「計良宏文の越境するヘアメイク」展、ヘアメイクの仕事の多彩さと広がり示す

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「計良宏文の越境するヘアメイク」展、ヘアメイクの仕事の多彩さと広がり示す

資生堂トップヘアメイクアップアーティストである計良宏文氏の展覧会「May I Start? 計良宏文の越境するヘアメイク」が2019年7月6日~9月1日のおよそ2カ月間にわたって埼玉県立近代美術館で開催された。

公立美術館でヘアメイクアップアーティストによる展覧会が企画されたのは、日本初の快挙。来場者数は約9000人に上り、盛況のうちに閉幕した。

埼玉県立近代美術館

会場となった埼玉県立近代美術館。公立美術館でヘアメイクアップアーティストによる展覧会が企画されたのは日本で初めて

展覧会は全3章の章立て。各章は無題だが、主に次のような内容で構成された。

1章:ブランド広告や美容業界誌におけるヘアメイク作品

2章:パリコレクションなどショーにおけるヘアメイク作品

3章:現代美術家や華道家、文楽人形遣いとのコラボ作品

【1章】ブランド広告や美容業界誌におけるヘアメイク作品

 

「May I Start? 計良宏文の越境するヘアメイク」展

豪華な女優陣の起用でも話題となった資生堂「TSUBAKI」の広告作品、「ドルチェ&ガッバーナ」「イッセイ ミヤケ」などのハイブランドやファッションブランドの広告作品群は圧巻。

「HAIR MODE」や「IZANAGI」などの美容業界誌、資生堂の企業文化誌「花椿」に掲載されたクリエイティブ作品の数々も展示された。

「でんぱ組.inc」のウィッグとコスチューム

「でんぱ組.inc」のウィッグ(2011年)

フィギュアをモチーフにした「でんぱ組.inc」のウィッグ(2011年)

また、アイドルグループ「でんぱ組.inc」のウィッグとコスチュームも2011年当時の貴重なものから2019年の最新作まで陳列。ウィッグは、オタク文化を踏まえてフィギュアをモチーフにし、発泡スチロールを削って人毛を貼ったパーツをつくり、マジックテープで合体させたという。

これらを装着したメンバーを蜷川実花氏が撮影した写真も展示されていた。

【2章】パリコレクションなどショーにおけるヘアメイク作品

ヘッドフォンならぬヘアフォン。LIMI feuの2009年春夏パリコレクションのステージでは、様々な髪色のヘアフォンをモデルが着用。

LIMI feuの2009年春夏パリコレクション用につくられたヘッドフォンならぬ「ヘアフォン」

ANREALAGEの2018年秋冬コレクション「PRISM」では、ブランドオリジナルの七色に変化するテキスタイルを用いたワンピース。

ANREALAGEの2018年秋冬コレクション「PRISM」。七色に変化するワンピースに合わせて、計良氏がヘッドピースを制作

第2章は、計良氏が参画したコレクションの作品を一堂に展示。これまでに携わった国内外のコレクションから5ブランドとの仕事を制作時の資料類も加えて紹介し、ヘアメイクの視点からファッションの現在を考えることをうながす試み。

ヘッドフォンならぬ「ヘアフォン」は、LIMI feu(リミ フゥ)の2009年春夏パリコレクションのために計良氏が制作したもの。ステージでは、様々な髪色のヘアフォンをモデルが着用している様子が動画で紹介された。

また、ANREALAGE(アンリアレイジ)の2018年秋冬コレクション「PRISM」では、ブランドオリジナルの七色に変化するテキスタイルを用いたワンピースに合わせ、プリズム状光学フィルムを素材にしたヘッドピースを制作し、モデルには偏光パールを活かしたメイクを施したという。

このほか、「SOMARTA(ソマルタ)」「writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)」 「MIKIO SAKABE」のコレクションにおいて計良氏が制作したウィッグやヘッドピース、特殊メイクのパーツ、イメージドローイングなどが展示されていた。

インスタレーション《FACE》

ひとりの女性から39の顔を引き出すインスタレーション《FACE》

さらに、MIKIO SAKABEのファッションデザイナー・坂部三樹郎氏とのコラボレーションによる新作映像インスタレーション《FACE》を展示会で発表。

計良氏がヘアメイクを、坂部氏が衣裳のスタイリングを担当し、「ひとりの女性の顔が、ヘアメイクの力で多彩な女性像に変化するさま」を39台のディスプレイで表現。自由な創造力と卓越した技術によって、ヘアメイクの力と可能性を示した。

【3章】現代美術家や華道家、文楽人形遣いとのコラボ作品

計良氏制作の文楽人形

計良氏が頭(かしら)を担当した文楽人形

第3章では、現代美術家や華道家、文楽人形遣いとの多彩なコラボレーションを一挙に紹介。

名画や映画女優に自ら扮した写真を撮る現代芸術家である森村泰昌氏の「森村泰昌展 ベラスケス頌:侍女たちは夜に甦る」では、計良氏がヘアを担当。文楽人形遣いの勘緑氏とは、計良氏が文楽人形の頭(かしら)を制作。華道家・写真家の勅使河原城一氏とは「花」を題材とした共作に取り組んでいる。

様々なジャンルのクリエイターとの協働により、ヘアメイクの概念を刷新していく計良氏の活動の軌跡をたどる展示となっていた。

ヘアメイクライブ

計良氏によるヘアメイクライブも開催

期間中はイベントも盛りだくさんで、ヘアメイクライブ、文楽人形の頭(かしら)の制作、トークライブ、ギャラリーツアーなどが行われた。

美術館によると「普段は美術館に来ない人、特に若い人たちにも足を運んでいただけた」という。

ヘアメイクの既成概念を超えて様々な領域のアーティストと共同制作していることが評価を受け、公立美術館での開催となった展覧会だが、「越境する」というタイトル通り、既成概念や領域だけでなく、来場者についても越境したようだ。


取材後記

計良宏文氏の仕事道具

計良宏文氏の仕事道具

編集子がおじゃました最終日も、芸術科の学生とおぼしき若い女性、美容師さん風の若い男性、上品な中年女性と様々な方が作品に見入っていました。

第2章のホールでは、計良氏の仕事道具も間近で見ることができたのですが、実際にお使いのブラシや筆を全て提供したそうで「この2カ月ずっと人から道具を借りて仕事しているんですよ」と笑う姿が印象的でした。

日本で初めて、公立美術館で開催されたヘアメイクアップアーティストによる展覧会。多岐にわたるコラボ、多彩な作品の数々に、計良氏の、そしてヘアメイクアップアーティストの活動の幅広さに圧倒される思いです。

 

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