値付けをどう決めるか。美容室を経営するうえで悩ましい問題だが、高単価サロンではどう考えているのだろう。
銀座で客単価平均3万5000円のひとりサロンを営む、笠本善之(かさもと・よしゆき)さんはこう考える。
値上げをすれば、必ず客数は減る
単価を上げれば売上は上がるとわかっていても、「もし値段を上げたら、お客さまが減ってしまう」と恐れて踏み切れない人の方が多い。笠本さんはどう考えているのか?
値上げすれば、お客さまは必ず減ります。でも減ることを恐れていたら、ずっと一生その価格のままです。
例えば、100人のお客さまが値上げで70人になったとします。それをどう考えるかなんですよ。100人いたお客さまが70人になったら、30人分の余白ができるので、そこにその値段で納得して来ていただけるお客さまを入れりゃいいじゃん、って思うんですよね。
客数が半減しても売上は同じで労働時間は半分、それが熟成肉
笠本さんは、その考え方を「熟成肉」に例える。
肉を熟成させる過程で外側が硬くなったり酸化したりする。その部分をそぎ落として、おいしいところだけを残したのが熟成肉です。
1kgだった塊が500gの熟成肉として出てくるんですよ。元々は1kgの肉なんで、500gでも1kgの値段になる。だから熟成肉のステーキって高いんです。だけど、めちゃめちゃうまみがある。
お肉を端から端まで食べたいのか、それとも熟成肉のように美味しいものだけを少量だけ食べたいのか、ということなんですよ。お金で動く人は、うちじゃなく、その人に合ったところに行っていただいたほうが幸せになれる。うちは数が減っても、良いお客さまが残る。だから、来てくださる方に目を向けたらいいじゃないって。
もしも値段を倍に上げて、お客さまが半分になっても、売上ベースで考えれば同じ。しかも施術の労働時間が半分になる。
そうなれば、その半分のお客さまにゆっくり向き合えるし、余裕の時間で紹介による集客を強化しようとか、自分から営業をかけていこうとか、売上や利益をアップするための手を打つ時間ができる。そうやってどんどん新陳代謝させていく。そのほうが絶対にいいですよ。
値段設定の見直しが、店舗空間や接客のゆとりをつくり、ロイヤリティの高い優良客を大切にすることにつながる、というわけだ。
物価高や不況が叫ばれる現代、人件費や材料費などさまざまな兼ね合いで値段を上げざるを得ない、という経営者は多いだろう。値上げを検討する際にはぜひ、笠本さんの「熟成肉理論」を思い出してほしい。
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取材・文/大徳明子 文/曽田照子 撮影/上米良未来