【ヘアサロン六法】13.就業規則 -美容室経営者の法律相談

特集・インタビュー
【ヘアサロン六法】13.就業規則 -美容室経営者の法律相談

弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。第13回は「就業規則」についてです。

美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!

「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」

松本隆弁護士( 横浜二幸法律事務所)

こんにちは!弁護士の松本隆です。

第13回は「作っておきたい!就業規則」です。

「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく」をモットーに、あえて内容をシンプルにしてお送りします。

どういう場合に就業規則が必要?

就業規則は、会社で従業員が守るルールを文章にしたものです。

労働基準法89条

1 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。…(以下略)

ということで、常時10人以上の従業員がいる場合には、就業規則が必要です。

「常時」については、正社員でもパートでも常時いるのであれば該当します。

繁忙期だけ雇っている場合は「臨時」ですので、「常時」には該当しません。

そして、「10人」いるかどうかは事業場ごと(サロンごと)に判断します。

例えば、株式会社Ⅹには従業員が16人いたとします。

サロンAには10人サロンBには6人いる場合、「サロンAは10人いるので、就業規則が必要」ですが「サロンBは6人なので就業規則は不要」ということになります。

就業規則(美容室経営者の法律相談)

ちなみに、就業規則が必要なのに作らなかった場合30万円以下の罰金です(労働基準法120条1項)。

就業規則が不要なサロンでも作る意味があるの?

10人未満のサロンでも就業規則を作った方がいいに決まっています。

就業規則では、労働条件に関する詳細なルールを定めるので、労働者との間のトラブルを防ぐことができます(こうやって事前にトラブルを防ぐことを「予防法務」といいます)。

ちなみに、労働者と裁判に発展した場合、経営者側としては就業規則があった方が有利です。

就業規則があった方が解雇しやすい?

例えば、「解雇」では解雇の理由(解雇事由)が就業規則に定められているかどうかは非常に重要です。

普通解雇(債務不履行による解雇)は、就業規則がなくてもできるのですが、就業規則があった方が基準があるのでやりやすいです。

懲戒解雇(重大な秩序違反行為による解雇)は、就業規則がないとできないのが実情です。

就業規則(美容室経営者の法律相談)

従業員が複数名いれば解雇を考えなくてはならない事態は発生しますので、就業規則を作って解雇事由を定めておいた方がよいでしょう。

なお、過去の連載でも「解雇」の裁判例を扱っています。

「普通解雇」のケースですが、就業規則が定められています。

>> 【ヘアサロン六法】4.解雇 -美容室経営者の法律相談 ③裁判例を見てみよう!

就業規則は周知が必要?

事例

Xさんは、Yヘアサロンの従業員の美容師です。

Yヘアサロンは、令和6年6月に就業規則を作り、懲戒解雇の理由として「犯罪行為をした場合」などを定めましたが、Xさんに就業規則を見せておらず、Yヘアサロンの中にも就業規則を置いていませんでした。

令和6年8月、Xさんがレジのお金を盗んでいることが発覚したので、Yヘアサロンのオーナーは「犯罪行為をした場合」に当たるとして、Xさんを懲戒解雇しました。

Xさんは、解雇が無効であるという裁判を起こしました。

Xさんの主張は認められるでしょうか?

(最判平成15年10月10日を参考にして作った事例です)

結論からいいますと、「Xさんの主張は認められる」です。以下、理由を書きます。

就業規則は、周知をしなければ無効と判断されてしまうので、気をつける必要があります。

就業規則は、各サロンの見やすい場所に掲示したり、備え付けたり、書面で交付するなどして労働者に「周知」する必要があります(労働基準法106条)。

他にも、パソコンにPDFデータ等で記録し、従業員がいつでもアクセスして見ることができるようにしておけば周知しているといえます。

これに対して、口頭で説明したにすぎない場合や、従業員全員に周知していない場合には「周知」したとはいえないので、就業規則は無効になってしまいます。

今回の事例では、Yヘアサロンは、就業規則を作っているのですが、Xさんに就業規則を見せておらず、Yヘアサロンの中にも就業規則を置いていませんから、周知していたとはいえないので、就業規則は無効です。

そうすると、たとえ犯罪行為があったとしても、就業規則が無効である以上、懲戒解雇事由を定めていないことになるため、懲戒解雇はできません。

なお、就業規則を「変更」する場合にも周知が必要です。

せっかく作ったのに周知しないなどということはないようにしましょう!

就業規則(美容室経営者の法律相談)

さいごに

この記事を見た1人でも多くの方が「うちも就業規則を定めようかな」と思っていただければ嬉しいです。

就業規則を定めたいと思った方は、インターネットにあるような雛形を拾って使うよりはオリジナルのものを作成した方がよいので、ぜひとも周りの社労士さんや弁護士さんに相談してみてください。

松本隆弁護士( 横浜二幸法律事務所)

松本 隆

弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー

早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。

横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115

監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子 撮影/幡司誠

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