弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。第14回は「雇用と業務委託」についてです。
美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!
目次
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」
こんにちは!弁護士の松本隆です。
第14回は「業務委託でも雇用と判断される?~裁判例から学ぶ労働者性の具体的なポイント(前編)~」です。
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく」をモットーに、あえて内容をシンプルにしてお送りします。
美容師さんとの契約は雇用契約・業務委託契約のどちらにする?
2023年2月、理容師さん8人がQBハウスに対して未払賃金(残業代)請求の裁判を起こしましたが、この裁判では理容師さんが「雇用なのか業務委託なのか」も問題となっています。
美容室の経営者としては、美容師さんを「雇用」して経営するか、「業務委託」で売上から一定のパーセンテージを支払って経営するかは1つの悩みどころかと思います。
雇用契約では、税金が大変であったり、労働基準法の適用があったりするので、経営者としてはそれらを業務委託にすることで回避したいと考えることがよくあります。
もちろん、業務委託にすることで、美容師さんにも時間的拘束が弱まる、顧客が増えれば報酬が増えやすくなる等、複数のメリットがあります。
ただ、「名目だけは業務委託契約」だけど、「事実上は雇用契約である」という場合は問題です。
以前の記事に「弁護士に聞く『美容室の業務委託契約』の注意点」というものがあります。
>> 弁護士に聞く「美容室の業務委託契約」の注意点
この記事でも「事実上の雇用契約にならないように注意」という話が出ています。
今日はこの部分を詳しく取り扱おうと思います。
雇用契約だといえるかはどう判断するの?
雇用契約と評価されるかどうかは、契約の名称や形式で決まらず、実際に使用従属関係がある中で労務の提供が行われているといえるかによって決まります。
具体的には、
①仕事の内容面
(a)仕事の依頼に応じるかどうかの自由があるか
(b)指揮監督があるか
(c)時間・場所の拘束があるか
(d)代替性があるか(替えがきくか)
②金銭面
時間給、欠勤の控除、残業手当を与えているか
(指揮監督下に一定時間労務を提供したことに対する対価といえるか)
③その他の事情
を総合的に考慮して判断します。
以下、ひとつずつ見ていきましょう。
①仕事の内容面について
まず、「 (a)仕事の依頼に応じるかどうかの自由があるか」ですが、これは、
・雇用の場合
→業務命令には逆らえないので「仕事の依頼に応じるかどうかの自由はない」
・業務委託の場合
→忙しいなら断れるので「仕事の依頼に応じるかどうかの自由がある」
ということです。
例えば、美容室ですと、来たお客さんに必ず対応しなければならないなら雇用に傾く事情になります。逆に、指名のお客さんだけを取っている(自分で予約スケジュールを管理できる)なら業務委託に傾く事情になります。
次は「 (b)指揮監督があるか」ですが、これは
・雇用の場合
→「指揮監督がある」(当たり前ですね)
・業務委託の場合
→対等な立場で仕事をするので「指揮監督がない」
ということになります。
例えば、美容室ですと、オーナーや上司から日常的に指示を受ける等の事情があれば、雇用に傾く事情になります。逆に、オーナーや上司が口を出すことがないようであれば、業務委託に傾く事情になります。
「 (c)時間・場所の拘束があるか」もわかりやすいと思いますが、これは
・雇用の場合
→指示された時間はいないとダメなので「時間の拘束がある」
・業務委託の場合
→お客さんが来る時間だけいればいいので「時間の拘束が弱い」
ということになります。
例えば、美容室ですと、出勤時間と退勤時間が明確に決まっている等の事情があれば、雇用に傾く事情になります。逆に、出勤時間と退勤時間が自由に決められる等の事情があれば、業務委託に傾く事情になります。
「(d)代替性があるか(替えがきくか)」は少しわかりにくいかもしれませんが、これは
・雇用の場合
→他の人でもできる仕事をしてもらうので「替えがきく」
・業務委託の場合
→その人だから依頼しているので「替えがきかない」
ということになります。
②金銭面について
「時間給かどうか」ですが、これは
・雇用の場合
→所定の労働時間で拘束するので「時間給」という考えになりやすい
・業務委託の場合
→業務ごとに報酬が出るので、「時間給」という考えになりにくい
ということになります。
「欠勤の控除、残業手当を与えているか」ですが、これは
・雇用の場合
→欠勤をすればその分の給料は減るので「欠勤の控除がある」
→所定の労働時間以上に働いたら残業になるので「残業手当を与える」
・業務委託の場合
→「欠勤の控除」や「残業手当」はない
ということになります。
③その他の事情について
上記の事情以外にも、その美容室で働くことになった経緯、美容室(会社)と美容師の関係、就業規則や退職金の定めがあったか、雇用保険に加入していたか、使用している器具や機械を美容室側が用意しているかどうか等、さまざまな事情を考慮して判断されます。
後編は裁判例を見ていきます!
裁判では、雇用契約になるのか業務委託契約になるのかを、こういった事情をすべて見た上で判断していきます。
後編では、裁判例を見ていきますので、是非とも読んでいただけると嬉しいです。
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松本 隆
弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー
早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。
横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115
監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子 撮影/幡司誠