【サロン六法】20.営業時間外のカット練習 残業代を請求できる?

特集・インタビュー
【サロン六法】20.営業時間外のカット練習 残業代を請求できる?

弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。第20回は「営業時間外のカット練習は残業になるの?」です。

美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!

「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」

松本隆弁護士( 横浜二幸法律事務所)

こんにちは!弁護士の松本隆です。

第20回は「営業時間外のカット練習は残業になるの?」です。

「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく」をモットーに、あえて内容をシンプルにしてお送りします。

美容師さんからの質問

私が勤務しているサロンでは、営業が終わった後に「カットの練習」が始まります。この時間は、私たち従業員が現場のお客さまにカットができるようになるための時間なので、「自主的な練習」という扱いになっているため、残業代が出ません。

自分が上達するためだとわかってはいるのですが、サロンの売上のためにやっている面もあるため、残業にあたるかもしれないと思っています。

営業時間外のカット練習分は残業代を請求できるのでしょうか?

営業時間外しか練習の時間はない!?

国家試験を無事に終えて免許を取ったばかりの方を雇っても、現場で即戦力とはいきません。

専門学校とは別に免許を取った方向けにスタイリストになるための養成スクールがあるくらいですから(費用は数十万円かかります)、現場に出るための力をつけるのは本当に大変です。

「どんな髪型でもいいし、失敗してもいいよ」というお客さまはいませんから、お金を払っていただくお客さまを練習台に使うことはできません。

そして、営業時間中はアシスタントとしての業務があるので、営業時間外しか練習できる時間がないというのが実情でしょう。

経営者の方からは

「カット練習に付き合ってあげているのはこっちの方だよ・・・」

「いつか独立するんだから、カット練習は自分のためでしょう」

「練習時間に給料なんて払ってられないよ・・・」

などという心の声が聞こえてきそうです・・・

営業後のカット練習は残業になるの(サロン六法・美容室経営者の法律相談)

「雇用契約」の場合

残業代が請求できるかどうかは、「雇用契約」の場合と「業務委託契約」の場合で扱いが違います。

先日、「14.雇用と業務委託(前編)」と「15.雇用と業務委託(後編)」を執筆しているので、併せてぜひともお読みください。

>> 【ヘアサロン六法】14.雇用と業務委託(前編)

>> 【ヘアサロン六法】15.雇用と業務委託(後編)

さて、「雇用契約」の場合、「労働」といえるかは、経営者が従業員に「指揮命令をしているかどうか」で決まります。

ですので、サロン側が営業時間外のカット練習をするように指示しているのであれば、カット練習は「労働」といえるので、経営者の方は、残業代を払う必要があるということになります。

これに対して、従業員が自発的に練習しているのであれば、残業代は発生しません。

営業後のカット練習は残業になるの(サロン六法・美容室経営者の法律相談)

判断はあくまで「実質的」に

もしかしたら、サロンの中には「うちは指揮命令なんてしていない」「あくまで従業員が自主的に練習しているだけだが、たまたま全員がカット練習をしている」というところもあるかもしれません。

しかし、指揮命令があるかどうかは「実質的に判断」するので、直接指示をしていなくても、「カット練習をすることが暗黙の了解になっている」という実態があれば「指揮命令はある」といえる可能性は高いといえます。

営業後のカット練習は残業になるの(サロン六法・美容室経営者の法律相談)

「業務委託契約」の場合

「業務委託契約」の場合、労働基準法の適用がないので、基本的には残業代は出ません。

ただ、業務委託契約の中には、「名目だけは業務委託契約」だけど、「事実上は雇用契約である」という人がいます。

その場合は、雇用契約と同様に、指揮命令があれば、営業時間外のカット練習は「労働」といえるので、経営者は残業代を払う必要があります。

固定残業代(みなし残業代)のシステムを導入してみる

法定労働時間は1日8時間、1週間40時間までです。ただ、美容業は、労働基準法上「特例措置対象事業場」にあたるので、1週間44時間までとなります。

この時間を超える場合、残業代が発生しますが、「固定残業代」(みなし残業代)というシステムを導入して、残業代を支払うという方法は1つの解決策です。

「固定残業代」(みなし残業代)は、「毎月だいたいこのくらいは残業するだろう」と見込んで、あらかじめ決められた残業代を支給する制度です。

実際に残業しない月でも支給されるので従業員にとってもメリットがあります。

経営者の方にとっては「え?なんで残業しない月の残業代まで払わないといけないの?」と思うかもしれませんが、給与の計算が簡単になる点や、カット練習はもちろん、従業員が残業について不平不満を言わなくなるなどメリットはあります。

さいごに

今回は「営業時間外のカット練習は残業になるの?」というお話でした。最後に念のため。営業が終わった後だけでなく、営業が始まる前の朝練習も残業扱いになりますのでご注意ください。

残業代は溜まるとそこそこの金額になってしまいますし、裁判になってしまってからでは遅いので、カット練習のあり方について見直す機会にしていただければと幸いです。

松本隆弁護士( 横浜二幸法律事務所)

松本 隆

弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー

早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。

横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115

監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子 撮影/幡司誠

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