従業員からセクハラの相談を受けた場合、どうしたらいいでしょう?
弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。第27回は、そんな時の対処法について取り上げます。
美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!
目次
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」
こんにちは!弁護士の松本隆です。
第27回は「セクハラについて学ぼう!(前編)」です。
今回は「バレないセクハラのやり方」を教えるわけではありません(笑)
事例から見てみましょう。
私(X)はAサロンの経営者です。原宿と上野で2店舗のサロンを経営しています。
先日、原宿店の従業員Yさん(女性)から
・上司Zさんに身体を触られたので強く拒否をしたら「冗談が通じないんだね。今後、君の仕事は半分にする」言われた
・その後、フリーの新規客を他のスタイリストにばかり割り振られるようになり、自分に割り振られる人数が明らかに減った
という申告がありました。
経営者としては、マズいとは思っているのですが、セクハラのことは詳しくないので、どうしたらいいか教えてほしいです。
国はハラスメントをどうにかしたいと思っていたけど・・・
令和2年、厚生労働省は「セクハラ指針」(令和2年厚生労働省告示第6号)を改正しました。
つまり、中小企業はセクハラ対策をしなければならなくなったのです。
でも、令和2年の「新型コロナウィルス」と重なってしまったため、国はハラスメント対策について十分に周知できなかったんです(不運…)。
その証拠に、令和6年3月、厚生労働省は「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」を出して「企業のハラスメントの実態はどうなの?」という調査結果を発表しました。
>> 令和5年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)
これによれば、セクハラを受けた後、「同僚や上司に相談した」という人は27%で、「何もしなかった」という人が52%でした。
さらに、セクハラの相談をしたのに「会社が何もしてくれなかった」という割合は43%でした。
つまり、多くの企業において「セクハラの対策が不十分」であることが明らかになりました。
ちなみに、第2回、第3回でパワハラ防止法について書きましたが、2022年(令和4年)4月から、中小企業でパワハラの対策をする義務が発生しています(「パワハラ防止法」)。
実施していますか?「ハラスメント研修」
男女雇用機会均等法11条の2とセクハラ指針は、
・経営者は、セクハラ問題について労働者の関心と理解を深めてね
・経営者は、労働者が言動に注意できるようにするために「研修」をしてね
・経営者自身もセクハラ問題の勉強をしてね
・労働者もセクハラの勉強をしてね
と言っています。
ここでのポイントは、会社(サロン)はハラスメントの「研修」をしなければならないということです。
「研修なんてやってないよ!」というサロンは多いかもしれませんが、法律上の義務になっているので、研修の機会を設けましょう。
ちなみに、セクハラ、パワハラなどのハラスメント全般の研修を一緒にやっても問題ありません。
セクハラって何?
セクハラの定義は、男女雇用機会均等法11条に載っていますが、
①「対価型」
職場で行われる性的な言動に対する労働者の対応により労働条件で不利益を受けること
または
②「環境型」
職場で行われる性的な言動により労働者の就業環境が害されること
をいいます。
①「対価型」は、性的な言動に拒否・抵抗した結果、解雇、減給、配置転換などの不利益を受けるものをいいます。
例えば、今回のYさんのように上司Zさんの性的な行動をYさんが拒否した結果、担当を減らされるという不利益を受けたという場合がこれにあたります。
②「環境型」は、不快な就業環境になったため労働者の能力発揮が十分にできなくなってしまうものをいいます。
例えば、ヌードポスターが壁紙に貼られたり、性的な話をされたりして、その結果、労働者が不快に感じて仕事に専念できなくなるという場合がこれにあたります。
「職場」の意味は広い!
「職場」とは、労働者が業務を遂行する場所を指します。
ですので、
①自分の会社
②取引先や顧客の会社
③出張先
④会社開催の懇親会
はすべて「職場」です。
会社開催の「懇親会」も「職場」ですので「多少セクハラがあっても飲み会の場だから・・・」という言い訳は通用しない世の中になってきております。
セクハラの相談をするような人はクビにしてしまえ!?
セクハラ指針 3(4)は、
①会社は、従業員がセクハラ相談をしたこと、セクハラの事実関係の確認に協力したこと(目撃者として証言)等を理由として、不利益な取扱い(解雇、減給、配置転換など)をしてはダメ
②労働者に①を知らせてね
を定めています。
ですので、今回、従業員Yさんが経営者Xさんにセクハラ相談をしていますが、これによって経営者Xさんや上司Zさんが、Yさんに対して減給などをしたら違法ということになります。
セクハラの具体例は・・・
セクハラに該当しそうな行動としては「人事院規則10-10」が参考になります。
これはあくまで「人事院のルール」なので、みなさんに適用があるわけではないのですが(上で書いたセクハラの定義から外れるものもあります)、具体例があるので参考になります。
以下、抜粋します。
・スリーサイズを聞くなど身体的特徴を話題にすること。
・聞くに耐えない卑猥な冗談を交わすこと。
・体調が悪そうな女性に「今日は生理日か」「もう更年期か」などと言うこと。
・性的な経験や性生活について質問すること。
・「男のくせに根性がない」「女には仕事を任せられない」…(略)…などと発言すること。
・…(略)…「おじさん、おばさん」などと人格を認めないような呼び方をすること。
・…(略)…性的指向や性自認を本人の承諾なしに第三者に漏らしたりすること。
・身体を執拗に眺め回すこと。
・食事やデートにしつこく誘うこと。
・身体に不必要に接触すること。
・女性であるというだけで職場でお茶くみ、掃除、私用等を強要すること。
・カラオケでのデュエットを強要すること。
・酒の席で、上司の側に座席を指定したり、お酌やチークダンス等を強要すること。
人事院では「おじさん、おばさん」と呼ぶこともセクハラにあたるとされています。
今回紹介したセクハラの定義にはあたりにくいかもしれませんが、相手を思いやる言葉選びは大事ですよね。
さいごに
いかがでしたか?
次回はサロンでセクハラ対応のためにしなければならないことをご紹介します!
それではまた次回!
松本 隆
弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー
早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。
横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115
監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子