コロナ禍や処理水問題で大きな影響を受けた化粧品市場。日本のトップメーカーを率いる魚谷雅彦氏(資生堂代表執行役会長CEO)は環境の目まぐるしい変化をどう捉えているのか。
2024年7月23日に東京プリンスホテルで開かれた日本化粧品工業会(粧工会、JCIA)の懇親会で、会長として壇上にあがった魚谷氏は、化粧品業界の現在地と展望を示した。
2024.07.25更新(2024.07.25公開)
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微増にとどまる化粧品市場、輸出は2割弱減少
経済産業省の生産動態統計によると、2023年1〜12月の化粧品出荷額は前年比2.1%増の1兆2919億円だった。
魚谷氏は「長かったコロナ禍に化粧品産業は大きな影響を受けたが、ようやく昨年度の市場は回復の兆しが見えてきた。とは言っても2%増くらいで(コロナ前の)2019年度からの2桁成長は未達だ」と現状に言及。
さらに「回復が期待できそうにも思えるが、実は輸出が残念ながら19%減になっている」と指摘した。福島第一原発処理水の放水に端を発した中国の不買運動が影を落としている。
グローバルの意味合いが変わる? 輸入が14%増
一方、昨年度の化粧品輸入額は14%増加した。
「化粧品産業でグローバル化と言えば、日本から海外へ進出するグローバル事業という意味。ところが、いまは逆に国内市場へこれまで以上に多くの海外ブランドが入ってきてグローバルになっている」
この現況を「お客さまにとっては選択肢が増えて活性化しているということ。私たち(国内の化粧品メーカー)にとっては競争のあり方がまさに変化し始めているということ」だと捉え、危機感を募らせた。
インバウンド需要に変化、国際競争力の強化が急務
コロナ禍前は、インバウンドの‟爆買い”でうるおった化粧品業界だが、これについても変化が起きている。
日本政府は2030年に訪日客6000万人、消費額15兆円という目標を立て、2024年の訪日客消費額を8兆円規模と見込む。円安を背景に、オーバーツーリズム(観光公害)が問題になるほど、訪日客は増えている。
しかし、「化粧品産業では、2019年までの爆買い的なものはなくなり、消費の仕方も売れる商品も変わった」。現在のニーズとして「自分が本当に必要とするものを買いたい、カウンセリングをしっかり受けて買いたいという声が聞こえてくる」という。
魚谷氏が会長を務める日本化粧品工業会は、2030年までに成し遂げたいビジョンについて委員会や部会ごとに取り組みを進めている。
「粧工会ビジョン2030の一番重要なポイントであり方針として掲げているのが、国際的な競争力の強化。私たちはもっともっと魅力ある商品へとイノベーションを起こし、国内の消費者にも訪日客にもアピールできるような事業を展開していかなければならない」と力を込めた。
ダイバーシティ&インクルージョンの先進的産業に
粧工会ビジョン2030の2つ目のポイントは、サステナビリティの推進だ。
魚谷氏は「CO2排出量やプラスチック容器の削減はもちろんのこと、特に注力したいのがダイバーシティ&インクルージョン(D&I)。私はこの点について強調したい」と熱をこめた。
「なぜかというと、私たちは化粧品産業だからだ。お客さまは圧倒的に女性が多く、働く人も女性が多い。化粧品産業こそ多様性を実現し、日本におけるD&Iの先進的、模範的産業にならなければいけない」と、懇親会に集った全国の化粧品メーカー社長らに呼びかけた。
「多様性が進み、もっと豊かな発想が生まれることによって企業の活性化を強め、風土を改革していこう、成長につなげようというのが目的。その結果、日本社会が豊かになることへつながる」と展望を示した。
厚労省・消費者庁・経産省も業界へ期待
この日の懇親会では、厚生労働省、消費者庁、経済産業省の来賓もあいさつに立ち、業界への期待を語った。
関係省庁からの祝辞に続き、水野真紀夫副会長(ホーユー会長)が乾杯の音頭を取った。
水野副会長は「(東名阪の地域3団体から日本化粧品工業会へと)ひとつの会として発足して1年が経つ。まだまだ課題はたくさんあるが、大都市だけでなく日本中のお客さまやメーカーにサービスを提供できるような工業会として進んでいきたい」と抱負を述べた。
乾杯の後は歓談に移り、全国から集まった参加者がそれぞれ親睦を深めた。
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取材・文・撮影/大徳明子 撮影/布施景(総会の写真のみ)