美容師さんの働く環境も年々改善され、育児休業を取得するスタッフが増えています。
入社間もないスタッフが産休や育休を取るケースも多いことに、正直驚いているほどです。入社した時には妊娠していて、入社3カ月で産休に入る方もいました。
雇用する側のサロンオーナー様のご意見と併せて、産休・育休をスタッフに取得してもらうメリットについて解説していきます。
監修・文/中嶋有美(社会保険労務士)
①すぐ産休・育休に入るスタッフを雇用する理由
近年目立つのが、長年働いたスタッフが産休・育休を取得するのではなく、出産を控えたスタッフを新たに雇用するケースです。
「すぐ産休・育休に入ってしまうのに、採用する理由は何か?」と疑問に思い、複数のオーナー様に理由をお聞きしました。
〇「いまは採用難なので、産休・育休を取っても復帰してくれるなら助かる」
〇「育休を取得した後は、扶養の範囲内で働きたいというスタッフも多く、人件費の面でもサロンにメリットがある」
新店舗の出店、エステ事業など新しい分野への取り組みを考えているオーナー様からは次のような意見も。
〇「短期的にはサロンのメリットはない。それでも産休・育休を魅力と感じる経験者を採用できれば、一緒に働くスタッフへの教育面でメリットがある」
もちろん、元々いるスタッフの取得にも前向きです。
〇「求人を新たに出すより、知っている人を継続して雇用したい」
とのです。
〇「美容室は産休・育休が取れない、という現状を変えていきたい」
〇「産休・育休を取れないと、美容師がキャリアを上手く積みあげられない」
〇「産休・育休を取れずに美容師を辞める人が出ることは、美容業界にとってもデメリットではないか」
と語っていらっしゃいました。
〇「産休・育休中は給与の支払いが不要なので、デメリットはない」
これもポイントです。十数年前は産休中の社会保険料が必要でしたが、法改正によって雇用側の負担はなくなっています。
なかしま社労士事務所で育児休業給付金の申請をしている方の人数を見ても、2020年は2件だったのが、2021年が7件、2022年も7件です。
これは、育児休業給付金の申請者の件数です。弊所を通さず、オーナー様がご自身で申請している場合や、育児休業給付金の申請対象外(週の労働時間数が20時間未満勤務または勤続1年未満など)の方は含まないため、実際はもっと多いかと思います。
データから見ても、育児休業制度の規程がある割合は、5人以上の事業所で約8割に上ります。すでに産休・育休は、取得できて当然のものになっていると言えるでしょう。
②美容学生は何を重視する?
学生が就職活動で何を重視するかのアンケート結果があります。リクルートが美容学校生を対象に行ったものです。
やはり「人間関係が良好そうであること」「福利厚生が充実していること」「経営が安定していること」が重視されます。そして約半数の学生が「結婚・出産しても続けられる条件であること」を「とても重視した/重視した」としています。
学生ですから結婚・出産ともに差し迫っているわけではありませんが、多くの学生が長期の勤続を念頭に置いていることがうかがえます。「育児休業が取得できる」ことは、新卒の求人にも有効だということです。
③育休取得後の実態は?
なかしま社労士事務所で2021年に育児休業給付金を申請し、その後に復帰した方は7人中4名です。このうち3名は短時間勤務の正社員として、残り1名はパートタイマーでの復帰です。
育児休業の期間中に第二子を妊娠され、第一子の育児休業、第二子の産前産後休業、第二子の育児休業と連続して取得されている方もいます。雇用するサロン側の負担はというと、先に述べた法改正により、いまは産前産後・育児休業期間とも社会保険料は全額免除されます。
また、育児休業の後、パートで復帰して数年後に短時間勤務の正社員になるなど、お子さまの成長にあわせて働き方を変えていく方もいます。育休から復帰した後は、新人教育に力を入れて教育担当者として活躍されている方もいらっしゃいます。