弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。第10回は「休憩時間」についてです。
美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」
こんにちは!弁護士の松本隆です。
第10回は「休憩時間、正しく取らせていますか?」です。
“ヘアサロン経営者向けにわかりやすく”をモットーに、あえて内容をシンプルにしてお送りします。
休憩時間のことが書いてある法律は?
「労働基準法」に休憩時間のことが書いてあります。見てみましょう。
労働基準法34条第1項
使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分、8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
つまり、まとめますと、
労働時間
①6時間より短い → 休憩なしでOK
②6時間以上8時間まで → 45分
③8時間を超える → 1時間
ということです。
よく「労働時間8時間ピッタリの人は45分休憩でいいの?」と聞かれますが、そうです!
労働時間8時間の人は「②6時間以上8時間まで」ですから、法律上は「45分」でいいんです。
ただ、1分でも残業させることになれば「③8時間を超える」ことになってしまうので、追加で15分休憩を取らせて「1時間」にしなくてはなりません。
また、実際問題として、ほとんどの会社が1時間休憩にしているので、労働時間が8時間ピッタリの場合は、休憩は1時間とするのがいいと思います。
なお、労働基準法34条1項には、休憩時間を「労働時間の途中に」与えろ、とありますので、最後にまとめて休憩を取らせるというやり方はNGです。
ちゃんと仕事から解放してますか?
労働基準法34条3項
使用者は、第1項の休憩時間を自由に利用させなければならない。
従業員は、休憩時間を「自由に」利用できます。
つまり、「休憩時間=仕事から解放されている状態」です。
自由なのだから「コンビニに行っても、外食に行ってもいい!」というのが休憩時間です。
経営者がやってしまいがちなのが、「手待時間に休憩させてしまう」という話です。
手待時間というのは、仕事自体はしていないものの、待機していないといけない時間です。
例えば、「パーマの待ち時間の20分」があるとしても、「コールドタイム(放置時間)の間に休憩しておいて」と言うのはダメです。
なぜなら、「もしパーマでやけどをしたとか何かしら対応が必要であれば動かなければならないから」です。
着替え時間も労働時間?
サロンに限らず多いのが「職場に来て準備が完了してからを労働時間にする」というもの。
衛生の観点から着替えが必要な場合、厳密に言えば、着替え時間も労働時間になるのです。
家具のイケアは2023年9月から着替え時間を出勤・退勤で5分ずつとして、「労働時間に10分を加算する」というやり方をしています。
他にも、「帰るついでにゴミを捨ててもらう」というやり方をしていると、退勤時間は「ゴミを捨てた時点」となります。
小さなサロンでは問題にならないと思われるかもしれませんが、現在は「検索をすれば必要な知識を得られる時代」です。
「自分のサロンは違法だ」と知ると、従業員の忠誠心は下がってしまうことも多くあります。
経営者の小さな気遣いや気配りこそ、従業員が長年続ける原動力になることを心にとめておいていただければ嬉しいです。
休憩を取らせていない=未払賃金に!?
本来60分の休憩時間であるにもかかわらず、休憩時間を30分しかとらせていない場合、「30分は未払賃金」となります。
例えば、時給1,400円であれば、30分700円分が未払賃金です。
これが20日(1か月)で14,000円、1年で16万8000円になります。
以前は未払賃金の時効は「2年」でしたが、現在は「3年」です。
実際に請求される可能性があるかはさておき、「毎年16万円くらい損している」と思いながら仕事をする従業員が長続きするとは思えません。
また、実際に請求されてしまった場合(退職金代わりにと思って3年分を請求するということはよくあります)は、弁護士費用もかかるので、未払賃金を支払うだけでは済みません。
これを機にご自分のサロンではしっかり休憩が取れているか、振り返っていただければと思います。
経営者の方へ
経営の上で、法律違反は従業員を甘やかなさい・甘やかすの問題ではありません。
「そんな細かいことまで?」とは思わず、小さなことでもチェックして見直していきましょう。
それではまた!
松本 隆
弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー
早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。
横浜二幸法律事務所
▽公式サイト=http://y-niko.jp/
▽TEL=045-651-5115
監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子 撮影/幡司誠
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