弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。第24回は「無断キャンセル、いくら請求できる?」です。
美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!
目次
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」
こんにちは!弁護士の松本隆です。
第24回は「無断キャンセル、いくら請求できる?」です。
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく」をモットーに、あえて内容をシンプルにしてお送りします。
まずは事例から見てみましょう。
うちのXサロンにYさんという方から施術(5000円)の予約が入りました。
しかし、Yさんは施術の当日に来ませんでした。
材料費は1000円くらいですから、粗利で4000円が稼げたはずでした。
当日キャンセルの場合、うちのサロンでは他のお客さんが来る可能性は良くても10%くらいかなと思います。
このような無断キャンセルの場合、キャンセル料はいくら請求できますか?
サロンに予約した時点で契約は成立している!
第12回の「借用書」でお話しましたが、契約とは「当事者間の意思表示が合致すること」をいいます。
簡単に言うと、お客さんが「3000円のカットを●月▲日17時からお願いしたいです」(申込)と予約して、サロンが「いいですよ」(承諾)と言えば、お互いの法的な考えが一致するので契約が成立します。
ですので、今回の事例では、Yさんが電話でXサロンに予約をした時点で施術の契約は成立していることになります。
予約したのに無断キャンセルをしたら「債務不履行」に!
契約が成立している以上、Xサロンは「約束した日に施術をする義務」があり、Yさんは「当日にサロンに行って施術を受けて代金を支払う義務」があることになります。
ですので、Yさんが無断キャンセルをした場合、Yさんは義務を果たさなかったことになるのです。
これを「債務不履行」といいます(民法415条で定められています)。
民法 第415条(債務不履行による損害賠償)
1 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。…(以下略)
債務不履行にあたる場合、YさんはXサロンに「これによって生じた損害」を賠償しなくてはなりません。
キャンセルポリシーを作っておかないとキャンセル料は請求しにくい!
ただ、いちいち毎回損害がいくらかを計算するのは大変なので、「施術料金の●%」というように「損害の計算のしかた」、つまり「キャンセル料」を決めておいた方がサロンとしては計算が楽ですね。
ただ、XサロンがYさんに「施術料金の●%」という形でキャンセル料を請求するためには、キャンセルする場合のルールである「キャンセルポリシー」を作っておく必要があります。
さらに、ホームページのわかりやすいところに表示しておく(=お客さんにわかる状態にしておく)ことも忘れないようにしなければなりません。
「平均的な損害」を超えたキャンセル料はダメ!
消費者契約法9条に「平均的な損害」という概念があります。
これは、Xサロンの予約をYさんが無断キャンセルしたとしても、キャンセルポリシーで定めるキャンセル料は「一般的なサロンで通常発生する平均的な損害額」までしか請求できないよ、ということです。
消費者契約法は、消費者(Yさん)を守るために会社(Xサロン)に高額なキャンセル料を設定できないようにしているのです。
無断キャンセルされた場合、①かかるはずの材料費がかからなくなること、②キャンセルされて時間ができたので、他のことができるようになること(他のお客さんを施術できる)から、必ずしも「施術料金の全額が平均的な損害」にはならないということに注意しましょう。
じゃあ、キャンセル料はいくらならいいの?相場が知りたい!
「平均的な損害」(キャンセル料の相場)の計算の仕方は
①「キャンセルがなければ得られた粗利」×②「100%-運良く他のお客さんが来る確率」
です。
①「キャンセルがなければ得られた粗利」については、誤解を恐れず言えば、「かかるはずの材料費はかからなくなるので、施術料金から材料費を引いた金額」ということです。
例えば、5000円の施術で材料費が1000円の場合、
5000円-1000円=「4000円」
が「キャンセルがなければ得られた粗利」です。
②「100%-運良く他のお客さんが来る確率」は、キャンセルされても運良く他のお客さんが来る可能性があればその分を引く必要があるということです。
当日キャンセルの場合、運良く他のお客さんがキャンセルされた時間に来る可能性はお店によりますが、例えば、今回の事例のXサロンように「10%」だとします。
(現実にはこの数字は出しにくいです。ホテルに関する裁判例では空室率から計算したものがあります)
そうすると、「平均的な損害」は、
①4000円×②(100%-10%)=3600円(施術料金の70%くらい)
ということになります。
ちなみに、前日キャンセルの場合は、可能性はちょっとアップするので、例えば、「30%」だとすると
①4000円×②(100%-30%)=2800円(施術料金の50%くらい)
が「平均的な損害」になります。
ですので、お店にもよるかもしれませんが、私個人の考えは、キャンセルポリシーで
・当日キャンセルや無断キャンセルの場合、「施術料金の70%」
・前日キャンセルの場合、「施術料金の50%」
と設定しても問題は起きにくいように思います。
ただ、多くのホームページでは、キャンセルポリシーで
・当日キャンセルや無断キャンセルの場合、「施術料金の50%」
・前日キャンセルの場合、「施術料金の30%」
と設定しているので、同じように数字にするのが無難で手堅いかもしれません。
さいごに
今回は、無断キャンセルについてご紹介しました。
今後も新しい法改正やみなさまの疑問にお答えできるような記事を書いていきますので、お読みいただけたらうれしいです。
松本 隆
弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー
早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。
横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115
監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子