お香はブレンドしてつくられる。そのレシピは線香各社にとって秘伝のものだ。
1893年(明治26年)創業の薫寿堂(くんじゅどう)が、そのブレンドの元となる素材、ふだんは脇役の素材を主役にして製品化し、話題を呼んでいる。
素材そのものの香りを楽しむ
今夏に発売された「&INCENSE(アンドインセンス)」は、伽羅(きゃら)や沈香(じんこう)、白檀(びゃくだん)といった線香の素材である香材を商品化したもの。
単品で使えば、雑味のない芳香が広がる。また、いくつかを炊き合わせて独自の香りを作るのも趣き深い。素材を組み合わせて製品化する線香に、薫寿堂はあえて真逆の発想を取り入れた。
秘伝だからと押しつけていないか
発売に先駆け、6月に東京ビッグサイトで開催されたインテリアライフスタイルに出品。福永稔社長が自ら、肝入り商品の説明に当たった。
きっかけは「ブレンドして独自の香りを作る。それが秘伝のレシピ。でも、メーカーの押しつけなのでは」と思ったからだという。
時代が移り変わり、香りの楽しみ方も多様になった現代だからこそ、素材そのものの香りを楽しむ。長い歴史をもつ老舗が原点に立ち返り、そうして「アンドインセンス」が生まれた。
七味やカレー粉を自分好みにブレンドするように、線香もお客さまが自分で炊き合わせできるはず。同社の長い歴史のなかでこれまでなかった試みだ。
線香発祥の地である淡路島で昨年に創業130年を迎えた薫寿堂。伝統を守りつつ、令和の世に新たな挑戦を続けている。
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取材・文・撮影/大徳明子 文/湯澤康洋