弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。第16回は「賃料増額請求が来たらどうする?」です。
美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!
目次
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」
こんにちは!弁護士の松本隆です。
第16回は「賃料増額請求が来たらどうする?」です。
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく」をモットーに、あえて内容をシンプルにしてお送りします。
賃料増額請求って?
(事例)
Xさんは、サロンを経営していますが、賃料は月額20万円です。
しかし、契約の更新時期に、不動産のオーナーから「30万円に増額したい」という連絡がありました。
Xさんとしては、サロンは少しずつ軌道に乗ってきてはいるものの、まだ支払いも多く、増額に応じたくないと考えています。
このまま契約更新の時期を過ぎてしまった場合、賃貸借契約はどうなってしまうか心配です。
経営者の方が借りているサロンの賃料、上がってしまうと困りますよね。
①不動産の税金(固定資産税)が上がっている
②不動産の価値が上がっているなど経済事情が変動している
③近くの不動産の賃料と比較して低い
などの事情があると、契約更新のタイミングや相続でオーナーが変更になった際などに、不動産のオーナーさんから「賃料を増額したい」と言われてしまうことがあります。
まずは交渉から。資料を求めましょう!
いきなり10万円アップと言われても簡単に応じるのは難しいですよね。
そこで、まずは「交渉」をすることが考えられます。
こちらがすべきことは、オーナーさんに「増額の根拠資料を求める」ことです。
例えば、上記の③(近くの不動産の賃料と比較して低い)ということが資料から明らかであれば、増額に応じることを検討してもよいですが、納得がいかない場合は増額を拒否することも1つの方法です。
契約更新の時期が過ぎても「法定更新」となるので問題はない
交渉をしているうちに更新をしないまま契約更新の時期を過ぎてしまうことがありますが、その場合、賃貸借契約は「法定更新」されることになります。
法定更新がされた場合、賃貸借契約は基本的に同一の条件で自動的に更新されることになります。
ただ、契約期間については「期限の定めがない契約」となるので、「2年間」や「3年間」であった契約の期限がなくなります。
本件でも、契約更新の時期を過ぎてしまっても、賃貸借契約は法定更新されますので、Xさんに不都合はありません。
なお、更新料の定めがある場合は、法定更新の際に更新料は支払う必要がある可能性が高いです。
交渉がダメなら「調停」の申し立てが来る?
交渉で話し合いがまとまらなくても、オーナーが増額したいと思えば、「調停」、すなわち、「賃料増額調停」を申し立ててくることが多いです。
調停は話し合いですから、この場合は、裁判所で話し合いを行うことになります。
「裁判になってしまった!」と焦る必要はありません。
増額に十分な根拠がないこともありますし、仮に増額が認められるとしてもそこまで大きくは伸びない可能性もあります。
何より初回の期日まではまだ時間があるので、この段階で専門家である弁護士さんに相談や依頼をするのがいいかもしれません。
賃料の受け取り拒否があったら「供託」をしましょう!
オーナーさんとしては現在の賃料では納得いかないので、賃料の受け取り拒否をしてくることがあります。
その場合、賃料の不払いがあると契約解除をされる可能性があるので、そうならないように、法務局に「供託」して「現在の賃料」を支払いましょう。
(「現在の賃料」さえ払っておけば賃料の不払いにはなりません)
調停がダメなら「裁判」(訴訟)へ
最後の段階として「裁判」があります。
「調停」はあくまで「話し合い」でしたが、「裁判」の判決には「強制力」があります。
ここまでくると、不動産鑑定士さんに鑑定意見を作成してもらうなどして、「本当に賃料を増額する根拠があるのか」を詳細に審議することになります。
さいごに
賃料増額請求がされても必ず賃料が増額されてしまうわけではないので、まずは、弁護士さんに相談しましょう。
5万円の増額に応じたら年間60万円です。
10万円の増額に応じたら年間120万円です。
弁護士さんに頼んで増額を抑えられるならそれに越したことはありません。
増額に応じる前に、慎重に検討しましょう。
松本 隆
弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー
早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。
横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115
監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子 撮影/幡司誠