弁護士の松本隆さんによる連載『ヘアサロン六法』。第8回は「名誉毀損(刑事事件)」についてです。
美容専門学校で美容師法の講義を担当している松本さんが、軽妙なトークとイラストでとことんわかりやすく解説します!
「ヘアサロン経営者向けにわかりやすく!」
こんにちは!弁護士の松本隆です。
第8回は「名誉毀損ってどういうときになるの?」です。
ホットペッパービューティーなどに登録されているサロンは多いですが、ひどい書き込みに悩まされている、という方も少なくなく、中には「名誉毀損だ!」と思われることもありますよね。
そこで、ヘアサロン六法では、2回にわたって「刑事事件」と「民事事件」の名誉毀損を取り扱います。
今回は「刑事事件」の名誉毀損です。
“ヘアサロン経営者向けにわかりやすく”をモットーに、あえて内容をシンプルにしてお送りします。
刑事事件の名誉毀損罪
みなさんはSNSに書き込みをしたたけで逮捕されてしまうことがあるなんて考えたことはありますか?
刑法230条
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
簡単に言うと、「名誉毀損罪」が成立するための条件は
①公然と
②事実を示して
③名誉を下げること
例えば、SNSに不特定多数の人が見られる状況で「●●というヘアサロンの店長のAさんは3年前に痴漢で逮捕された」と書き込んだ場合、
①SNSは不特定多数が見られるので公然といえ、
②「Aさんが痴漢で逮捕された」という事実を示しており、
③「痴漢で逮捕された」ということであればAさんの名誉が下がることは明らか
ですので、名誉毀損罪が成立します。
実際にあった事件としては、
・X(旧ツイッター)で、●●というアイドルグループのメンバーの●●が違法薬物を使用している等と書き込んだケース
・YouTubeに●●という人が自分を殺害する計画を立てたという話を投稿したケース
などがありますが、上の①②③を満たすのはわかりますね。
本当のことなら名誉毀損にならない!?
書き込んだ人からよく聞く言い訳が「本当のことだから名誉毀損にはならない!」というものです。
しかし、刑法230条には「その事実の有無にかかわらず」とあります。
つまり、本当のことでも嘘のことでも名誉毀損罪は成立するのです。
なお、刑法230条の2では、名誉毀損罪で処罰されない場合の条件として
①公共の利害に関する事実であること
②専ら公益を図る目的であったこと
③事実が真実だと証明できたこと
を挙げていますが、個人間の場合に適用になることはほとんどありません。
(例えば、①は社会のみなさんの利害に関係することをいうので、政治家の不祥事などを書き込んだ場合などが該当します)
ですから、本当のことでも嘘のことでも名誉毀損はしないようにしましょう。
侮辱罪も知っておこう!
わかりやすく言うと、侮辱罪は、名誉毀損罪と違って「事実を示さない」ので、少し罪が軽いです。
ただ、以前は「拘留・過料」だけだったのですが、2022年7月より「懲役・禁錮・罰金」が加わり厳罰化されました。
刑法231条
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
「侮辱」とは、
①事実を示さずに
②名誉を下げること
例えば、SNSに、不特定多数の人が見られる状況で相手に対して「バカ、アホ、ヘボ美容師!」と書き込んだ場合、
①SNSは不特定多数が見られるので公然といえ、
②事実は示さずに
③「バカ、アホ、ヘボ美容師!」という形で名誉を下げているので
侮辱罪が成立します。
「具体的な事実を書かなければ大丈夫!」というわけではないのです。
民事事件の名誉毀損は次回に!
今回は刑事事件の名誉毀損罪をご紹介しました。
意外と知られていませんが、今ある法律は「みなさんが全部知っている」という前提で動いています。
つまり、名誉毀損罪が成立する条件を知らなくても、条件を満たせば逮捕されてしまうのです。
さて、次回は、民事事件の名誉毀損です。名誉が毀損されることによって精神的苦痛を受けた場合、民事事件の裁判で書き込んだ相手に対して慰謝料を請求していくことになります。
これはまた次回に。
松本 隆
弁護士/横浜二幸法律事務所・パートナー
早稲田大学法学部、慶応義塾大学法科大学院卒業。2012年弁護士登録(神奈川県弁護士会)。企業に寄り添う弁護士として労働問題を多く扱っており、交通事故や相続にも精通している。また、美容師養成専門学校において「美容師法」の講義を担当しており、美容業界にも身を置いている。社交ダンスの経験も豊富であり、メイクやヘアスタイルにも詳しい。2021年にはメンズ美容のモニターとして100日間チャレンジを行うなど、メンズ美容の重要性も説いている。「髪も肌もボディもケアさえちゃんとすればアンチエイジングは必ずできる」というのがモットー。
横浜二幸法律事務所
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▽TEL=045-651-5115
監修・執筆・イラスト/松本隆(弁護士) 編集/大徳明子 撮影/幡司誠