどちらもあることが望ましいです。
なお、法律事務所にハラスメント相談窓口を依頼する会社もあります。
③事後には迅速・適切な対応をする!
ハラスメントがあったことを把握したら、事実関係を迅速かつ正確に調査しましょう。
相談があったのに半年間放置していた、なんてことがあったらいけません。
そして、ハラスメントを受けた被害者の方のケア体制を整備しましょう。
具体的には、
・加害者と被害者の関係改善の援助
・引き離しのための配置転換
・加害者の謝罪
・労働条件上の不利益の回復
・メンタルヘルス不調への相談対応
等の措置を講ずる必要があります。
必要に応じて、加害者に対する措置を適正に行いましょう。
ハラスメントがあったと認められる場合には、加害者には懲戒その他の措置を講ずることになります。
また、再発防止策を構築して労働者に周知することも重要です。
具体的には
・HP等でハラスメントについて改めて掲載し、社内にもハラスメントの資料を配付する
・労働者に対してハラスメントに関する研修を改めて実施する
のがよいでしょう。
④プライバシー保護
相談者・加害者のプライバシー保護とその旨を周知しましょう。
加害者とされている人についても等しくプライバシー保護は必要です。冤罪(やっていない)かもしれませんので、事実が確定していない状況で犯人だというレッテルを貼るのは禁物です。
セクハラに関する裁判例
実際にどんな事例があったのか気になりますよね?
3つほど見てみましょう。
裁判例その1
被害者=X(女性) 加害者=上司Y(男性)
・YはXに好意を持ち、ドライブなどに誘ったところ、Xは応じたが、その後、Yの行為はどんどんエスカレートした。具体的には・・・
・居酒屋でXの手を触る、つなぐ
・Xを「送る」と言って車で会いに行き、下車の際にキスをした
・食事やデートの誘いを断られると、Xをわざと無視するなどの嫌がらせをした
・Xをホテルに誘い、酒を飲ませて酩酊状態にして性行為に及んだ(計6回)
・Xが性行為に応じなくなってからは職場でつらく当たった
(東京地判・平成24年6月13日・Westlaw Japan文献番号2012WLJPCA06138001)
この裁判例では、Xさんの慰謝料はいくらだったか想像がつきますか?
慰謝料は「200万円」でした。
Xさんは性行為に複数回応じていますが、裁判官は「上下関係を利用して性的な関係を強要したものであり、同意があったとはいえない」としています。
また、裁判では性的行為や発言についての録音の証拠が提出されていたようです(録音は証拠として価値が高いです)。
裁判例その2
被害者=X(女性) 加害者=同僚Y(男性)
※①~⑥(6年以上行われていた)のどれがセクハラ(不法行為)にあたるか考えましょう
①背後にぴたりとくっつく、両手を体の横に回して腕を掴むように抱きつく
②背後からXが着ているワンピースのファスナーを下ろす
③エレベータ内でYの頭や顔をXの顔付近に押し付ける
④連日、Xの業務中に食事に誘った
⑤飲み会でXのマフラーを無断で手に取って自分の首に巻いた
⑥Xのかばんに頭を入れてかき回した
(東京地判・平成30年1月16日・Westlaw Japan文献番号2018WLJPCA01168016)
慰謝料は「120万円」でした。
裁判官は
①背後にくっつく、腕を掴むように抱きつく→不法行為になる
②ワンピースのファスナーを下ろす→不法行為になる
③頭や顔をXの顔付近に押し付ける→不法行為になる
④連日食事に誘った→不法行為になる
⑤マフラーを無断で首に巻いた→不法行為にならない
⑥かばんに頭を入れてかき回した→不法行為にならない
としています。
(個人的には⑤⑥も不法行為になってほしいです・・・)
裁判例その3
被害者=X(女性) 加害者=上司Y(男性)
上司YからXに対する発言・行動は以下のとおり
・「艶っぽい小説をiPodに入れてほしい」
・「僕なら、3日3晩部屋にこもりっきり、食事も運んでもらう」
・「1度寝てみたい。2回も夢を見た」
・「60になるまでにぜひ寝たい」「60は先すぎる。こっちが年をくっちゃうから早く」
・「明日スカートはいてきて、1日デートだね」
・「キスしたいんだけど,3ヶ所の内どれがいい。肩 おへそ 内もも」
・「胸こないだ風船みたいに柔らかかった」
・胸を2回触る、首筋のにおいをかぐ
・携帯で話しながら肩をなでまわす
・なお、Xは不安障害と診断を受けたが、セクハラが原因とまでは認められなかった
(東京地判・平成26年2月28日・Westlaw Japan文献番号2014WLJPCA02288016)
慰謝料は「60万円」でした。
裁判官は「上司という優越的な立場を利用して2か月もの間、断続的に胸を触るなどした行為は悪質である」とした一方、「もっとも、セクハラは頻繁ではなく、不安障害の原因になったとは認められない」としたため、金額は低めのようです。
さいごに
いかがでしたか?
セクハラがないサロン作りをすることが大事ですので、弁護士に研修や相談窓口についてわからないという方は相談してみましょう!
それではまた次回!
松本 隆
弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー
早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。
横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115
監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子