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あくなき美の探究、パナソニックのテクノロジーはなにが特別なのか

日本有数の家電メーカー、パナソニック。創業の1918年(大正7年)より育まれた確かな技術力は美容の分野でも発揮されています。その技術力のみなもとである技術者や研究者は何を考え、どんな努力をしているのでしょうか?

インドネシア・ジャカルタでサロンを経営する美容師・坂手遼治さんと共に、滋賀・南草津の研究所を直撃。顔の片方のひげだけに光美容器を使って試すなど、みずから体を張って開発しているという功刀公太さんにその熱意や工夫を聞きました。

①パナソニック美容家電の技術者は「自律自走できる人」が多い

実はとっても長いパナソニックの美容家電の歴史。日本初の国産ドライヤーはパナソニック(当時は松下電器)製です。

1937年(昭和12年)に発売されたアタッチメントプラグ式のホームドライヤー「#3930」に「そんな昔から?ケース入りとは高級品だったんですね」と坂手さんも興味津々。

ホームドライヤー1号機「#3930」
ピストル型ドライヤー「EH58」

戦後の1962年(昭和37年)には、ピストル型の「EH58」が登場。握りやすく髪に当てやすい機能的なデザインが支持を集めました。

2000年代にはマイナスイオンやナノイーに着目し、快進撃を繰り広げたのは記憶に新しいところ。「ナノケア」シリーズの国内累計販売台数は、2023年3月時点で1600万台を超えています。

日本で初めてドライヤーをつくったのはパナソニック(松下電器)。長い歴史に驚く坂手さん(写真手前)

その後も電動シェーバーにスチーマーや美顔器といったフェイスケア製品、冷却システムを搭載することでハイパワーながらも「刺激レス」(※刺激が少ないこと)を実現した「スムースエピ」という光美容器など、パナソニックの挑戦は続きます。

数々の美容家電を研究・開発している拠点があるのは、滋賀・南草津。工場もある南草津拠点の敷地面積は53万平方メートルと広大で、ここに多くの技術者が集まり、よりよいプロダクトづくりに精を出しています。

功刀さんが所属する、いわゆる“新機能開発部隊”の「技術開発課」は約40人。功刀さん自身は、2023年5月にシリーズ最新作の「光エステ スムースエピ  ES-WG0A」をリリースした“光”のスペシャリストです。

ふだんあまり会う機会のない研究や開発をする人たち。どんな人が多いのでしょう?「チャレンジ精神が旺盛で、自分なりの仮説を立てながら効果検証まで自走できる人が多いですね」と功刀さん。

「誰かに頼ったら最適解が得られる、という仕事ではないんです。自力で解までたどり着かないと。そのためにがんばって脳みそをフル回転させることが得意な人たちが集まっています」

「パナソニック美容家電の研究所には、自律自走できる人が多いですね」と功刀さん

加えて、「きっかけや原動力になるからなのか、自分の体にコンプレックスを持っている人が案外いるなあと」。

功刀さんも、その一人。いまはキレイに整えられているオシャレなあごひげをさすりながら「僕も昔はひげが濃いことに悩んでいて」と語り、技術のブラッシュアップに奔走する熱意の源泉を垣間見せました。

すると、「僕も昔は濃かったけど、美容師になってすぐにムダ毛をケアしたので首より下はツルツルですよ」と坂手さん。コンプレックスだったわけではなく、最初の店のオーナーに「わき毛を手入れしないまま、お客さまの前に出るなよ」と言われたそう。

「夏はTシャツを着たいし、腕や胸元にもじゃもじゃ毛があるのを苦手に思う女性は多いしで、じゃあやるかと。美容師はお客さまとの距離が近いから、毛が蒸れて臭ったらよくないしね。ケアしたら気楽です」。

意外な美容師さんのムダ毛ケア事情に、功刀さんは何度も大きくうなずいていました。

功刀さんが開発した「光エステ スムースエピ ES-WG0A」を顔に当てて試す坂手さん

②仮説を立てる、数式に当てはめる、当たり前を疑う

功刀さんは、2014年にパナソニックへ入社。2018年にビューティ関連の技術開発部門へ異動し、ヘアースタイラーの担当を経て、2019年よりIPLという光を使ったムダ毛ケア技術の開発を担当しています。

ユニークなのは、みずからのあごひげでIPLの効果を試したこと。功刀さんは「右半分に照射したら、3カ月ほどで目立たなくなって。もう左半分は相変わらずの青ひげでしたが、開発の方向性は間違っていないと感じることができました」と苦笑しつつ手応えを語ります。

「美容師も自分の髪でヘアカラーを試したりしますよ」と話す坂手さんに、功刀さんも「メリットもリスクも自分の体で試すからこそ、攻めの技術開発ができるんですよね」と共感を寄せていました。

「メリットもリスクも自分の体で試すからこそ、攻めの技術開発ができるんですよね」

思えば、功刀さんが「自分で試す」のは昔からです。茶碗や箸を新しく買うにしても「使い勝手がよいかどうか」が選定基準。なんだか、プロダクトデザイナーの考え方に近いですね。

パナソニックに入社したのも「苦手な洗濯をもっと合理的にしたくて、洗濯機の改良に携わりたかったから」。仕分けて洗濯機に入れる、終わったら干す、乾いたらたたんでアイロンをかけてしまう……という一連の工程が面倒だったそう。さて、そこからが理系の技術者。面倒なことは技術で便利にしてしまおうと開発を始めます。

開発過程では、闇雲にトライ&エラーを繰り返すのではなく、「仮説を立てる」「数式に当てはめる」ことを大切にしているという功刀さん。

それまでの研究で、ひげには光美容器の効果が出やすいエリアと出にくいエリアがあることがわかっていました。そこで功刀さんは「各エリアの生え方にはこんな特徴があるのでは」と仮説を立て、「効果の出にくいエリアのひげには、これくらいの出力値で当ててみよう」と数式に当てはめてみたのです。そうすることで、研究が一歩前に進むといいます。

そして「当たり前を疑う」こと。従来品に機能を上乗せしたら課題が解決するわけではない、というのが功刀さんの持論です。「プラスアルファするだけでどうにかなるんだったら、過去の技術者たちがとっくに決着をつけていたはずですよ」。

「そうじゃなくて“今の姿って本当に最適なの?”とか“どうしてこうなったんだっけ?”と、これまで培ってきたノウハウに対してもテコ入れしないと本質に近づけない。そういう改善をしないと、新しい価値は生み出せないんです」

>> 次のページ/③「パナソニック史上最高のハイパワー」と「刺激レス」を両立したスムースエピ

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